天使とジャンプ

クリスマスをビエンチャンで過ごしたために見れなかったNHK「天使とジャンプ」(ももクロ主演のファンタジードラマ)の録画を昨夜ようやく見ました。脚本は「てっぱん」の今井雅子さん。NHK「天使とジャンプ」のウェブサイトに以下のような素敵な記事を書かれています。

このドラマの「原作」、ももクロの5人は、クリスマスみたいな女の子たち。
彼女たちを見ていると、プレゼントを受け取った気持ちになる。
そして、彼女たちは、出会った人たちをプレゼントにしてしまう。

社会現象としてのももクロ」に興味を抱く者として、今井さんのような第一線で活躍されている方が次々にモノノフ(ももクロのファン)と化していく過程にとても興味をひかれます。笑福亭鶴瓶さん武部聡志さん(コクリコ坂の音楽を担当した方)、ギタリストの布袋寅泰さん、歌手の加藤いづみさん、最近ではスケーターの村主章枝さんなど、共演した人を次々にモノノフに変えていくお友達力は、驚異的です。南総里見八犬伝以来のサブカルチャーの伝統とか、「セーラームーン」を転機に女の子が男の子と同じ夢を見れる時代が来たことなど、これまでのわたしの分析ではまだ不足している何かがそこにあると思います。

まずはストーリーを要約しましょう。「天使とジャンプ」に登場するのは、「みんなに笑顔を届けるために地上に舞い降りた天使」として事務所が売りだしているアイドルグループのTwincle5(リーダー以外はももクロの4人)。2年目のクリスマスコンサートは盛況でしたが、その後ヒットに恵まれず、3年目のチケットはまったく売れません。その苦境を前に、リーダーが脱退してロンドンに留学。そしてTwincle5はあえなく解散。残されたメンバー4人は、共同生活をしていたアパートを出て、別々の道へ。しかし、ファンの笑顔が忘れられず、あきらめきれない気持ちをかかえていました。その4人の前に、突然あらわれては姿を消す不思議な少女カナエが登場し、このままでいいの?と問いかけていきます。カナエに導かれて、再び集い、Twincle5再結成に向けて動き出した4人。アパートの大家さんから、部屋はないが廃業した公衆浴場なら寝泊まりしても良い、と言われ、「星の湯」を掃除して、宿泊所・練習場を作り、1か月後のクリスマスライブに向けて頑張ります。ライブ会場がとれないという困難に直面しますが、カナエの言葉をヒントに、浴場をライブ会場に改造し、近所にチラシを配って客を集めます。いよいよあとは、練習を残すのみ。しかし、Twincle5のヒット曲を4人で歌ってみると、そこに違和感が生じます。「天使ってどうなの? 恥ずかしくない」と言いだしたミーニャ(しおりん)に、みんな絶句。自分たちの力で歩き出した4人にとって、偽物の羽をつけてみせかけだけの天使を演じるのは、もはや滑稽に思えたのでした。そこにあらわれたカナエが「天使が天使を恥ずかしがってどうするの」と意味不明の発言。実は、カナエはTwincle5の歌声に惹かれて地上に舞い降りた本物の天使でした。しかし、地上に降りたために羽を失い、空に戻れなくなっていました。彼女もまた、「みんなに笑顔を届ける」という目標に向かって、地上での自分の生き方を探すという壁にぶつかっていたのでした。

この物語は、Twincle5再結成をめざす4人の少女と、地上に舞い降りて羽をなくした天使の成長の物語。仲間と出会い、成長するという、幾度となく描かれてきた黄金のテンプレートにもとづく物語です。ユニークなのは、アイドルたちが偽りの天使の翼を捨て、本物の天使が失った翼への未練を断ち、翼に頼らずに自分たちの道を切り開くという展開ですね。

エンディングは、「コ」の字型に改造された浴場の狭い舞台をかけまわり、モップ、タオル、風呂桶などを使いながらミュージカル風に歌い、踊る新生Twincle5(=ももクロ)のステージ。ももクロは今や5万人規模の会場を満席にするトップアイドルに登り詰めましたが、小さなステージでのパーフォーマンスもとても魅力的ですね。とくに杏果の切れのあるダンス、しおりんのタオルと風呂桶を使ったパーカッション、あーりんのクラシックダンスが印象に残りました。この子たちは、ミュージカルができますね。いま高校生の二人が卒業したら、ももクロはミュージカルに挑戦するのではないかと思います。

さて、「Jump!!!!!」と題されたこの新曲の中に、「ほんとは見えない翼 きみも持っているでしょ」という歌詞があります。脚本家の今井さんは、ここにももクロの最大の魅力を見出したのだと思います。これまでの多くのアイドルと違って、ももクロの強みは、「見えない翼」、つまり内面的な魅力にあると思います。笑福亭鶴瓶さんはこの点を「らしく、ぶらず」と表現されています。「アイドルらしく、アイドルぶらず」、それがももクロの良さだと(http://woman.infoseek.co.jp/news/entertainment/cyzo_20131116_479251)。また、「なんかこの子たちファンなんかに応援されて本当に喜んでね?感」と表現されている方もいます(http://d.hatena.ne.jp/contents-consultant/20131225/1387925602)。

私なりの表現を使うと、「共感力」です。心理学でいうエンファシー(emphathy)。シンパシー(symphathy)は自分と相手を一体のものと感じて、相手の気持ちや感情を推し量る感情の動きですが、エンファシーは自分を失わず、相手の立場にたって相手の気持ちや感情を推し量る感情の動きです。ももクロのメンバーはこの共感力が非常に強い。「自分を失わず」というところがポイントです。彼女たちは、自我がとてもしっかりしている。だから、国立2dayライブをサプライズ発表され、感激のあまり涙を流したあとでも、しっかりと自分の言葉で自分の気持ちを表現できます。そしてそのときに、ファンひとりひとりと握手したいとか、いつも支えてくれるスタッフに感謝したいというような気配りのある言葉を心から発してくれるので、ファンもスタッフも、この子たちと一緒に国立をめざそうという強い気持ちを抱くのです。この共感力の強さが、共演者を次々にモノノフに変えていくお友達力の源泉だと思います。さらに、彼女たちは身体的表現行為を日常としているので、恥ずかしがらずに共感を全身で表現します。「秋桜」をうまく歌えたアーリンが、さだまさしに抱きついて喜んだのがその良い例。ここまで全身で喜んでもらえると、そりゃぁ、嬉しいですよ。村主さんも楽屋裏で抱きつかれて、「恋に落ちた」とつぶやいていらっしゃいます。

このような共感力は、人間みんなが持っている能力です。ももクロのメンバーは、デビュー以来、互いにそれを高めあってきたのだと思います。

そういう「見えない翼」を持ち、そして「ほんとは見えない翼 きみも持っているでしょ」とみんなに呼びかけるももクロは、2014年にもさらに大きな飛躍をするでしょう。楽しみですね。

ももクロの「共感力」に魅入られた人たちのコメント: