三丁目の夕日第3作

太平洋上(AA機内)でやっと見ることができた。評判が良いので映画館で観たいと思ったのだが、今年の1-3月のスケジュールの中でその時間を見つけることはとうとうできなかった。
第3作は、六ちゃんと淳之介の自立の物語だと聞いていたが、なるほどこういう筋書きだったか。泣かされた。もう、ずっと涙腺が崩れっぱなし。
それにしてもこの懐かしさ、心地よさは、いったいなぜだろうと考えてしまった。確かに、私はこういう時代を生きてきた。経済が成長し、みんなが地位や富を求めているように見える時代の中で、実は本当の幸せは、地位や富を得ることではないはずだという時代の空気が、確かにあった。
私たちの世代ならだれでも知っている歌のひとつに、「翼をください」がある。「いま、富とか、名誉ならば、いらないけど、翼がほしい・・・」で始まるこの歌は、私たちの世代が生きてきた時代の雰囲気をよく伝えるものだ。
戦後の価値観の転換を経験した世代が上にいた。彼らの中には、自由に生きようとする若い世代に対し、古い価値観をおしつける人もいれば、「革新的」な考えで圧力をかける人もいたが、若い世代の可能性を認めて、おおらかに接してくれる大人がどこかにいた。そんな時代に生きたので、週末には植物採集に明け暮れる中学・高校時代を送ることができたし、たいして授業に出ずに大学を卒業し、助手になってからは、業績にならない植物レッドデータブックの編集に時間を割くこともできた。
六ちゃんが恋をした若い医師は、患者がやくざや娼婦であっても、報酬なしで診療活動をする、富や名誉を求めない人物として描かれている。一見現実にはいそうにない人物だが、私たちの世代が生きてきた時代には、このような奉仕活動は、決して珍しくなかった。富や地位よりも、患者に感謝されることが嬉しいという価値観は、私が若い時代を通じて得た価値観そのものである。この時代を生きることができて、本当に良かった。
もし、今の時代にこのような価値観が失われているとすれば、それは私たちの世代の責任だ。今の日本の社会状況は一見希望が持てないように見えるが、愚痴っていても何も変わらない。六ちゃんや淳之介の自立を見守る大人たちのように、私たちの世代が、次の世代にバトンを渡す仕事をしっかりやる必要がある。
それにしても、山崎貴監督は、良い仕事をしている。脚本・VFXもすばらしいが、キャスティングが見事だ。六ちゃんを演じる堀北真希は、第1作当時は駆け出しの高校生だった。役にもさほど恵まれていなかった彼女の抜擢は大成功で、彼女はこのシリーズを通じて国民的女優に成長した。薬師丸ひろ子をカンバックさせてくれたのも嬉しい。私たちの世代にとっては忘れられない女優だ。彼女がお母さんかと最初はとまどったが、今や彼女ぬきの「三丁目」は考えられない。堤真一の鈴木オート社長役も最初は意外性のあるキャスティングだったが、今やすっかり当たり役になっている。そのほか、吉岡秀隆小雪もたいまさこ三浦友和らのレギュラー陣は、いずれも当たり役。おそらくみんな、このシリーズに出て良かったと思って仕事をしており、第一作当時に比べて本当に良い「家族」になっている。第4作が本当に楽しみだ。
ダラス空港にて