ブラジル〜屋久島〜伊都キャンパス

ブラジルは遠かった。私が共同議長をつとめるDIVERSITAS bioGENESISの会議が開かれたのは、ボニート。「ボニート」とはスペイン語で「美しい」という意味。有名な大湿地パンタナルの南側にある水源地帯で、清流が縦横に走る、ほんとうに美しい場所だ。サンパウロ空港から空路でカンボグランジェに飛び、そこからさらに陸路で4時間かかった。ダラスまで1日、ボニートまでさらに2日、合計2日間かけてたどりついたボニートで、翌日は野外に出たいと思っていた。しかし2日間の長旅の疲れで昼すぎまで寝てしまい、さらに午後には翌日からの会議の準備。結局、翌日からの2日間の会議に出ただけで、美しいフィールドはまったく見ずに、また2日間をかけて日本に戻った。
福岡空港に夕方についたあと、そのまま鹿児島行きの最終便にのり、鹿児島空港へ。そこで一泊し、翌日の始発便で屋久島にわたり、世界遺産地域科学委員会ヤクシカワーキンググループの議長をつとめた。この会議では、昨年の屋久島でのシカ捕獲数が、2606頭と判明。しかし、横軸にわな設置のべ日数をとり、縦軸に捕獲数をとって、各地のデータをプロットすると、一昨年と昨年で捕獲効率に有意差はなく、わな設置のべ日数で補正した捕獲数はどの場所でもほぼ同じとみなされる。したがって、シカが減っているとは考えにくい。むしろ、増加を抑えきれていない可能性が高い。一方で、絶滅危惧種への食害がこれまで問題化していなかった南部地域でも、食害が深刻化した。南部ではこれまでシカがほとんど捕れていなかったが、昨年は捕獲数が急増した。少なくとも南部では増えていることが確実だ。このような状況をふまえ、屋久島の生態系をどう維持・管理していくか、正念場である。
その後ようやく福岡に戻り、日程はやや落ち着きを取り戻している。この1週間は、伊都キャンパスでの用事が続いている。総合科目「新キャンパスを科学する」の授業(水曜)、環境ワーキンググループの会議(木曜)、そして今日(土曜)は、七大戦開会式。九大生協で七大戦をバックアップしている関係で、3時半からの開会式とそのあとのレセプションに出る。その後、最終便で上京して、あすは東京で終日会議。
水曜日にひさしぶりに「生物多様性保全ゾーン」を訪問した。福岡グリーンヘルパーの会で維持している水田の畔で、今年もミゾコウジュが花を咲かせていた。ミゾコウジュは金糞池という用地内にあったため池のほとりに生育していた。金糞池が造成で消失するため、保全ゾーンに何度も移植したが、失敗を重ねた。5−6月に開花し、7月に種子を散布したあと、すぐに発芽し、冬までロゼットの状態で成長する。したがって、夏から秋にかけて、草が茂る時期に、半裸地的な環境を必要とする。改修されていないため池の縁の赤土なら、水位の変動とともにこのような半裸地的な環境が夏から秋にも維持される。そこの生えていたのだが、保全ゾーンではすぐに夏草が生い茂るため、草刈りをしない限りミゾコウジュは存続できない。移植個体群は草刈りによってかろうじて維持されているが、水田のあぜ道に定着すれば、水田利用とセットで保全がはかれるかもしれない。