「生み出せ!“危機の時代”のリーダー」の討論に脱力

明日からの海外出張をひかえ、今日は実家で両親と食事をとった。食事の間に、NHKスペシャル「生み出せ!“危機の時代”のリーダー」の討論が耳に入ってきた。あまりの空疎さに、脱力した。
まず、どんな番組かを説明しておこう。
http://www.nhk.or.jp/special/onair/120121.html
には次のように書かれている。

被災地で繰り広げられた、冷静沈着かつ勇気ある救助・支援活動。海外からも賞賛され、改めて「現場力の高さ」を内外に示した日本。しかし、中央に目を転じれば首相は短期間で次々と交代、大企業トップを巡る不祥事が相次ぎ、海外メディアからは「leaderless Japan」と揶揄されている。一方で、被災地では従来のしがらみに縛られない、斬新な発想で復興に取り組む「真のリーダー」が育ちつつある。この国の難局を打開できるリーダーを生むためには何が必要なのか?
「なぜ日本にはリーダーが育たないのか」「国際社会に通用するリーダーをどう育てるのか」「スティーブ・ジョブズのような傑出した起業家を生み出すには何が必要か」など、有識者と市民がスタジオで徹底討論する。

最初にプレゼン(問題提起)をされたのは、サムソン電子につとめた経験のある台湾の技術者。サムソン電子をグローバル競争での勝者に導いたイ・ゴンヒ元会長をとりあげて、徹底したリサーチをもとに勝てる戦略を提示して、トップダウンで強いリーダーシップを発揮したと絶賛。日本にはこのようなリーダーはいないかのような議論だったが、日本にもこのようなリーダーはいるし、このようなリーダーがつねに成功するとは限らない。
次は、Google日本法人元代表取締役社長の辻野さん。この人が書いた「グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた」は読んだことがある。何をおっしゃていたか、正確に思い出せない。リスクをとり、失敗から学ぶことが大切とか、そういうごくふつうの内容だったと思う。
次は、河添恵子さん。国際的リーダー育成に携わってきた人という紹介だったが、http://kkuniversal.blog34.fc2.com/ によれば、ご自分では「ノンフィクション作家」と書かれている。まず、学力だけを磨いた日本のエリートは世界では通用しないと断言。「私は根拠なく物事を断定します」と全視聴者に向かって宣言されたのだ。びっくり。そのうえで、トルコやカナダのエリート教育を紹介して、寄宿舎生活で異文化や違う考えにふれることが大事だと主張し、結論として、エリート候補の若者を国費で集団留学させる提案をされた。
このへんで、もういいや、という感じ。食事も終わったので、続きは見ていない。
討論を通じて、日本には協調性を重んじる文化が強く、みんなと違った選択をするのがむつかしい、という点が強調されていた。こういう面があることは否定しないが、一方で、バンカラを重んじる文化もある。出る釘を打ちつつも、それでも出る釘は、おおらかに伸ばす文化も昔からあるのだ。
政治的リーダーの不在については、文化を論じるよりも、制度面を検討するほうが重要だろう。今の政治の低迷は、長年続いた自民党流の派閥制度が時代に合わなくなったことに加え、小選挙区制導入の失敗という側面があると思う。二大政党が候補者を決めるときに、政治的能力の高さよりも票がとれるかどうかを重視する制度では、リーダーどころか、政治的能力のある政治家すら育たない。
国際的リーダーは、日本にもいる。国際的リーダーがいなければ、日本がこれだけ各方面で国際的に活躍することはできない。現時点では、中国や韓国よりもその数は多いと思う。ただし、中国や韓国に比べ、日本社会全体がやや内向き傾向にあるとは思う。海外留学する学生数の増加率で比べれば、中国や韓国のほうが明らかに勢いがある。社会全体で、もっと世界に目を向けるようにしたい。
私見では、日本は世界(とくにアジア)への奉仕国家として生きるのが良いと思う。日本は、食料自給率4割、木材自給率2割の国である。海外諸国(とくにアジア諸国)の存在ぬきには、食生活すら成り立たない。だから、日本人は、日本人の幸福だけでなく、世界全体の幸福を考えて生きる必要があると思うのだ。リーダー論にしても、「この国の難局を打開できるリーダーを生むためには何が必要なのか?」というNHKスペシャルのテーマ設定は内向きの発想だ。「この世界の難局を打開できるリーダーを生むために、私たちには何ができるか?」というような視点で議論を組み立ててほしい。そうすれば、違った答えが見えてくると思う。
明日は、バンコクに飛ぶ。