九州大学共創学部がめざすもの
で紹介されているとおり、文部科学省の大学設置・学校審議会による審査の結果、九州大「共創学部」の設置が認められました。
えっ? 「共創学部」って何?
と思われた方も少なくないでしょう。私は決断科学大学院プログラムのコーディネータとして忙しくしているので、「共創学部」設置に向けてのWGには加わりませんでしたが、構想段階で提案をしたことがあります。その提案とは、Future Earthという新しい科学を軸に据え、持続可能な開発目標(SDGs)達成をになうグローバル人材を養成する学部にしてはどうかというものです。私は「地球未来学部」という名前のほうが、英語にしたときに国際的にアピールできて良いと思ったのですが、説明を受けた文部科学省の担当官が、えっ? Future Earthって何? と言ったとか言わなかったとか、その事の真偽は問わないことにして、ともかくまだFuture Earthの知名度が低く、SDGsも今ほど知られていなかったという状況の中で設置準備が進みました。その結果、「共創学部」という学部名になったのですが、「共創」は、Future Earthが重視しているCo-designの訳です。科学者が社会のさまざまなステークホルダーと協力して、社会的問題解決に貢献する新しい科学を発展させようというFuture Earthのビジョンをあらわした表現です。
上にリンクした九州大学ウェブページには、
「大規模地球変動、生物多様性の減少、宗教・民族対立など、人類は今、地球的・人類的とも言える諸課題に直面しています。こうした問題の多くは、種々の要因が複雑に絡まりあって生じているために、一つの学問体系だけでは、根本的な解決に結びつけることが困難です。」
と書かれています。この文章は、Future Earthの状況認識そのものです。「生物多様性の減少」も入っていて、まるで私が書いた文章のようですね。
というわけで、私の理解では、「共創学部」がめざすビジョンは、上記の私の提案にかなり近いものだと思います。
「共創学部」は、九大全学のさまざまな学部の協力で作られるので、強いビジョンを前面に出すというのはむつかしく、そのために「共創学部」というややあいまいな学部名になったのだと思いますが、その「建学の精神」は、Future Earthや持続可能な開発目標(SDGs)に深く関係しています。
実際に学部の教育が動き出すと、この性格はさらに鮮明になっていくだろうと予想しています。
というわけで、「共創学部」に関心をお持ちの方には、その背景にある文理融合型の新しい科学について知るために、3月に私が出版した「決断科学のすすめ 持続可能な未来に向けて社会をどうすれば変えられるか?」を一読されることをお勧めします。高校生にも読めるように、わかりやすく書きました。コラムでスター・ウォーズやももクロをとりあげていますが、スター・ウォーズの話は5.3でとりあげる神話学研究の伏線ですし、ももクロの話題は、6.2 どうすればリーダーはメンバーを幸せにできるか? に関係しています。ぜひご一読ください。
第一部 人間の科学:人間とはどんな動物なのか?
第1章 進化的思考−人間と社会の理解の礎
1.1 生命の進化に学ぶイノベーションの原理
1.2 人類はどうやって暴力を減らしてきたのか
1.3 人類はどうやって自由を手にいれたのか
1.4 今の日本には「遊び」が足りない!
1.5 学力の意味−試験は何を選んでいるか?
コラム1:誰もがスター・ウォーズに心奪われる必然的理由 魅せる物語の共通点
第2章 リーダーシップ
2.1 「優れたリーダー」はなぜ少ないのか?
2.2 リーダーのあなたにビジョンと情熱はあるか?
2.3 「リーダー脳」は手抜きしない! 科学的思考の鍛え方
2.4 答えを導く「発想力」を手に入れる!
2.5 リーダーに必要な本当の思考力 正解のない問題を考える力とは?
コラム2:王道プロジェクトマネジメントが実を結んだももクロ主演『幕が上がる』
第3章 決断を科学する
3.1 運が左右する世界で成功する秘訣とは?
3.2 なぜ男性は美女の誘惑に弱いのか? 決断を支える理性と直感の役割
3.3 悲しみを喜びに、失敗を成功に変える方法
3.4 予測可能な失敗はどうすれば防げるか? 日本陸軍の失敗に学ぶ
3.5 日本が取り組むべき最優先課題は何か? 首相のリーダーシップと決断力
コラム3:みんな、いつか個性に代わる欠点を持っている
第二部 社会の科学:私たちはどこから来て、どこへ行くのか?
第4章 私たちはどこから来て、どこへ行くのか?
4.1 6万年前に人類が手に入れた脅威の能力とは?
4.2 過去6万年間、人類の進化は加速した
4.3 ヨーロッパの人たちはなぜ近代化の先駆者になれたのか?
4.4 一目瞭然!この200年で世界はどう変わったのか
4.5 政治的対立をどうすれば乗り越えられるか?
コラム4:SEALDsが浮き彫りにした「個」と「忠誠」の相克
第5章 持続可能な社会へ
5.1 日本人こそ知っておくべき熱帯林消失の現状
5.2 シカの増殖を抑えていたのはオオカミではなく人間だった
5.3 神話なき時代:近代の苦悩を私たちはどう乗り越えるか
5.4 地球の危機が生み出した国際協力
5.5 地球の未来をかけた科学者たちの挑戦
コラム5:日本とメキシコが歩んだ正反対の150年
第6章 社会をどうすれば変えられるか
6.1 どうすれば対立を乗り越えられるか?
6.2 どうすればリーダーはメンバーを幸せにできるか?
6.3 EU分裂の危機は、人間の生物学的宿命なのか?
6.4 社会主義はなぜ失敗したか? 日本国憲法のルーツをたどる
6.5 どうすれば社会的ジレンマを克服できるか? 社会は災害を超えて逞しくなる
違いを認め合う社会へ