ヒックとドラゴン

既にクラシックの風格を持つ傑作いくらほめてもたりないほどの傑作、「トイストーリー3」よりも面白いという評判を聞いては、見ないわけにはいかない。というわけで、8月末のワークショップの準備が終わった時点で、レイトショーを見てきた。確かにすばらしい。ストーリーも良いし、3D映像のドラゴン飛翔シーンは見事。ドラゴンのネコ的習性は、ネコ好きにはたまらない。ヒック、アスティら登場人物のキャラクターも魅力的だ。ドラゴンを敵視する父親に対して、ドラゴンがバイキングを襲うのはバイキングがドラゴンを殺すからだと反論するヒック。アメリカ映画でこのシーンが描かれたことにも感銘を受けた。しかし、そのような社会的背景は度外視して、心から楽しめる映画だ。ヒック、アスティら子供たちが、ドラゴンを操って大人たちを助けに出かけ、ボスキャラと戦うシーンは、スリル満点。ボスキャラを倒してハッピーエンド、ではなく、ヒックがあるものを失うラストシーンにも、唸らされた。
ただし、観終わった時点で、何か違和感が残った。それが何かはすぐにはわからなかったが、しばらくして、劇場版「ドラえもん」との類似と相違に思い至り、違和感の原因がわかった。
子供たちが、ドラゴンを操って空を飛び、大人たちのピンチにかけつけるシーンは、「ドラえもん」そっくりだ。そういえば、頼りないヒックのキャラは、のび太に似ている。アスティはしずかちゃんよりツンツンしているが、しずかちゃんをアメリカンヒロインに置き換えればこうなるだろう。力持ちのスノットはジャイアンだ。タフ・ラフの兄妹は、スネオ的キャラだ。ドラゴン通のフィッシュだけは「ドラえもん」のレギュラー4人組にはいないキャラだが、賢いところは出来杉。ヒックと心を通わせるドラゴンの「トゥース」は、ドラえもんの役回りと見られなくもない。
しかし、劇場版「ドラえもん」とは大きな違いがある。劇場版「ドラえもん」では、のび太やしずかちゃんたちが異世界の登場人物と心を通わせ、最後には対等な関係を築く。「ヒックとドラゴン」のエンディングでも、バイキングとドラゴンの間に平和が訪れるところは劇場版「ドラえもん」に似ているが、ドラゴンがバイキングのペットになるところが決定的に違う。バイキング(人間)とドラゴンは決して対等ではないのだ。この点が、私が感じた違和感の正体だった。
続編が作られるようなので、続編でドラゴンと人間の関係がさらに対等に近づくことを期待したい。伏線らしきものはある。エンディングで、ヒックはあるものを失うことによって、トゥースと同じハンディを背負う。この結末は、劇場版「ドラえもん」では決して描かれないシークエンスだ。このエンディングが、ドラゴンと人間の関係をさらに深める伏線として設定されているのかもしれない。もしそうならば、今回の結末への評価を将来変えることになるかもしれない。しかし、現時点では、納得がいかないのだ。
余談だが、子供たちが空を飛ぶ名シーンは、劇場版「ドラえもん」以外にもある。原恵一がはじめて監督をつとめた「エスパー魔美 - 星空のダンシングドール」に登場するシーンだ。このアニメは、歴史に残る名作だと思う。その原恵一監督のアニメ「カラフル」の上映が始まった。どこかで時間を見つけて映画館に足を運びたいものだ。