中国の変貌

北京で開催中の国際生物多様性フォーラムでの招待講演を無事終えて、明日はいよいよ帰国の途につく。
フォーラムの会場は、「鳥の巣」競技場の対面にある国際会議場。宿泊先の五洲大酒店(コンチネンタルグランドホテル)とは通路でつながっている。
思えば、中国をはじめて訪問したのは、3年前の6月のことだ。
→ http://d.hatena.ne.jp/yahara/20070602
当時は、オリンピックを目前に控え、北京は建設ラッシュだった。北京植物園の植物の葉が、工事の粉塵で白くなっていたのを思い出す。この五洲大酒店も、当時建設されたものだ。当時の北京は、近代都市に向けて駆け足で変貌する途上にあった。
いまや、「鳥の巣」競技場周辺は、高層ビルが林立する近代都市に変貌し、ある種の落ち着きすら感じられる。
今回お世話になった欧楊志雲教授がつとめる「中国科学院生態環境研究中心」は、約300名の研究スタッフと100名以上の大学院生を擁する巨大な研究センターに成長した。これだけ大学院生が増えると就職難が到来しているのではないかと思い、就職状況を大学院生に聞いてみたところ、「中国科学院生態環境研究中心」の大学院生はみな研究職か政府職に就職しているそうだ。案内役の大学院生も、就職にはまったく不安を感じていないという。おそらく今でもポストが増え続けているのだろう。
変貌をとげているのは、大都市ばかりではない。昆明市では地下鉄工事が始まり、数年前まで田園だった土地が急速に都市化していた。麗江でも観光客が増え、中心部は近代ビルが並んでいる。近代化にむけてひた走る姿は、高度経済成長時代の日本に似ているが、日本の失敗を単純に繰り返してはいない。たとえば、退耕還林政策によって森林伐採を禁止したため、長江流域では急速に森が成長しつつある。少数民族出身の和愛軍さんがNGO活動を展開し、市政府の協力を得て生物多様性フォーラムを開催するような変化も起きている。
下水道の整備の遅れなど、問題点をあげればきりがないが、いずれ改善が進むだろう。高等教育を受けた人たちの間では、問題点はよく認識されている。また、問題点をあげて批判する自由も、いまでは確保されている。人々の表情には希望が宿っており、そのことが何よりもこの国に希望を与えている。
その一方で日本はと愚痴るのはよそう。日本は10年前とさほど変化していない。それこそが、developed countryである証だ。日本の課題は、"developed"、つまり「成長の限界」に到達した状態で、いかによりよい社会を構築するかということにある。中国もいずれ、この問題に直面せざるを得ないだろう。
日本の経済状態は決して良くはないが、リーマンショックで露呈した弱点をかかえる合衆国や、南欧という爆弾をかかえるEUに比べて、国際金融危機で受けた日本の傷は比較的浅いように思う。ドルもユーロも弱い状況での円高の進行や、「債務超過」状態に近づく国債発行額など、課題は山積しているが、破局を回避することは可能だ。むしろ問題は、どのような社会をめざすのかという点で、国民が希望を持てていない点だろう。
これからは、「追いつけ追い越せ」ではなく、自分で考えて先に進まなければならない、と言われ始めてから、まだ日は浅い。日本の良さはたくさんある。良いところを伸ばし、欠点を補っていけば、もっと良い社会が築けるはずだ。