鴨川ホルモー

Yahoo映画レビューなどでの投稿者の評価は高く、レッドクリフIIをしのいでいる。しかし、この高得点は原作に負うところが大きいと思う。原作ファンとしては、残念ながら原作の良さを生かしきれていないと感じた。「映画としてやれることはやりつくしている。これで面白くなかったら、原作が悪い」という原作者の応援演説に、ちょっと期待しすぎたかもしれない。
不満その1。ゆるい。とくに前半はゆるい。コンパのシーンもどんよりしていて、若者のエネルギーがあまり感じられない。このゆるさは、私の趣味ではない。原作は、こんなにゆるくはなかった。安倍はユルユルのダメ男で、こんな男になぜ凡ちゃんが肩入れするのか理解に苦しむ。最後の安倍のフェアプレーは原作どおりだが、このフェアプレーに至る安倍の変化がまったく描かれていない。
不満その2。最終決戦を「場外乱闘」の個人戦にしてしまった。京都の街を走り回る個人戦は一見派手だが、戦線を拡散させたため、クライマックスへの盛り上がりは生まれない。京都の空を鬼が覆う大仕掛けを用意してみても、ドラマは生まれない。原作では、最後の戦いは安倍チームと宿敵芦屋チームの団体戦である。安倍チームが追い詰められ、絶体絶命のピンチに立たされたとき、「孔明」凡ちゃんの知略がチームの危機を救う。この展開は、スリリングだ。そして団体戦だからこそ、最後の安倍のフェアプレーに、チームの勝敗を度外視して芦屋を救うという明確な意味が生まれるのだ。
不満その3。個人戦に「女の戦い」を持ち込んでしまった。「楠木隊はこれより通常業務を放棄して自己中女を攻撃する」と宣言した凡ちゃんが京子を襲い、追い詰められた京子が「自己中がどうして悪いのよ」と居直るやりとりは、あまりに醜悪。原作の凡ちゃんはこんなに粗暴じゃないぞ。最後に凡ちゃんが安倍を救うシーンでも、芦屋への攻撃法があざとくて、原作の知性が感じられない。
ただし、凡ちゃんを演じた栗山千明のはじけ方はすばらしい。この映画の得点のかなりの部分は、彼女が稼ぎ出していると思う。吉田神社での女人禁制の「儀式」から聞こえてくる歌声にあわせて踊るシーンも笑えた。原作のキャラとは違うが、栗山凡ちゃんは抜群の存在感で映画を盛りたてていた。
映画にも原作にも、とくに教訓めいたメッセージはない。若者のばかばかしいまでのエネルギーを描いた作品だ。しかし、原作には心の描き方にもうすこし細やかさがあった。芦屋も京子も、嫌味なキャラではあっても、捨てキャラではなかった。一方、映画のほうにはデリカシーというものがない。「宇宙一阿呆な青春」というコピーどおりのおばか映画だ。
原作を知らずに見れば、十分に楽しめると思う。しかし、ばかばかしいエネルギーが細やかな心づかいと絶妙にブレンドされた原作を堪能した読者の中には、物足りなさを感じる人が少なくないだろう。