アジア太平洋地域生物多様性観測ネットワーク始動

ASIAHORCsシンポジウムに続いて、「アジア太平洋地域における生物多様性観測のネットワーク化に関する国際ワークショップを開催した。昨日、この会議の成果として、「アジア太平洋地域生物多様性観測ネットワーク」(略称AP-BON)が発進した。
今後、運営委員会を組織し、来年のCOP10に向けて、アジア太平洋地域における生物多様性観測研究の現状をレビューした本を出版する。また、行動計画文書を起草し、アジア太平洋地域における土地利用図の標準化・精密化、レッドデータブックホットスポット地図の作成などに取り組む。
GEO BONが昨年スタートしたことについては、このブログですでに紹介した。GEOはGroup of Earth Observation(地球観測に関する政府間会合)の略称であり、気候、災害、水、生物多様性、など9つの分野に関する全地球規模での観測システム(GEOSS)の整備を進めている。GEOは、生態系・生物多様性に関する国際的な観測網が必要であるという認識にもとづき、地球規模の生物多様性観測ネットワークを組織した。このネットワークがGEO BONだ。GEO BONの組織化には、DIVERSITASとNASAが中心的な役割を果たした。2009年に組織されたGEO BON運営委員会には、DIVERSITASとNASA に加えて、EU、CBD、GBIF、ILTER、Smithsonian Institution、UNEP-WCMC、US Geological Surveyが参加し、国際的な連携体制が整った。
GEO BONは、遺伝子・種・生態系レベルの生物多様性をカバーし、生態系については陸域、陸水、沿岸、海洋生態系の組成・構造・機能をカバーし、その状態(states)だけでなく、変化を促す駆動因(driver)と変化への応答(response)をカバーし、さらに遺伝子・種レベルの進化的応答までをモニタリングする。すなわち、GEO BONは生物多様性のすべての側面をカバーしたモニタリングシステムの構築を目標としている。
ただし、GEO BONは自ら新たな観測を組織しようとしているのではない。世界中で実施されているさまざまな生物多様性観測から得られるデータを誰でも利用可能なデータベースに統合することがGEO BONの主要な目標である。このデータベースを構築することによって、さまざまな標準化指標を用いて地球全体での生物多様性の変化を評価し、最新の情報を行政や市民にわかりやすく提供することが、GEO BONのもうひとつの重要な目標である。また、現在進行中の生物多様性観測において欠けており、新たな観測体制が必要な観測地点・観測項目などを明らかにする作業(Gap解析)も行うが、その結果にもとづいて新たな観測を組織する仕事は、他の組織がになうものと期待されている。
生物多様性観測から得られるデータを受け入れているデータベースはすでにいくつも存在する。GBIFは地球上の全生物について、種名で検索できる標本記録や観察記録のデータベース構築を進めている。ILTERは世界各地の長期生態系観測研究から得られるデータの特性を記述したデータ(メタデータ)のデータベース化を進めている。この両者をつなぐことが、データベース構築上の緊急課題だと思う。この考えにもとづき、GEO BONに対応するJ-BONでは、ポータルサイトの設計を具体的に検討している。その成果は、今回のAP-BONワークショップで紹介された。データベース構築上のもうひとつの課題は、衛星画像と地上データをうまくつなぐことだ。この課題に関しては、9月11日に九大で小規模の研究会を開催し、実行計画を具体化したいと考えている。
AP-BON運営委員会に関しては、今回の参加者を中心に暫定委員会を設け、来年3月のCOP10プレコンファレンスで正式な委員会を編成してはどうかと考えている。それまでの間に、できれば東南アジア諸国をまわり、行動計画と実効的な運営体制について合意形成を進めたい。
思い返せば、この方向で動き出したのは2月上旬のGEOSS-APシンポジウムだった。あれからまだ、半年も経っていない。約半年の期間で、よくぞここまで進んだと思う。この半年間に、日本およびアジア太平洋地域での生物多様性観測ネットワークの整備に向けてご協力いただいた多くの方々に、この場を借りて、お礼もうしあげたい。
また、このネットワークが順調に育つように、今後もお力添えをいただけるよう、お願いしたい。