ヒナノボンボリ属の新種確認

yahara2007-10-28

昨年10月8日のYOCAの会で、屋久島在住のYさんに見せていただいた写真から、屋久島にホシザキシャクジョウに似た植物があることがわかった(→昨年10月8日のブログ)。その植物を確認するために、10月4日に屋久島に出かけたのだが、このときは確認できなかった。ところが10月24日に、屋久島入りしているFさんから、「しかしなんと言っても凄いのはホシザキシャクジョウ11株発見であります!!!」というメールが入った。これはもう、万難を排して現地入りするしかない。
そこで、昨日のJSTの会議のあと、7時の便で羽田から鹿児島空港に飛び、鹿児島空港ホテルに宿泊し、今朝の第一便で屋久島に飛んで、Fさんの案内で問題の植物を見てきた。昨年、沖縄でホシザキシャクジョウを再発見されたTさんも、急遽予定を都合して、かけつけてくれた。
現地では、約30株を確認したが、何しろ小さい。Fさんは目が良くて、ほとんどの株は彼の発見である。彼によれば、見つけるコツは、落ち葉の隙間を覗くこと。確かに落ち葉の真下で咲いているわけはないので、わずかに光が差し込む落ち葉の隙間を探すのは理にかなっている。しかし、相手は5mm程度の小さな花である。悔しいが、私はひとつも発見できなかった。
写真のように、花の外見のうえでは、ホシザキシャクジョウよりも花被片の突起が短く、色が薄い(淡青色である)。変種か亜種か、あるいは別種として記載したいと考えたが、花の色と突起の長さの違いは、量的な違いでしかない。花を解剖して、柱頭などの形態を比較することが重要だと思われた。そこで、私は標本用に2株採集させていただいた。
3時40分屋久島空港発の便で福岡に戻り、解剖顕微鏡の下でさっそく花を解剖してみた。すると、柱頭の付属体の形態が、沖縄のホシザキシャクジョウとはまったく違う。沖縄のホシザキシャクジョウは先端が丸いこん棒上の付属体を持つが、屋久島のものは、付属体の先端がニ裂している。不連続な違いが確認されたので、新種として記載するのが妥当だと判断した。
ヒナノボンボリやタヌキノショクダイに負けない、良い名前をつけてあげたい。一案を思いついて、Tさんにメールで提案した。
なお、ヒナノボンボリ属やタヌキノショクダイ属は、かつてはヒナノシャクジョウ科Burmanniaceaeに分類されていたが、最近ではタヌキノショクダイ科Thismiaceaeとして独立させる見解が支持されている(→ヤマノイモ目の解説)。この解説で紹介されているように、最新の研究(Merckx et al. 2006)によれば、ヒナノシャクジョウ科はヤマノイモ科と姉妹群、タヌキノショクダイ科はタシロイモ科Taccaceaeと姉妹群である。
たしかに、タシロイモ科の面妖な花の構造は、タヌキノショクダイ科の花に似てはいる。しかし、タシロイモ科とタヌキノショクダイ科の形態にはあまりにも大きな隔たりがある。いったいどんな淘汰圧の下で、どんな遺伝子の変化があったのだろう。腐生植物の進化というテーマは、興味がつきない。
先週は月曜・火曜に国際シンポ、水曜に授業、木曜と金曜に事後評価ヒアリングがあり、疲労困憊したが、今日のフィールドワークで疲れがふきとんだ。今日はぐっすり眠れそうだ。
ちなみに、Tさんは「雨男、お花畑をゆく」などの著作で知られる、自他共に認める雨男。最初に一緒に屋久島に出かけたときには、台風が直角に進路を変えて屋久島を直撃した。今回も、二人での屋久島行きを決めたとたんに台風が発生し、「ご迷惑をおかけします」というメールが届いた。このメールを受け取ったときは、どうなることかと心配したが、今日は気持ちの良い秋晴れで、調査は無事終了した次第。よかった、よかった。

  • Merckx V, Schols P, Maas-van de Kamer H, Maas P, Huysmans S, Smets E. 2006. Phylogeny and evolution of Burmanniaceae (Dioscoreales) based on nuclear and mitochondrial data. AMERICAN JOURNAL OF BOTANY 93 (11): 1684-1698.