書き初め

年末年始は、紅白も、箱根駅伝も無視して、論文原稿の改訂作業に専念した。その論文を、第一著者のT君が今日投稿した、「カンボジア、カンポントム・カンポンチュナン省の永久調査区における樹木の分類」と題する、植物分類学の論文だ。本格的な植物分類学の論文を書くのは久しぶり。合計320種の木本種に、名前をつけた。カンボジアでは、植物種の分類学的研究が遅れていて、森林の調査をしても、多くの植物に名前がつかない。これでは、種組成についての論文が書けない。種組成について報告した論文がいくつか出版されているが、同定がほとんど信用できない。そのため、森林プロット内の胸高直径が30cmもある木本種が、「ヤマノイモ属(Dioscorea)の一種」(草本性のつる)にされていたりする。
カンボジアの森林調査に関わってすぐに、カンボジア森林植物図鑑を作る必要性を痛感した。そのためには、植物分類学の研究をしっかりやる必要がある。植物分類学出身のキャリアを生かす場が与えられたので、地道な仕事に時間を割いている。幸い、植物分類学の研究に熱意を傾けてくれる若いT君二人の協力が得られたので、ゼロからスタートして2年間で、320種について論文を発表できるところまできた。しかし、320種という数字は、カンボジアの植物種の1割にも達していないだろう。
12月に訪問したBokor国立公園は、非常に多様性が高い場所だったために、4つのトランセクト調査を通じて、一気に約1000種の植物標本が得られた。次は、これらの同定に取り組む。あと4年間で、カンボジア森林植物図鑑の第一版を何とかまとめたい。
このような植物分類学の地道な研究を、マクロ生態学の新しい解析に結びつけるアイデアも持っている。かなり手ごたえを感じているので、一年後には形にしたい。
手元には、あと5編の論文原稿が仕上げを待っている(大学院生の論文原稿3編、マメ科多様性の国際観測の論文、メキシコのステビアの論文)。月にひとつでは要請に応えきれないので、寸暇を惜しんで論文改訂作業をするのが、新年の課題だ。