岩槻邦男さんが文化功労者に

台風情報を見るためにテレビをつけたところ、恩師の岩槻邦男さんが文化功労者に選ばれたというニュースが目に飛び込んだ。小石川植物園の温室で撮影された映像とともに、仲間と一緒に喜びたいという趣旨の岩槻さんらしいコメントが放映された。
恩師なので、岩槻先生と書くべきところだが、大学一年生のころから岩槻さんと呼んできたので、ここでもそのように書かせていただく。私が入学したころの京大では、「センセイ」と呼ぶことを嫌う雰囲気が、教員・学生を通じて支配的だった。学問の場に不要な権威を排除し、立場をこえて自由に意見をかわすという雰囲気があった。文化功労者受賞への祝辞だからといっても、私が「センセイ」と書くと、きっと不自然に思われることだろう。
実際、岩槻さんは学問的実力以外の権威を感じさせない方だった。逆に言うと、大学院に入りたての学生に対しても、こと研究に関しては、妥協を許さない方だった。大学院修士時代は、セミナーのたびに厳しい批判をあびて、なかなか大変だった。
別のところでも書いたが、「こうもりになってはいけない」と言われたことは、今でもに感謝している。その趣旨は、「アロザイムのような生化学的アプローチを使うなら、生化学者として通用しなければならない。私は分類学者だから生化学のことは専門ではないというような言い訳は許されない」ということである。大学入試は物理と地学を選択し、高校時代に化学をまじめに勉強しなかった私には、きつい要求だった。その後、高校の化学の教科書や参考書(チャート式化学)で化学を勉強しなおし、それからレーニンジャーなどを読んだ。
植物分類学の研究室で、遺伝学や生態学について学ぶ際にも、上記の岩槻さんの注意を肝に銘じてきた。いま私が、いろいろな責任を負いながらも、研究のフロンティアにとどまって、新しいチャレンジを続けていられるのは、岩槻さんの姿勢に学んだおかげである。
73歳になられたが、まだ現役として活躍を続けられている。これからもお元気で活躍されることを、心からお祈りしている。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071027-00000501-yom-soci
によれば、2007年度の文化勲章受章者と文化功労者は以下のとおり。

文化勲章受章者には、発生生物学の岡田節人(ときんど)(80)、狂言茂山千作(87)、有機化学の中西香爾(こうじ)(82)、彫刻の中村晋也(81)、民事訴訟法学・裁判法学の三ケ月章(86)の5氏が選ばれた。一方、文化功労者には、植物分類学の岩槻邦男(73)、音楽評論の海老沢敏(75)、洋画の奥谷博(73)、国際法学・国際貢献の小田滋(83)、南アジア史の辛島昇(74)、移植外科学・医学教育・医療振興の川島康生(やすなる)(77)、高分子化学・分子組織化学の国武豊喜(71)、材料化学・学術振興の桜井英樹(76)、小説の塩野七生(70)、心臓血管外科学の鈴木章夫(77)、日本画の鈴木竹柏(88)、評論・民俗学谷川健一(86)、洋画の堂本尚郎(79)、俳優の仲代達矢(74)、民法星野英一(81)の各氏が選ばれた。