ケープの植物多様性の系統樹による評価

トランジット・ホテルは残念ながら満室だった。しかし、シャワールームはホテルとは別にたくさんあって、すぐに使えた。暖かいお湯のシャワーをあび、髪も洗って、すっきりした。
そこで、少し勉強をした。
ケープ行きが決まってから、ケープの植物多様性に関する論文に気づいたら、ダウンロードした。昨夜、Cape Floraという名前のフォルダーをそのままノートPCにコピーしてきたのだが、このフォルダーに置かれた論文のpdfファイルは、10編に達していた。そのいくつかに目を通してみる。

  • How much evolutionary history in a 10x10m plot? Proches A et al. 2006. Proceedings of the Royal Society of London, Series B: 273, 1143-1148.

タイトルが明快だ。
系統的な多様性を測って、保全上の価値を評価しようというアイデアは、昨年11月に九大に来てくれたDaniel Faithさんが1992年に提唱したもの。このアイデアに沿って、系統樹から分岐年代を推定し、それを足し合わせた指標を、累積進化年齢(Cumulative Evolutionary Age: CEA)と呼ぶ。
単子葉類と双子葉類(スイレン目などのpaleoherbはのぞく)の分岐は144百万年前なので、単子葉類と双子葉類が1種づつあれば、288万年、というように数える。そして、「この2種が絶滅すれば、288万年の歴史が失われる」という価値評価をするわけだ。この評価は、結構説得力がある。
上記の論文では、ケープの植生を代表する4つのタイプについて、10x10mプロット内の種をリストし、そのCEAを比較した研究成果が報告されている。64のプロットに出現した種のDNA配列を全部決めたのかと思って読んでみると、何のことはない、Davies et al (2004)の系統樹被子植物の科の系統樹に時間目盛りを入れたもの)から、プロット内に出現した科を選び出して、評価に使っている。
科の中のCEAなんて、各プロットの1-25%相当なので、無視しても十分良い近似が得られる、なんて書いてある。なんと、大胆な。このようなアプローチがほとんど実行されていない今だから許されることね。
結論も明快で、Miocene以後に爆発的な適応放散が起きたFinbosと呼ばれる植生のプロットでは、科の年齢の分布がランダムよりも若い方にずれるが、亜熱帯潅木林では、科のリストからランダムに選んだ分布からずれないそうだ。

  • Preserving the evolutionary history of floras in biodiversity hotspot. Forest F. et al. 2007. Nature 445/doi10.1038/nature05587

2月15日号のNatureに出版されているはず。手元にあるのは、出版前のファイル。Daniel Faithさんが共著者のひとりに名を連ねている。
こちらはケープ産735属の植物についてrbcLの配列を決めたそうだ。しかし、その力技でNature論文をものにしたわけではない。種数などのTaxon diversityと、系統樹によるPDの特性を比較し、両者がデカップリングする場合があることを示し、後者の有効性を主張しているのだが、統計的解析・比較の方法がにわかには理解できない。
読み込んでいるうちに、睡魔がおそってきた。Discussionのほうも、Option価値という経済学の概念が出てきて、よく考えて読まねばならん。うーむ、さすがはDaniel Faithが関与した論文だ。
ちょっと休憩。

  • The evolutionary history of Melianthus (Melianthaceae). Linder et al (2006) American Journal of Botany 93: 1052-1064.

カラー写真と系統樹を眺めて楽しむ。鳥媒花のグループの適応放散。この時期に咲く種が実見できるといいな。

それにしても、ケープのフロラ研究は、過去2年ほどのうちに、系統樹にもとづく群集解析の最先端に躍り出た感がある。