マツゲカヤラン

yahara2006-10-11

写真は、本邦初公開のマツゲカヤラン。屋久島固有種の中でも、発見が困難な種のひとつであり、長い間「幻の植物」だった。新種として記載されて以後、昨年の調査で再発見されるまで、標本記録が途絶えていた。
おそらくスギ天然林内には点々と自生しているものと考えられるが、着生木は一種に限定されているようであり(どの種かは伏せる)、しかも大径木の、適度なサイズの枝にしかつかないようである。小型の植物なので、他の着生植物が茂っている場所では、競争に負けてしまうのだろう。他の着生植物が着生しにくい場所にニッチを見出した種のようだが、その結果として、限られた定着のチャンスしかないのだろう。
特殊化した種には、しばしばこのような希少性がつきまとう。どうしてそこまで特殊化する必要があったのだろうと不思議に思わされることがしばしばあるが、他の生物が利用できないニッチを利用できるような稀な突然変異(「オリジナリティの高い」突然変異)が、時として個体密度を下げる(絶滅しやすくなる)方向への進化をもたらすことは、理論的にはあり得る話である。
研究者も、あまりに狭いテーマに専門化すると、たとえオリジナリティは高くても、注目度は低下する。「オンリーワン」と言えば、聞こえは良いが、孤独な道である。
それはともかく、私はマツゲカヤランのような希少種が好きである。生態系の中ではマイナーで、何の機能も果たしていそうにない種に、心ひかれる。だから、生物多様性の意義として、「生態系機能」が強調されると、どうも居心地が悪い。もちろん「生態系機能」は、人間社会にとっては必要だが、私にとっての生物多様性の価値は、明らかに別のところにある。
花山原生自然保護区に30年前に設置された調査区の林床植物調査は、チームメートの協力を得て、無事終了(したはず)。花山の調査区は、登山口から約750m登った地点にあり、往復で4時間あまりを必要とする。昨日は6時に環境省世界遺産センターを出発し、7時すぎから登りはじめ、9時半ころに調査地に着いた。6時間あれば、3つの100mトランセクトの調査と、全天写真撮影(計150枚)が終えられると思っていたが、見通しがやや甘かった。
昨日、3時半すぎに調査区を後にした時点で、あと50mほどの調査を残す結果となった。残りは、チームの2人が残って調査を続行してくれた。彼らは野営し、今日は花山原生林の左俣を調査してくれている。沢登りルートとしては、滝が続く難所で知られている。私も行きたかったが、一昨日の調査で右膝を捻挫してしまった。無念。