スラウェシ島調査

土曜日の夜にボゴール(インドネシア)に到着した。今日の13時55分のフライトでマカッサルに飛び、明日からはスラウェシ島で植物多様性の調査をする。雨季なので、ボゴールでも小雨がしとしと降っている。私は晴れ男だが、今回ばかりは、雨に降られることを覚悟の上で、合羽を持ってきた。
スポンサーの環境省から以下の連絡が届いた。

いつも環境研究・技術開発の推進にご協力をいただき、ありがとうございます。環境省では、環境研究総合推進費のWeb(http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/index.html)を通じて、研究者の皆様に「国民との対話」をいっそう推進していただきたいと考えています。その一環として、添付のようなサイトを構築し、研究代表者の皆様のWeb(ブログを含む)の更新情報をまとめて掲載したいと考えているところです。

国民の税金で研究している内容を、国民に広く知らせることは、研究者にとってとても大切な仕事だ。その思いもあってこのブログを書いているが、環境研究総合推進費の戦略研究プロジェクトS9「アジア規模での生物多様性観測・評価・予測に関する総合的研究」(http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/suishin/kadai/kadai_ichiran/pdf/S-9.pdf)が7月にスタートして以来、多忙な私の多忙さは昨年度をうわまわり、ブログの更新頻度もすっかり減ってしまった。年度末の教務が一段落したので、もうすこし頻繫に書いてみたいと思う。
環境省S9プロジェクトの目的は、「アジアにおける生物多様性の現状を評価し、その損失を防ぐための政策提言を行うこと」につきる。とはいえ、アジアは広大であり、山も川も海も地形的に複雑であり、生物多様性は著しく高い。「アジアにおける生物多様性の現状を評価」するという課題はとてつもない難題だ。そのハードルの高さは、小惑星いとかわのサンプルをとってきた「はやぶさ」プロジェクトなみと言ってもいいだろう。
アジア全域での植物多様性評価には、3つの方法がある。ひとつは、リンネの時代以来蓄積されてきた標本情報を活用することだ。この方法での評価は、熱帯アジアの標本をもっとも多く保有しているオランダ国立植物標本館(ライデンにあるので、通称ライデン・ハーバリウム)の研究者が精力的に進めている。S9プロジェクト開始にあたって、ライデンを訪問して共同研究を提案し、協力体制を確立した。もうひとつは、アジア各地に設定されいてる森林プロットの情報を使うことだ。ただし、森林プロットデータは非公開のものが多い。また、データがほとんど高木に限られており、環境変化により早く反応する林床植物についてのデータが欠けている。そこで、アジアの森林プロットをひとつづつ回って、林床植物についてのデータをとるとともに、非公開データを共同研究で利用するための協力関係を作る努力を続けている。
この2つの方法は既存のデータを利用するものだ。しかし、アジアの植物多様性評価を行うには、既存データだけではどうしても足りない。たとえばこれから出かけるスラウェシ島は、標本データがきわめて少ない。信頼のおける森林プロットデータもきわめて少ない。このような場合、現地に足を運んで調査することが不可欠だ。

環境省S9プロジェクトでは、5年間かけて、右上の地図の星印の場所でトランセクト調査を行い、同じ基準で比較できるデータをとる計画だ。すでに、カンボジアと西ジャワ(ゲデ・パングランゴ山)では、かなりしっかりした調査データを得ている。タイ北部のインタノン山と、台湾の蓮華池では、大規模森林プロット内で林床植物をカバーしたトランセクト調査を予備的に実施した。そして今回は、スラウェシ島を訪問する。
今後、地図の星印の場所での調査の様子を、このブログで紹介していきたい。