自費購入は公私混同の始まりか?

「小物の自費購入は公私混同の始まり、私的流用の言い訳」というご指摘(昨日のブログへの「氷山の一角」さんのコメント)は、ごもっともです。
私費で1万円の投光機を買ったから、科研費を受けたときに、その額の私物を買って帳尻をあわせよう、なんてことを考える人が、世の中には、いないとも限りません。
私的流用は悪事であるということを周知徹底し、適切な監視体制をとる必要があります。
ただし、私が知る限り、私物購入に流用できるほど研究費が余っている人は、分類学生態学分野ではほとんどいないでしょう。自腹を切らなければ、研究をやっていけないのが実状です。
また、理系の基礎研究者は、研究に必要な本や学術雑誌は、ほとんど自費で購入しています。私の研究室の本棚には、7段の移動式書架が5つ、5段の移動式書架が5つありますが、これらの書架の本はすべて私費で購入したものです。確定申告の際に、毎年数十万円の図書購入費を、必要経費として計上しています。
本棚は、校費で購入し、設置したものですから、厳密なことを言えば、公的備品の本棚に私物を置いていることになります。現実には、研究に必須の文献ですし、大学院生や学部生も頻繁に利用しています。私費購入した本をすべて大学に寄付する手続きをすれば、事務的にはすっきりしますが、手続きをする手間が大変だし、各研究室の図書をすべて寄付されると、大学側も対応に困るでしょう。各研究室に置いたままでは管理に困るでしょうし、図書館に集中されると、こちらが困ります。
本以外にも、カメラ・パソコン・野外調査用具・論文別刷など、研究に必須の物品を自費で購入したケースは、多数あります。そういう実状に対して、「公私混同」というようなことを言い出すと、研究の現場は、「窒息」すると思います。
基本は、公的資金を私的に使ってはいけないということであり、私財を研究に投入することにまで疑問のまなざしを向けるような雰囲気は、行き過ぎでしょう。
Ostromさんが指摘されるような、研究費の「使いにくさ」の問題に関しては、過去10年間で格段に改善されたと思います。次年度への繰越も可能になりました。小物の精算払いに関しては、現行制度でも不可能ではありません。海外調査の場合には、認められていますから、国内の調査などにおいても、理由書をきちんと書いて、事務とねばりづよく折衝すれば、制度的には可能なはずです。
小物の精算払いに関して、改善が進まない主たる理由は、小物の購入に配分できるほど、研究費に余裕がないことだと思います。結局は私費を投入することになるのなら、小物を研究費で購入するために努力するより、自費で買ってしまうほうが早い、というわけです。