総合科学技術会議議員のホンネトーク

日本学術振興会が発行している「学術月報」7月号は、「第3期科学技術基本計画と学術の振興」を特集している。
冒頭に、総合科学技術会議の阿部博之議員、黒田玲子議員、薬師寺泰蔵議員、小宮山宏東大総長、小野元之学振理事長による座談会が掲載されている。昼休みに、弁当を食べながら、この記事を読んだ。
この座談会記事には、第3期科学技術基本計画策定に関わった総合科学技術会議議員の「肉声」が収録されていて、興味深い。科学技術政策に関心がある方には、一読を勧める。
目に留まった発言をいくつか紹介してみる。

阿部 25兆円をどうやって実現していくかということは、多面的にやらなければいけないのですが、「ものから人へ」というところについてどれだけアクセントのある魅力的なプランを出していくかということと、基礎研究に係るさまざまな政策があるわけですね。・・・非常に割り切って言えば、「ものから人へ」と、基礎研究に対して、どれだけ魅力的な新しいプランを提示して予算化していけるかが、25兆円のかなりの部分に占めるのではないかなと思っています。

「ものから人へ」と、基礎研究が柱だという認識は、心強い。

阿部 まず間接経費30%ということをできるだけ早く達成して・・・。
薬師寺 いろんな抵抗勢力があって、削られてしまったんです。
小野 ただ、今回の基本計画でも、30%のオーバーヘッドを入れるべきであるということをはっきり書いてございますし、科研費も、大きいものについてはそれができています。それ以外はまだ十分ではありません。ですから、30%をぜひ実現したい。このことは、振興会としても大きな悲願なわけです。

基盤研究B・Cにも間接経費30%をつけることは、いろいろな点でメリットが大きい。ぜひ実現してほしい。

阿部 競争的研究資金の中で人件費のサポートをすることは、ぜひ進めていただきたい・・・。守る側だけではなくて、増やしていくことをどう考えるかが大切だと思います。その点については、ではどこからお金を出していくのか、第3期計画の中で、このような視点に是非踏み込んで検討いただきたいと思っております。

競争的研究資金による特認スタッフやポスドクの雇用には、安定性がなく、雇用制度上は大きな問題がある。しかし、研究者をめざす、意欲的な人材に対して、ポストを確保しなければ、未来はない。「ものから人へ」という方針が、さまざまな形で具体化されるように、期待したい。

阿部 科研費の場合は、まだまだ研究期間が実質的に短いんじゃないかと思うのです。・・・NSFでも相当実力のあるプロフェッサーは事実上かなり継続的に研究資金がとれるんですね。そうすると、たくさん申請を出さなくて済むわけです。短期的であるのとリスクが大きいからたくさん申請しなければならないということが、日本の場合はあると思うのです。

この問題点が認識されていることは心強い。

小野 一部では、特定の先生に研究費が集まっているんじゃないかという批判がありますが。
薬師寺 それと、データをきちんと、どのように採択されているか集める必要がある。・・・競争的資金のジャブジャブ問題というのがある。

「ジャブジャブ問題」なんて、学術月報で書いちゃっていいの、と思ってしまった(苦笑)。不正受領問題がクローズアップされたので、この点は早期に改善されると思う。

小宮山 科研費がピアレビューの中で一番機能しているものと思いますね。その伸びがちょっと止まってきていますよね。・・・ぜひ、もう少し増やしていただきたい。

同感である。

黒田 第3期計画には、・・・政策課題対応型研究開発費に対しては選択と集中をします。けれど、学術研究、研究者の自由な発想がなければイノベーションも起きないのであり、そこには選択と集中はないことを、はっきりと謳っている。

この点は、認識を新たにした。
選択と集中」政策は、「政策課題対応型研究開発費」(平成18年度は1兆7856億円)に対してのものであり、「研究者の自由な発想に基づく研究」(平成18年度は1兆4223億円)には適用しないのが総合科学技術会議の方針なのだ。
私は、前者であれ後者であれ、「最適な配分」をすると考えるべきだと思うが、後者に「選択と集中」政策を適用しないという考えは、ひとつの見識だと思う。

薬師寺 ただ「基礎研究は重要だ」と言ってもなかなか予算が増えないし、応援する政治家も多くない。そこで、一つの戦略として、イノベーションという言葉を使った。・・・総理が言う「明日への投資」というのは、本当は基礎研究のことなんです。

そうだったのか。「イノベーション創出総合戦略」を読んで、あまりそういう印象は受けなかった。
基礎研究者の側から、国民に「明日への投資」として支持されるようなプランを提案していくことが必要なのかもしれない。

黒田 いろいろなロールモデルが必要で、「こういう例がある、これだけ時間がかかるのだ」と、そういうものを国民に提示してサポートしてもらうことが必要だと思います。・・・こういうものが私たちの実生活で役に立っているけれど、それまでには基礎研究における発見から20年、30年かかっているのだということを、みんなが理解してくれるということが一番重要かなと思います。

同感である。
ただし、「役に立っている」ことの中には、進化理論のように、人間の世界認識を大きく変えたことも含まれるはずだ。
わが国では、宗教と科学がきびしく対立した歴史がないので、科学が人類の世界観に貢献するのだという見方が弱いと思う。欧米に比べて、純粋な基礎科学への支援が弱い理由のひとつは、この事情の違いにあるのかもしれない。

今日は雨なので、野外実験は中止。学振POとして、「生態・分類・進化学関連分野の研究動向に関する問題提起」という文書をまとめる作業をしている。純粋な基礎科学への国民的な支援をどう発展させるかということを考えながら、文書を作っているところである。