花色を決める「三役」がそろった

今日は日曜日「なので」、研究に専念。サバティカルをとっているとは言え、平日は、目前のしめきりとスケジュールに追われる毎日である。明日は9時からプロジェクトミーティング、10時から学内の会議、1時からセミナー、6時から生協理事会、夜は急ぎの報告書を完成させる予定。
今日は大学院生と共著で書いているキスゲのESTについての論文を完成させるために、研究室で、終日コンピュータに向かった。明朝9時からのキスゲ・プロジェクト・ミーティングで、私の解析結果を紹介して、論文のまとめ方に関する最終方針を話し合う予定。
キスゲのESTライブラリーを徹底して調べた結果、アントシアニン合成系を起動する3つの調節因子、MYB, bHLH, WDRはすべて見つかった。MYBは既知の2つに加えて、さらに3つあった。bHLHは3つあった。WDRは1つだけ。アントシアニン合成経路の主要な酵素の遺伝子、花のカロチノイド色素(luteinなど)の合成に関る遺伝子、花の匂い(モノテルペンとベンゾイド)の合成経路の遺伝子も、主要なものはひととおり見つかった。色と匂いに関しては、主要な役者の7−8割は、手中に収めたのかもしれない。
圃場では、F2個体が順調に開花し、キスゲ色(黄色)の花のほかに、ハマカンゾウ色(赤みがかったオレンジ色)の花も咲いたそうだ。きっと、3対1に分離するだろう。そして、MYB, bHLH, WDRのいずれかの変異が、花色の表現型と共分離するに違いない。
ESTライブラリーを検索するために、花色や匂いに関する最新の論文を片端から読んだ。ペチュニアカーネーションでは、色素の合成が済んでから、芳香物質の合成のスイッチが入るようだ。芳香物質の合成も、MYB+bHLH+WDRの3点セットで制御されている可能性が高いが、色の合成とは時間的にずれているので、類似したシステムで制御しても干渉しあうことはないというような推論が論文に書かれていた。
ペチュニアカーネーションの花は何日も咲くので、このように考えたくなるのは理解できるが、キスゲとハマカンゾウの花の寿命は半日である。色の合成を済ませてから芳香物質を作るという悠長なことはしていないだろう。
花のカロチノイド色素の合成経路と、花の匂い(モノテルペンとベンゾイド)の合成経路は、途中までは一緒である。ペチュニアでは、ODORANT-1という転写因子(MYBファミリー)を使って、合成経路の大元から切り替えをしているようだが、キスゲでは、もっと末端で制御しているのかもしれない。芳香物質の前駆体を修飾して、揮発性を高める役割をになう酵素のcDNAが、キスゲのEST中に量的にかなりある。この酵素に変異があって、F2の匂いの変異と共分離するなどという都合の良い結果を期待してみたくなる。
いずれにせよ、ESTライブラリーの検索でヒットした一連の候補遺伝子の変異をスクリーニングして、表現型を測定したF2個体について遺伝子型を決めれば、色と匂いの遺伝的背景に関しては、QTLマッピングを待たなくても、かなりのことがわかると思う。
7月には、ハマカンゾウ集団にF1雑種が少数あらわれた状態を想定した実験集団で、ポリネータの好みによって、親種とF1の送粉成功にどのような差が生じるかを調べる。来年は、F2を用いた実験集団を使って同様な実験を計画している。このような実験で、色や匂いに作用する淘汰を、表現型と遺伝子の両方について調べる予定である。楽しみだ。