申請書と論文の違い

学振特別研究員の申請書を書いている人が多いことと思う。この申請書を、論文と同じ構成で書いてはいけない。つまり、背景説明から始めて、レビューのあとに問題を提起し、それから材料と方法を書き、研究計画を書く、という構成で書いてはいけない。審査員として何度も多量の申請書を読んだ経験から、私はそう考えている。なぜか。申請書を読み進まなければ、肝心のアイデアや、研究計画の要点がわからないからである。
審査員は通常、少なくとも50程度の申請書を読む。これだけの数の申請書を読み、公平性さと正確さに十分な配慮をしながら、点数をつける作業は、実に大変である。審査作業を続けていると、へとへとになる。そのような状態で、審査員はあなたの書類を読む。
2つの書類を思い浮かべてほしい。一方は、肝心のアイデアや、研究計画の要点が最初に書かれていて、そのあとで詳細な説明がある。他方は、背景説明・一般的なレビューのあとに、ようやく問題が提起され、そのあとに研究計画が記されている。どちらが読みやすいだろうか。
限られた時間の中で、申請書の内容の要点を理解したい審査員にとっては、前者のほうがありがたい。
もちろん、このような記述形式が採点にひびくとは限らない。書き方が不親切であっても、内容の理解につとめ、できるだけ公平で正確な審査を行うように私は努めているし、多くの審査員がその姿勢で審査しているだろう。しかし、申請書の内容をぜんぶ理解し、記憶したうえで、審査をすることは、容易ではない。したがって、できるだけ理解しやすく、記憶に残りやすいように書かれた申請書の方が、より正確に評価されるだろう。
また、私の経験では、わかりやすい申請書を書ける人は、肝心なことが何かをよく考え抜いていて、論理もよく整理できていることが多い。わかりやすく書く努力は、研究計画を緻密でかつ魅力的なものにするうえで、役立つ。
今日のブログは、いつもとちがって、肝心なことから書いた。昨日・今日と、学振の書類を読んで、評価書を書いているといったことや、終電10分前に研究室を出たことなどは、あとまわしにした。いつものブログと比べていただければ、2つの書き方の違いがよくわかるだろう。
エッセイと違い、ビジネス文書は、要点が先に書かれていなければならない。申請書は一種のビジネス文書である。論文とは違うのだということを念頭において、準備をされることをお勧めする。
もちろん、学振の申請書は、通常のビジネス文書ではない。論文に類似した側面があるので、論文的な構成が有効な場合もある。何より審査員は研究者であり、論文的な構成に慣れている。
それでも私は、要点をできるだけ先に書き、わかりやすさに十二分に配慮することを勧める。これはあくまで私の意見であり、異なる考えの研究者がいるかもしれない。ひとつの見解として、参考にしていただければ幸いである。