テニュア・トラック制の導入
昨日は、科学技術振興調整費の説明会に出席した。文部科学省科学技術振興調整費室の責任者から、平成18年度に導入される新しいプログラムについての説明があった。
新プログラムの筆頭は、「若手研究者の自立的環境整備促進」。今回の施策は、きわめて有効だ。大学からの提案にもとづき、テニュア・トラック制の導入をはかる大学を支援する。
提案に対して、機関を選定する基準は、以下の5点とされている。
- テニュア・トラック制(若手研究者が厳正な審査を経てより安定な職を得る前に、任期付の雇用形態で自立した研究者としての経験を積むことができる仕組み)を導入
- 優れた人材を育成する実績を有する研究拠点である機関を対象
- 機関は、当該若手研究者が自立して研究できる環境整備を実施
- 支援する研究者は各機関が公募
- 支援終了後に本取組を各機関が根付かせていくことを担保
説明会では、テニュア・トラック制で採用された若手研究者のうち、たとえば8割程度が大学で準教授に採用され、残りは別の機関できちんとした職を得られるような優秀な人材として育つことを想定している、という趣旨の説明があった。
テニュア・トラック制は、任期を終えた研究者が審査を経て、十分な成果をあげたと評価されれば、必ず昇進できるシステムである。私は、任期制に対する対案として、テニュア・トラック制の導入を主張してきた。その主張が実現するのは、喜ばしい限りである。これですべての問題が解決するわけではないが、大きな前進だと思う。
テニュア・トラック制が普及すれば、業績があるのに、ポストがないために、助手のままで昇進できない、といった問題は解決される。講座制から独立した若手研究者のポストが増えることにもつながる。
説明資料では、「最終的に30機関程度を支援」と書かれている。「最終的に」というのは、5年間の助成期間の途中で、3年目に中間評価が行なわれるからである。若手研究者が自立して研究に専念できていないと評価されれば、予算が継続されないかもしれない。少なくとも、応募する大学は、そう考えざるを得ない。
そして、「30機関程度」という数字は、大学にとっては重大な意味を持つ。
現在パブリックコメントが公募されている「科学技術の基本政策」では、「世界トップクラスとして位置づけられる研究拠点が、結果として30程度形成されることを目指す」と書かれているからだ。この文書は、第3期科学技術基本計画をしばる政策文書である。
テニュア・トラック制を導入し、若手研究者が自立して研究に専念する制度改革の提案をしない大学は、「30程度」の枠に入れない。少なくとも、大学や研究所はそう考える。
私は、組織間競争は大学を悪くすると思っていたが、こういう使い方もあるのだと考えを少し改めた。
もちろん、これですべてがうまくいくわけではない。問題はつねにあるが、今回の施策は、かなり前向きだと思う。