オーバーポスドク問題:現状認識についての論点
たくさんのご意見をありがとうございました。昨夜は、コメントに目を通し、考えをめぐらすだけで終わってしまいました。これから私の意見を述べていきますが、できるだけコメントに応える形をとりたいと思います。大きく分けて、「現状認識」の問題と、「今後の対策」の問題があると思います。まずは、前者からとりあげます。朝食前の時間で書けるだけ書いて、続きは福岡に向かうフェリーの中で書こうと思います。
まず、この問題を考えるうえで、私の立場や見方自体が一枚岩ではないことを正直に書いておきます。私は、自分の研究を発展させるだけでなく、日本で自分の専攻分野の研究を伸ばしたいと思っている一研究者です。自分の弟子が少しでも良い環境で研究を続けてほしいと思う者でもあります。一方で、国立大学教授という立場にあり、5つの学会で役員をつとめており、大学政策や科学技術政策について意見を言う責任を負っていると思っています。後者の立場で発言する場合、自分の専攻分野や弟子のことだけでなく、もっと広い視点で現状分析を行い、対策を提案していく必要があります。一研究者や一研究分野の利害と、より上位のレベルの利害とは必ずしも一致しません。このような利害の不一致をどう調整するかという問題を、私自身が抱えています。対策を考える場合には、「利害の調整」という視点がひとつのポイントだろうと思っています。
さて、「現状認識」の問題。次のような意見がありました。
- 大学院が拡充されたことにより、「俺も能力があるんだ」と誤解した出来の悪い学生まで保護しろってことでしょうか。(Josepoohさん)
- 能力のない人まで博士号がとれてしまうことが問題で、博士を安売りさせない厳しい姿勢が重要。(某博士課程さん)
- 特にお金や労働力が成果を左右する分野は・・・大学院入試なんて全く機能してなくて、「五体満足なら猿でも合格」みたいな感じです(一若手教員さん)
- 今よりも大学院生の数が減っても日本の学問のレベルが下がるというわけでもないと思います(一若手教員さん)
- yahara先生は、充足率を下げてでも「将来こいつならアカデミックな世界でやっていける」と思える院生以外は博士課程に行かせないという覚悟がおありでしょうか?(一若手教員さん)・・・この質問には、「はい」とお答えしておきます。
- 私の周囲ではここ数年毎年自殺者、もしくはそれに近い状態が1,2名出ています。理由は・・・「ポスドク」としての将来に対する不安です。(JohnSmithさん)
- 新しい分野の挑戦しようとしている自分にとってはかなり厳しい状況です。・・・ポスドクで産休を取ったら研究にもどれるのか?という不安もあります。(oguranさん)
- 企業技術者・研究者として採用されても処遇が悪いということがあります。詳しくは、「素直」さんのブログ。(スーパーTSさん)
- 日本の現状が厳しいとやたら書かれている方が多いですが、きちんと諸外国と比較してみられた上でのご意見でしょうか?・・・あなた方が思われている程、日本の大学院レベルは高くありません。(Josepoohさん)
- このまま大学が何もしなければ、そうやってトップクラスの学生はどんどん大学を見限っていき、「でもしか博士課程進学者」の割合が増えていくことでしょう。(一若手教員さん)
- 大学の教員全員が・・・業績、見識、気概、愛嬌のある指導者であればまったく問題ありませんが、大半の教員はそうではないということが問題なのです。(一若手教員さん)
- 重点化して院生の数が増えたことは博士の「平均的な」質の向上には必ずしも繋がっていないというのが個人的な感想です。母集団が増えた分、研究の能力の最大値(国際競争力)は伸びたと思いますが、・・・やはり平均的にはレベルは下がってきているというのが大方の実感かと思います。(一若手教員さん)
- 本当に力があり評価をされている人間が定職に就けないこの状況を改善すべきだ(JohnSmithさん)
- 博士取得者が競争に巻き込まれるのは30歳を過ぎてからです。研究で食べていけないからといって、別のキャリアを始めるには厳しい年齢です。(PDさん)
- いたずらに自分の専門を局所化して極めて狭い専門に拘る姿勢もちょっと改めてはどうか(Josepoohさん)
同意できる点が多いのですが、博士取得者の平均的なレベルが下がってきているという一若手教員さんのご意見や、日本の大学院レベルが諸外国と比較して高くないというJosepoohさんのご意見に対しては、違った意見を持っています。次に、この点をとりあげてみようと思います。