持続可能な社会を拓く決断科学大学院プログラム

一昨日、博士課程リーディングプログラムへの申請を無事終えました。タイトルは、「持続可能な社会を拓く決断科学大学院プログラム」(Graduate education and research training program in decision science for a sustainable society)。英文タイトルにresearch trainingという表現を加えて、あくまでも研究トレーニングを通じてリーダー養成をはかるという考えを強調したつもりです。
オールラウンド型のリーダー養成という難しい要請に応えるうえでは、以下の点が重要だと思います。これらの課題にどうすればうまく対応できるか、私なりに知恵をしぼってみました。

  • 座学によってさまざまな分野の知識を学ばせるだけでは、リーダー養成プログラムとしては不十分だろう。本物のオールラウンド型人材を育てるには、さまざまな分野の知識を統合し、問題解決に生かす方法論(オールラウンド型の新しい科学)を提示する必要がある。
  • これからのグローバルリーダーが立ち向かうべき重要課題を明確にして、それらの課題解決にはどんな視点・学識・経験が必要かをはっきりさせる必要がある。
  • リーダーを養成するには、リーダー経験を積ませることが必須である。この点から、少数精鋭の小グループ教育だけでは不足であり、もっと大きなチームを動かす経験を積ませたい。

これらの課題に応えるにはどうすれば良いかについて考え抜いた結果、自分なりに満足のいく提案ができたと思います。
総長から、かりに採択されなくても自力で実行してはどうかというありがたいご指示をいただいたので、決断科学プログラムの説明会を6月に開催する予定です。以下は、その説明会の案内のために準備したプログラムの概要です。この概要を読んで、説明会に出てみたいと思う方は、矢原までご連絡ください。
これから各部局長にもあらためて協力をお願いし、全学的な実施体制を整えていきます。6月上旬には九大のウェブサイトで正式に募集のアナウンスをしていただく予定です。以下は現時点での私の案ですので、正式にアナウンスする段階では、すこし文章表現が変わるかもしれません。

「持続可能な社会を拓く決断科学大学院プログラム」概要(案)

このプログラムは、先端的な研究を通じて専門分野のプロになるだけでなく、さまざまな社会問題の解決にも貢献したいという願いを持つ大学院生のために準備されました。このプログラムに参加する大学院生には、所属する専攻・研究室での教育に加えて、本プログラムが実施するセミナー・海外実習などに参加し、学際性と統域性(さまざまな学際的知識を統合して社会問題の解決をはかるための体系化力)を実践を通じて習得することが求められます。したがって、本プログラムに参加する学生は、専攻・研究室での学習・研究と本プログラムでの学習・研究を両立させなければなりません。それは高いハードルですが、このハードルを超えるために、本プログラムではチームワークを重視します。専門分野の研究と社会的問題解決の両方への熱い思いを抱き、一学年20名の仲間と協力しながら、より高く跳ぶために努力を惜しまない学生を求めています。

私たちはいま、地球温暖化、大規模な災害、生活習慣病やがんの増加、グローバル市場の不安定性、国家間の対立など、地球環境と文明社会の持続可能性を揺るがす大きな社会問題に直面しています。そしてこれらの問題はたがいに関連しあっています。このプログラムは、これらの社会問題の解決に貢献する新しいオールラウンド型の科学を発展させるとともに、その担い手として、幅広い視野・知識・経験を持つ若いリーダーを育てることを目標にしています。このため、本プログラムに参加する学生は、環境・災害・健康・統治(ガバナンス)・人間という5つのモジュール(異なる分野の教員・大学院生による共同研究チーム)のいずれかに所属し、学際的な研究テーマに関する国際共同研究とチーム共著論文作成に参加します。さらに、他のモジュールの研究成果を学び、5つの重要課題を俯瞰する力を身につけます。国際共同研究のテーマとして、(1)カンボジアにおける持続的森林利用、(2)国際災害調査、(3)バングラデシュにおける疾病管理、(4)糸島市・福岡市都市圏および韓国のガバナンス、などを予定しています。これらの国際共同研究での現場経験を通じて、本物のリーダーになるために全力投球できる学生を求めています。

専門・学際科学の成果を社会的な問題の解決に生かすには、多くの選択肢の中からひとつを選ぶ「決断(意思決定)」が必要になります。本プログラムでは、このような決断を成功させるための新しい科学として「決断科学」を開拓し、体系化します。決断を成功させるには、さまざまな不確実性と価値観の多様性を考慮する必要があります。このためには、確率・統計の理解に加え、人間の心理・行動に関する体系的知識が必要です。本プログラムでは、医学、心理学、生態学、経済学などの諸分野で研究されてきた人間の心理・行動に関する研究成果を体系化し、大学院生とともに論文・総説・教科書を出版します。大学院生は「決断科学」を開拓する過程を通じて、社会的な問題の解決に向けてさまざまな分野の知識を統合する体系化力(統域力)を身につけます。このため本プログラムでは、人間を深く理解することを通じて、新しい次元の科学を開拓することに意欲のある学生を求めています。

このプログラムは、広く浅く学ぶためのものではありません。専門性・学際性・統域性を広く深く学ぶことを目標としています。「多芸に通じる唯一の道は、まず一芸に通じることである」という観点から、各専攻における研究トレーニングを通じて、専門分野のプロとしての実力を身につけることを重視します。このため、本プログラムが本格実施された段階では、本プログラムに参加する学生は、外国人教員による英語論文作成指導、国際学会参加旅費支援などの、各専攻における研究トレーニングへの支援を受けることができます。また、学際的な国際共同研究や決断科学の開拓に参加するプロセスを通じて、さまざまな科学の考え方・アプローチを学ぶことは、専門分野の研究を深め、独創的な成果をあげるうえでも、必ず役立つはずです。やれば何でもできるという気概をもって、広く深く学ぶことを楽しむ学生を求めています。

本プログラムには、既存の学問分野の垣根を超えて新しい科学を作ろうという意欲を持つプログラム担当教員が全学から参加しています。私たちプログラム担当教員は、本プログラムに参加する学生の熱意を受け止めて、本プログラムが目標とする高い壁がこえられるように、一緒に成長したいと考えています。説明会では、本プログラムの目標・計画をより具体的に紹介します。みなさんの参加をお待ちしています。

プログラムコーディネーター 矢原徹一(理学研究院/システム生命科学府 教授)