振替誕生日登山で「なぞの植物」に再会

5月1日は、51歳の誕生日だった。一生に一度のぞろ目の誕生日である。屋久島で2番目に高い永田岳に登る予定だったが、雨だったため、登山日程を延期した。そしてついに、昨日登った。昨日はいわば、「振替誕生日」である。
永田岳に登ったのは、単なるピークハンティングのためではない。永田岳から北に連なる岩峰群(永田岳=I峰から障子岳=XII峰まで)の植物分布を調べるためである。障子岳まで行ければ良いのだが、障子岳には20代の私でも到達できなかった。ネマチ(IV峰)から先は、未知の世界である。環境省の競争的資金の補助を受けている研究期間(来年まで)に、できれば、ネマチより先の岩峰にも足を伸ばしてみたい。そのためには、もうすこし脚力を鍛えねば・・・。
四半世紀前に、永田岳とネマチの間の岩場で、なぞの植物を発見した。しかしその植物は、私では登攀できない岩棚の上にあり、花の写真を岩棚の下から撮影しただけで、詳しい特徴は確認できずにいた。今回は、木登りや岩登りが得意なFさんがチームに加わっているので、Fさんに場所を「伝授」して、いずれ確認してもらおうと思い、岩峰の間をぬって、思い出の場所に出かけた。
「あそこの岩の上ですよ」と指をさすと、さしものFさんも、「あれを登るのはたいへん」という様子。それでも「行ってみるか」と岩棚の下まで岩場をかけあがったFさんから、「矢原さん、もしかしてこれじゃないですか」という、興奮気味の声が届いた。岩棚の下まで登ってみると、間違いない、「これ」である。ついに、手にとって、葉の特徴を確かめることができた。25年の間に、種子がこぼれて、岩棚の下に2株が育っていた。近縁種には葉に毛があるが、「これ」はまったく無毛であり、「新種」の期待が高まった。最終的な判断は、花を確認してからになるが、少なくとも新変種としては区別すべきものと思う。名前は「ネマチ・・・・」にしようと思う。
果報は寝て待てというが、私は25年間も待ったのだ。最高の誕生日プレゼントになった。Fさん、見つけてくれてありがとう。
「ネマチ・・・・」がどんな植物かを紹介したいところだが、盗掘が怖い。命の危険を冒してまで盗掘にいく価値のある植物とは思えないが、珍しいというだけで、盗掘の目標にされるかもしれない。
このニュースを書くこと自体にもためらいがあった。しかし、「永田岳とネマチの間の岩場」という、通常の人間には近づけない場所にある、どんな姿をしているかわからない植物を探し出すことは不可能だろう。
昨年来の屋久島調査で、ずいぶん多くの希少植物の自生地を確認した。もはや絶滅したのではないかと考えていた植物も見つかった。これらの植物の分布情報は、環境省自然保護官事務所や、林野庁林保全センターに提供し、保全対策に役立ててもらう予定である。
しかし、行政だけでは、希少植物を守りきれない。盗掘にせよ、他の要因にせよ、自生地を見守る島民の存在ぬきに、希少植物の保全は達成できないと考えている。そこで、植物の分布情報を、信頼できる島民の方々にも提供し、官民学の協力によって、保全のための有効な体制を作りたい。そのための「合意形成」が、今回のプロジェクトの大きな課題である。