屋久島調査日程終了

今回の屋久島調査の全日程が無事終了した。主要な成果は3点ある。
第1に、30年前の林床植生データがある小花山試験地(1ヘクタール)の林床植生調査を終えることができた。ヤクシカの摂食圧増加の下で、林床植生がいかに変化したかを示す貴重なデータを得ることができた。
30年前の調査は、100m×2mのトランセクト3本に沿って、2m×2mの小区画単位で実施されており、計150区画の林床植生データが残されている。また、各区画のデータは、2-5m 、30cm-2m、30cm以下の3つの層に区分してとられている。これだけ良質な林床植生データは珍しい。
30年前のデータによれば、屋久島固有種ヤクシマタニイヌワラビの群落があったのだが、今回は1個体も発見できなかった。これまでの全島調査で確認できた個体数は、3個体にすぎない。もっとも絶滅のおそれの高い種である。おそらくヤクシカが優先的に摂食したのだろう。地表性で、岩棚や倒木などには生えないため、徹底的に食べつくされたものと思われる。
小花山試験地では、蛇紋杉という巨木が倒れたために、大きなギャップが生じている。その結果、明るい林床がある一方で、ギャップの周囲では、低木や亜高木が生長している。この変化は、30cm-2mの層の被度が減少し、2-5mの層の被度が増加していることから把握できる。このような変化が起きている区画と、30cm-2m、2-5mの層にさほど変化が見られない区画について、30cm以下の林床植生の変化を比較してみれば、ヤクシカの摂食の影響と、光環境の影響を、ある程度分離して評価できるだろう。
第2に、植物分布調査地点(100m×4mのトランセクト調査地点)を、182地点まで増やすことができた。今回の分布調査には、私は加わらなかった。私ぬきで、分布調査が実施できるようになったので、次回には2チームで分布調査を実施できるだろう。
分布調査データの解析法について、環境研の竹中さんと議論して、今後の方針についてのメモを作った。分布地点数が少ない希少植物がどこに集中しているかという問題と、分布地点数が多い種の分布パターンの問題は、分けて考える必要がある。環境要因については、間違いなく大きな効果を持っている「標高」と、それ以外の要因とは、分けて分析する。まず、標高で説明できる部分をきちんと把握したうえで、標高で説明できないパターンを説明する要因を探すという方針で分析を進めようと思う。
第3に、プロジェクトY現地報告会がきっかけとなって、「屋久島まるごと保全協会」が産声をあげた。これについては、昨日のブログで書いた。Ostromさんから、歓迎のコメントをいただいた。「合意形成の科学」を発展させることを意図しているが、いまやっているのは実践である。医学で言えば、治療にあたる。もうすこし「臨床研究」的な仕事もしてみたいが、今はなかなか時間がとれない。いずれは実践の成果を比較し、体系化することができるだろう。
「合意形成」という言葉はまやかしで、実態は「妥協形成」ではないかというコメントをくれた友人がいる。なかなか的確な指摘である。「合意」というのは、多くの場合、単純な最適点ではない。利害が異なる(異なる利得行列を持つ)プレイヤー間のゲームによる、平衡点である。このゲームの挙動は、なかなか複雑である。「妥協形成」というほうが、実態に即していると思う。しかし、「合意形成」という言葉のほうが、響きが良い。それはなぜかということも、面白い問題だ。
「合意形成」のもうひとつの問題は、議論に参加する「プレイヤー」以外に、多くの潜在的利害関係者(たとえばいわゆる「サイレント・マジョリティ」)がいることだ。「合意形成」はしばしば、問題意識の高いオピニオンリーダー間で行われる。昨夜集まってくれたのは、そういうメンバーである。このメンバーが中心になって合意形成を進めるのは必要だし、有意義だが、ゆくゆくは、より広範な人たちが合意形成に参加するプロセスを確保する必要がある。
そのほかにも、有意義な進展があったが、これらについては、もう少し具体化してから紹介することにしよう。
明日の昼の船で、鹿児島にわたり、夜には福岡に戻る。
日曜日は新キャンパスで、全学共通ゼミの実習。土曜日はその下見・準備にあてる。
新キャンパスでは、池に魚が無断で放流されたし、開始された文系ゾーンの工事の影響で、怪我をしたイシガメが増えたという連絡も、今日届いた。週明けには、対策実施に向けて、すぐに動く必要がある。
月曜日は、修士論文完成に向けてのM2のセミナーである。4人のうち2人からは、レジメがメールで届いた。これから読んで、できるだけ早く(帰福を待たずに)コメントしよう。
火曜日からは、授業が始まる。
スケジュール表を眺めていると、憂鬱になってきた。また、俗世に戻るのだなぁ。