生物多様性・生態系研究のこれからの戦略

・・に関する国際シンポジウム(乃木坂:学術会議講堂)に参加中。まず、鷲谷さんが、総合科学技術会議のワーキンググループレポート「必然としての生物多様性」の内容について講演。(大学院生の論文原稿をなおす内職をしながら聞いた。鷲谷さん、ごめん)。
次に、Michael Loreauが2人目の基調講演者として、講演をしているところ。生物多様性の価値についての、標準的な話が続いている。ジャレッド・ダイヤモンドの「銃・病原体・鉄」が登場したことも、「想定の範囲内」。初めて知ったのは、ダニの宿主動物の多様性が、ライム病に人間が感染するリスクを下げるというデータ。Ecologyに論文が発表されているそうだ。
次に、生物多様性研究の現在のチャレンジについての話が続いている。「生物多様性の変化はどのような生態学的な結果を生むか」「生物多様性の変化は、どのような社会的結果を生むか」など5つの問題設定のあとに、「生物多様性を管理し保全する最善の道は何か」という問題を提起。
とくに新しい視点が提起されたわけではなかった。政府の研究開発戦略との関係で、生物多様性研究の重要性をレビューするという会議の性格上、いたし方ないかと思う。
最初のセッション「生物多様性・生態系サービス研究の現状と課題」のトップバッターは、ベネズエラのJon Rodriguez。来日後に食べた日本料理はおいしかった(もちろん写真で紹介)、築地の魚市場はおもしろかった、などの話から始まった。通訳や事務局のスタッフの写真も出して、しっかりとお礼。サービス精神あり。
ベネズエラを377グリッドに分割し、鳥・蝶・糞虫の種についての分布調査を行っているそうだ。このような大きなスケールでのサンプリングに対して、ローカル・ディーテイルを犠牲にしている、という批判があるが、これまで熱帯地域でこのようなデータセットが得られたことはなかったと主張。
2人目のMeryl Williamsは、漁獲・養殖の対象となる海洋生物の多様性をいかに持続させるかという問題について講演。最後に、日本はこの分野でもっと貢献できるはずだ(もっと研究費を出せ)、と主張。会議の趣旨にあった講演だが、内容がちょっと抽象的で、いまひとつ説得力がなかった。
3人目のPeter Daszakは、生物多様性と健康について講演。病原体の多様性の円グラフから話が始まった。マレーシアにおけるNipah virusのアウトブレイクでは、たくさんのブタが感染して殺された。多くの養豚場は、果実食コウモリが生息する森林と隣接していて、感染の中継点になっている。
EID(エマージェント・感染症)のホットスポットを示す世界地図には、日本にも合衆国にもたくさんの黄色い点が打たれていた。
このようなEIDの拡大には、森林の消失など多くの要因が関わっている。感染症は、野生動物の減少の大きな原因にもなっている。
公衆衛生と保全の間には、新たなコンフリクトが生じている。たとえばエコツーリズムは、新たな感染症の拡大につながるかもしれない。
小型哺乳類やトカゲ類の種多様性が増えると、ライム病感染率が低下する。(この話は、Loreauもとりあげた)。
いろいろ面白い話題が聞けた。私自身、ウイルスを研究した経験があるので、エマージェント・感染症の問題は、とても興味がある。
最後は、東大海洋研の木暮さんによる、海洋微生物の話。東京湾バクテリアの炭素量は432トン。これだけのバイオマスを生み出すには1080トンが必要。バクテリアは水系をクリーンで美しく保つうえで、決定的に重要な役割を果たしている。では多様性は? 多くのバクテリアは培養できないので、最近ではバクテリアの多様性を調べるために、PCR産物のシークエンシング、およびFISH法が用いられる。これらの方法を使った研究から、これまで未知だった莫大な多様性が認識されてきた。では多様性と機能の関係は? mRNAを調べるなどの方法で、これから研究が進むところ。
「必然としての生物多様性」策定にむけてのWGに加わっていた鷲谷さんに、微生物の研究の重要性を書き込むべきだという意見を伝えたことがある。陸上動植物の多様性のように、多くの人に愛される存在ではないが、生態系機能という点では、微生物が決定的に重要な役割をになっていることは間違いない。
ここで昼休み(12時半)。