土壌中の種子の寿命

昨日の生物多様性シンポに参加した、1年生の「もも」さんからの質問に答えよう。
種子の寿命を実験的に調べる研究として有名なものに、 ミシガン農業大学のBeal博士が1879年秋に開始した長期研究がある。Beal博士は、21種の植物の種子を砂に混ぜ、20個のビンに詰めて密封し、土に埋めた。Beal博士とその後継者たちは、これらのビンを5〜10年ごとに掘り出し、種子の発芽力試験を続けてきた。その120年目の報告が、次の論文である。
Telewski FW, Zeevaart JAD. 2002. The 120-yr period for Dr. Beal's seed viability experiment. AMERICAN JOURNAL OF BOTANY 89 (8): 1285-1288.
この報告によれば、ハイアオイ(Malva rotundifolia)やモウズイカ(Verbascum blattaria)の種子は、120年後にも発芽し、成長した。一部の種の種子は、一世紀を越えて土壌中で生き続けることが立証されたわけである。今はなきBeal博士も、天国で驚いていることだろう。
シンポジウムで紹介した、タンデム加速器質量分析による種子の年齢の推定法は、次の論文に報告されている。
Moriuchi KS, Venable DL, Pake CE, et al. 2000. Direct measurement of the seed bank age structure of a Sonoran Desert annual plant. ECOLOGY 81 (4): 1133-1138.
種子の生態を調べている研究者にとっては、夢のような技術革新だ。しかし、タンデム加速器質量分析(TMAS)という、生態学者にとっては容易に利用できない技術を使うため、まだ誰も活用していない。九大生物多様性研究コンソーシアムでは、古代人骨の年代測定などを手がけてこられた小池先生の協力を得て、TMAS用の試料を調整する真空ラインなどを整備した。土の中から、種子を掘り出す作業も進行中。乞うご期待。
土壌中の種子が休眠からさめる条件はさまざまあるが、生態学的には変温の効果が重要。森林にギャップができると、土壌表面の温度変化が激しくなる。多くのギャップ種の種子は、この温度変化を感知して、発芽をはじめる性質を持っている。