大学院生の論文改訂作業

今日は終日、大学院生の論文改訂作業に時間を使いました。しかし、T君の論文改訂作業は、イントロだけで時間がつきました。重要な先行研究でわかっていること、わかっていないこと、課題として指摘されていることが、きちんと整理できていなかったので、論文を読み込んで整理しました。この作業がなかなかできないんですね、最初のうちは。先行研究をレビューするトレーニングを、もうすこし工夫する必要を痛感します。今日中に完成とはいかなかったけど、結果は固まっているので、あとは考察を残すのみです。
Phylogeny and biogeography of the genus Stevia (Asteraceae: Eupatorieae): An example of diversification in the Asteraceae in the new world, accepted・・論文アクセプトの連絡届きました。10年前まで精力を傾けていたステビアの仕事がようやく日の目を見ます。第一著者の副島さん、ありがとう。これで今年の論文は10報目。審査中の投稿論文が5報。私の手をはなれた投稿前原稿が3編。投稿目前で私の改訂待ちが4編。私が第一著者の原稿で、院生の論文優先のために、あと一息なのに投稿・再投稿できていないのが2編。さらに順番待ちの原稿が約10編。週に一つくらいのペースで片付けないと、次の仕事に取りかかれません。定年まであと3年なので、月ひとつのペースでは36編しか書けないんです。数だけではダメですが、書くべき成果が貯まっているので、やった仕事はきちんと世に出してから定年を迎えたいです。

睡眠に関する本

 「決断科学のすすめ」ではさまざまなテーマについて、以下の例のようなブックガイドをつけた。しかし、「睡眠」についてふれることができなかったので、ここで「睡眠」についてのブックガイドを書いて、補足しておこう。
 「決断科学のすすめ」において、急いで重要な決断をする必要がある場合、その場でとりあえずの決断を下したうえで、最終的な決断を一晩待つほうが良いと書いた。その理由は、時間をかけるほど判断材料が増えて、より冷静な決断ができることに加えて、一晩寝て睡眠を確保したあとのほうが、理性的判断力が高まるからだ。
 さて、睡眠については多くの本が出版されているが、下記の本が格段に優れている。

スタンフォード式最高の睡眠」で書かれている重要なポイントを以下に箇条書きにしておく。

  • 睡眠不足は判断力を低下させる。仕事の効率を高めるには、良質の睡眠を7時間程度確保する必要がある。
  • 7時間という長さだけでなく質を確保することが重要。睡眠の質は、入眠後約90分間のノンレム睡眠をいかに深くするかで決まる。
  • ノンレム睡眠を深くするには、皮膚の体温と深部体温の差を小さくする。その方法としては、入眠約90分前の入浴が効果的。すぐ寝る時は、シャワーかぬる風呂が良い。
  • 室温を適温にする。暑すぎても寒すぎてもいけない。適温には個人差がある。
  • 寝る時間を決めて、厳守する。
  • 夕食を抜いてはいけない。
  • 寝る前には脳に刺激を与えない。単調な仕事をして眠気を誘う。PC,スマホは禁物。退屈な本は良いが、刺激的な本はだめ。
  • 睡眠と覚醒は表裏一体。朝起きてから夜寝るまでの行動習慣が最高の睡眠を作り出す。
  • 朝起きたら、外に出て、太陽の光をあびる。これは慨日リズムを整え、体内バランスを覚醒モードに切り替えるうえで、とても大事。
  • 裸足、冷水での洗顔・手洗いも効果的。
  • 朝食を抜いてはいけない。よく噛んで食べることも重要。
  • 頭を使う仕事、重要な仕事を午前中にする。

以上はほぼすべて、私が実践していることだ。ただし、ときどき寝る前にスマホでメールなどをチェックすることがあるので、本書を読んで、この習慣はやめようと決めた。また、「朝起きたら、外に出て、太陽の光をあびる」ことは、最近さぼっていたので、早速今朝から再開した。
スタンフォード式最高の睡眠」では、これらのポイントの生物学的根拠が簡潔に説明されている。睡眠についての理解を深めたい方は、ぜひ一読されたい。
 著者は、スタンフォード大学睡眠生体リズム研究所の所長をつとめる、科学的な睡眠研究の第一人者である。最初に「根拠なき話は書かない」と断言されており、巻末には記述の根拠として、主要参考論文がリストされている。本書の記述は、私がある程度知っていて、生物学者として納得できる内容がほとんどだが、一部に私にとっても意外な知識が書かれている。それらの点については、根拠となる英文論文にあたって、確かめることができる。これはとても大事な点だ。日本語の本では、根拠となる引用文献がない本が多いが、そういう本の記述はあまり信用できないことが多い。
 以下の本は、アマゾンの「睡眠」ジャンルで現時点で4位であり、かなり読まれているようだが、信用できない記述が多く、お勧めできない。

Chapter 7 腸内環境を整える、まで読んで、さらに読む必要なしと判断した。腸内環境についてはとくに関心があるので期待して読んだが、内容は根拠のないことばかりで、がっかりした。Sleepに書かれている内容で、根拠がある重要な点は、「スタンフォード式最高の睡眠」にすべて書かれているので、「スタンフォード式最高の睡眠」だけを読むほうが良い。

昨年の購入書籍リスト

「決断科学のすすめ」を書くために、昨年購入した書籍のリストを作りました。このリストを見れば、「決断科学のすすめ」がいかに多岐にわたる分野をカバーしているかおわかりいただけるかと思います。「決断科学のすすめ」では、これらの中から厳選された本について、ブックガイドをつけました。また、かなりの本を引用しています。

資本主義が嫌いな人のための経済学
啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために
人生の科学: 「無意識」があなたの一生を決める
寺院消滅
私たちは今でも進化しているのか?
失われてゆく、我々の内なる細菌
ヒトとイヌがネアンデルタール人を絶滅させた
つくられた縄文時代: 日本文化の原像を探る (新潮選書)
骨からわかる日本人の起源 (別冊宝島 2411)
タネをまく縄文人: 最新科学が覆す農耕の起源
遺伝子の不都合な真実―すべての能力は遺伝である (ちくま新書)
分子からみた生物進化 DNAが明かす生物の歴史 (ブルーバックス)
遺伝マインド --遺伝子が織り成す行動と文化 (有斐閣Insight)
エピゲノムと生命 (ブルーバックス)
心を生みだす遺伝子 (岩波現代文庫)
若い読者のための第三のチンパンジー: 人間という動物の進化と未来
進化とは何か:ドーキンス博士の特別講義
仲間とかかわる心の進化――チンパンジーの社会的知性
モラルの起源―道徳、良心、利他行動はどのように進化したのか
道徳性の起源: ボノボが教えてくれること
共感の時代へ―動物行動学が教えてくれること
"進化から見た病気―「ダーウィン医学」のすすめ (ブルーバックス)
"
コンピュータ開発のはてしない物語 起源から驚きの近未来まで
技術と文明の歴史 (岩波ジュニア新書)
仲間とかかわる心の進化――チンパンジーの社会的知性
共感の時代へ―動物行動学が教えてくれること
モラルの起源―道徳、良心、利他行動はどのように進化したのか
道徳性の起源: ボノボが教えてくれること
進化――生命のたどる道
ほめると子どもはダメになる (新潮新書)
「全世界史」講義 I古代・中世編: 教養に効く!人類5000年史
東大理系教授が考える 道徳のメカニズム (ベスト新書)
京大式 おもろい勉強法 (朝日新書)
働く君に伝えたい「お金」の教養: 人生を変える5つの特別講義
ヤマケイ新書 大地の五億年 せめぎあう土と生き物たち
日本の未来を考えよう
Emotion in the Human Face: Guidelines for Research and an Integration of Findings
ザ・チェンジ・メイカー ―世界標準のチームリーダーになる49のレッスン
トリガー 自分を変えるコーチングの極意
自分を成長させる極意―ハーバード・ビジネス・レビューベスト10選
マインドセット「やればできる! 」の研究
ハーバード あなたを成長させるフィードバックの授
なぜ老いるのか、なぜ死ぬのか、進化論でわかる
猟師が教える シカ・イノシシ利用大全 絶品料理からハンドクラフトまで
野生動物管理のための狩猟学
サーバントであれ――奉仕して導く、リーダーの生き方
行動探求――個人・チーム・組織の変容をもたらすリーダーシップ
ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016年04月号 デザイン思考の進化
「健康食品」のことがよくわかる本
東大教授 (新潮新書)
つい誰かに教えたくなる人類学63の大疑問
外国人が見た 幕末・明治の日本
教科書には載っていない! 戦前の日本(文庫版)
現場からオフィスまで、全社で展開する トヨタの自工程完結
トヨタ 仕事の基本大全
トヨタの必ず結果を出す仕事術
対話のレッスン 日本人のためのコミュニケーション術
PDCAプロフェッショナル―トヨタの現場×マッキンゼーの企画=最強の実践力
トヨタのカタ 驚異の業績を支える思考と行動のルーティン
日本人はどこから来たのか?
Biotic Evolution and Environmental Change in Southeast Asia
The Palaeolithic Origins of Human Burial
下り坂をそろそろと下る (講談社現代新書)
影響力の心理~The Power Games~
災害支援手帖
ここから始める言語学プラス統計分析
メキシコ歴史教科書 (世界の教科書シリーズ)
失敗百選
続・失敗百選
続々・失敗百選
憲法改正」の真実 (集英社新書)
アテンション――「注目」で人を動かす7つの新戦略
文化進化論:ダーウィン進化論は文化を説明できるか
When Cultures Collide: Leading Across Cultures
文化が衝突するとき―異文化へのグローバルガイド
多文化世界 -- 違いを学び未来への道を探る 原書第3版
木を見る西洋人 森を見る東洋人思考の違いはいかにして生まれるか
集団主義」という錯覚―日本人論の思い違いとその由来
早わかりベトナムビジネス(第3版) (B&Tブックス)
ベトナム戦記 (朝日文庫)
大使が見た世界一親日な国・ベトナムの素顔
現代ベトナムを知るための60章【第2版】
カラー版 ベトナム 戦争と平和 (岩波新書 新赤版
ベトナム戦争―誤算と誤解の戦場 (中公新書)
人間の集団について―ベトナムから考える (中公文庫)
なぜ稲盛和夫の経営哲学は、人を動かすのか?
The Evolution of Everything: How New Ideas Emerge
燃える森に生きる―インドネシアスマトラ島 紙と油に消える熱帯林
トウガラシの世界史 - 辛くて熱い「食卓革命」
謎のアジア納豆: そして帰ってきた〈日本納豆〉
トウガラシ讃歌
デカルトの誤り 情動、理性、人間の脳 (ちくま学芸文庫)
無意識の脳 自己意識の脳
感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ
自己が心にやってくる
富士山大噴火と阿蘇山大爆発 (幻冬舎新書)
福島第一原発事故 7つの謎 (講談社現代新書)
福島第一原子力発電所事故その全貌と明日に向けた提言: 学会事故調 最終報告書
福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書
国会事故調 報告書
4つの「原発事故調」を比較・検証するー福島原発事故 13のなぜ?
この世界を知るための 人類と科学の400万年史
あなたのまちの政治は案外、あなたの力でも変えられる
貨幣の「新」世界史――ハンムラビ法典からビットコインまで
政府事故調 中間・最終報告書
東電福島原発事故 総理大臣として考えたこと (幻冬舎新書)
新しい国へ 美しい国へ 完全版
民主党政権 失敗の検証 - 日本政治は何を活かすか
安倍官邸の正体 (講談社現代新書)
政権交代 - 民主党政権とは何であったのか (中公新書)
安倍政権は本当に強いのか (PHP新書)
暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり (ブルーバックス)
全員経営 ―自律分散イノベーション企業 成功の本質
イノベーションの知恵
流れを経営する ―持続的イノベーション企業の動態理論
失敗の本質 戦場のリーダーシップ篇
経営管理 (日経文庫)
イノベーションの本質
学習する組織――システム思考で未来を創造する
2020年 世界経済の勝者と敗者
首相官邸で働いて初めてわかったこと (朝日新書)
知識創造の方法論―ナレッジワーカーの作法
仮想通貨革命---ビットコインは始まりにすぎない
It's Your Ship
Get Your Ship Together
It's Our Ship
暴力と適応の政治学: インドネシア民主化と地方政治の安定
Everyone Eats: Understanding Food and Culture
The Price of Altruism: George Price and the Tragic Search for the Origins of Kindness
家族・私有財産・国家の起源
新訳 フランス革命省察―「保守主義の父」かく語りき
フランス―その国土と人々 (1977年)
フランス〈2〉―その人々の歴史 (1980年)
フランス〈3〉―その人々の歴史 (1980年)
フランス〈4〉―その人々の歴史 (1980年)
市場・知識・自由―自由主義の経済思想
イスタンブールを愛した人々―エピソードで綴る激動のトルコ (中公新書)
コーランの読み方: イスラーム思想の謎に迫る (ポプラ新書)
トルコのもう一つの顔 (中公新書)
保守主義とは何か - 反フランス革命から現代日本まで (中公新書)
漂流するトルコ―続「トルコのもう一つの顔」
ビットコインブロックチェーン:暗号通貨を支える技術
〈わたし〉はどこにあるのか: ガザニガ脳科学講義
右脳と左脳を見つけた男 - 認知神経科学の父、脳と人生を語る
フランスの歴史【近現代史】―フランス高校歴史教科書 19世紀中頃から
Human Evolution: Our Brains and Behavior
〈わたし〉はどこにあるのか: ガザニガ脳科学講義
右脳と左脳を見つけた男 - 認知神経科学の父、脳と人生を語る
ことばの起源 -猿の毛づくろい、人のゴシップ-
Language, Cognition, and Human Nature: Selected Articles
トルコのものさし日本のものさし (ちくまプリマーブックス)
トルコ 中東情勢のカギをにぎる国
ことばの起源 -猿の毛づくろい、人のゴシップ-
Language, Cognition, and Human Nature: Selected Articles
コンテナ物語―世界を変えたのは「箱」の発明だった
データの見えざる手: ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則
食の歴史を世界地図から読む方法―料理や食材の意外なルーツがわかる
塩の世界史(下) - 歴史を動かした小さな粒 (中公文庫)
パンの文化史 (講談社学術文庫)
コーヒーが廻り世界史が廻る―近代市民社会の黒い血液
パスタでたどるイタリア史 (岩波ジュニア新書)
人とミルクの1万年 (岩波ジュニア新書)
世界食物百科―起源・歴史・文化・料理・シンボル
砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)
生物学の哲学入門
チョコレートの世界史―近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石
食の歴史 100のレシピをめぐる人々の物語
世界の食べもの――食の文化地理 (講談社学術文庫)
図解 食の歴史 (F-Files)
魚で始まる世界史: ニシンとタラとヨーロッパ (平凡社新書)
塩の世界史(上) - 歴史を動かした小さな粒 (中公文庫)
キッチンの歴史: 料理道具が変えた人類の食文化
自由は進化する
アスコーナ 文明からの逃走―ヨーロッパ菜食者コロニーの光芒
言葉と創造 (エラノス叢書)
料理の起源 (1972年) (NHKブックス)
自我と無意識 (レグルス文庫)
禅 (ちくま文庫)
ユング自伝 2―思い出・夢・思想
ユング自伝 1―思い出・夢・思想
英雄の旅 ヒーローズ・ジャーニー 12のアーキタイプを知り、人生と世界を変える
シッダールタ (新潮文庫)
神話と科学―ヨーロッパ知識社会 世紀末~20世紀 (岩波現代文庫)
真理の山―アスコーナ対抗文化年代記
千の顔をもつ英雄〔新訳版〕上 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
禅と日本文化 (岩波新書)
サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福
デミアン (新潮文庫)
サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福
東洋的瞑想の心理学 (ユング心理学選書 (5))
Eranos: An Alternative Intellectual History of the Twentieth Century
「正義」は決められるのか?
太った男を殺しますか? (atプラス叢書11)
モラル・トライブズ――共存の道徳哲学へ(上)
モラル・トライブズ――共存の道徳哲学へ(下)
人間不平等起源論 (光文社古典新訳文庫)
リヴァイアサン1 (古典新訳文庫)
市民政府論 (光文社古典新訳文庫)
高業績チームはここが違う (成果を上げるために必要な三つの要素と五つの仕掛け)
ヒトの心はどう進化したのか: 狩猟採集生活が生んだもの (ちくま新書)
人類進化の700万年 (講談社現代新書)
ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか (角川文庫)
Why Did Europe Conquer the World?

以上はJBpressの原稿を書いた10月までの購入書籍リストです。購入総額が、原稿料とほぼ同額でした。11月以降もこのペースで買い続けているので、収支は赤字です。
以下は11-12月に購入した書籍。これらからも良書を選んで、ブックガイドにとりあげました。

暴力はどこからきたか―人間性の起源を探る (NHKブックス)
日本人の経済観念―歴史に見る異端と普遍 (岩波現代文庫)
幕末明治 異能の日本人
照葉樹林文化とは何か―東アジアの森が生み出した文明 (中公新書)
大人のための図鑑 脳と心のしくみ
記憶のしくみ 上 (ブルーバックス)
組織のなかで人を育てる -- 企業内人材育成とキャリア形成の方法
意識と脳――思考はいかにコード化されるか
会社を強くする人材育成戦略 (日経文庫)
記憶と情動の脳科学―「忘れにくい記憶」の作られ方 (ブルーバックス)
記憶力の脳科学
記憶のしくみ 下 (ブルーバックス)
プロジェクト学習の基本と手法―課題解決力と論理的思考力が身につく
The Red Queen: Sex and the Evolution of Human Nature
最古の文字なのか? 氷河期の洞窟に残された32の記号の謎を解く
アブダクション―仮説と発見の論理
グループ学習入門: 学びあう場づくりの技法 (アカデミック・スキルズ)
Essential Readings in Problem-Based Learning
アクティブラーニングとしてのPBLと探究的な学習 (アクティブラーニング・シリーズ)
PBL(Problem‐based Learning)―判断能力を高める主体的学習
マネジャーのための人材育成スキル (日経文庫)
週刊東洋経済 2016年10/8号 [雑誌](最新科学でわかった! 「脳」入門)
The Coaching Habit: Say Less, Ask More & Change the Way You Lead Forever
Your First Leadership Job: How Catalyst Leaders Bring Out the Best in Others
世界を変えた10冊の本 (文春文庫)
おとなの教養―私たちはどこから来て、どこへ行くのか? (NHK出版新書 431)
池上彰の教養のススメ 東京工業大学リベラルアーツセンター
記号学 (パース著作集)
教養の力 東大駒場で学ぶこと (集英社新書)
人生を面白くする 本物の教養 (幻冬舎新書)
「教養」とは何か (講談社現代新書)
日本人の教養 混迷する現代を生き抜くために
あらためて教養とは (新潮文庫)
The Pyramid Principle: Logic in Writing and Thinking (Financial Times Series)
性格は五次元だった―性格心理学入門
使える!確率的思考 (ちくま新書)
リスク・リテラシーが身につく統計的思考法―初歩からベイズ推定まで
数学的決断の技術 やさしい確率で「たった一つ」の正解を導く方法
USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門
ツキの法則―「賭け方」と「勝敗」の科学 (PHP新書)
確率的発想法~数学を日常に活かす
使える脳の鍛え方 成功する学習の科学
Human Evolution: Our Brains and Behavior
習得への情熱―チェスから武術へ―:上達するための、僕の意識的学習法
超一流になるのは才能か努力か?
運は数学にまかせなさい――確率・統計に学ぶ処世術
反逆の神話:カウンターカルチャーはいかにして消費文化になったか
確率・統計でわかる「金融リスク」のからくり (ブルーバックス)
マスタリー: 仕事と人生を成功に導く不思議な力
ルールに従う―社会科学の規範理論序説 (叢書《制度を考える》)
日露戦争史 1 (平凡社ライブラリー)
日露戦争史 3 (平凡社ライブラリー)
昭和の名将と愚将 (文春新書 618)
日露戦争史 - 20世紀最初の大国間戦争 (中公新書)
復興〈災害〉――阪神・淡路大震災東日本大震災 (岩波新書)
記者は何を見たのか - 3.11東日本大震災 (中公文庫)
腸科学 健康な人生を支える細菌の育て方 (ハヤカワ・ポピュラー・サイエンス)
徹底検証 日清・日露戦争 (文春新書)
あの戦争になぜ負けたのか (文春新書)
日清・日露戦争―シリーズ日本近現代史〈3〉 (岩波新書)
昭和陸海軍の失敗―彼らはなぜ国家を破滅の淵に追いやったのか (文春新書)
日露戦争史 2 (平凡社ライブラリー)
達人のサイエンス―真の自己成長のために
Thinking Through Project-Based Learning: Guiding Deeper Inquiry
歌うネアンデルタール―音楽と言語から見るヒトの進化
脚気の歴史(やまねこブックレット)
鴎外 森林太郎脚気紛争
戦略の本質 (日経ビジネス人文庫)
地震予知利権の構造 (別冊宝島 2524)
ケースでわかる災害対策 企業・自治体対応の最前線 (日経ムック)
世界をつくった6つの革命の物語 新・人類進化史
東日本大震災 復興が日本を変える-行政・企業・NPOの未来のかたち
失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)
The Sense of Style: The Thinking Person’s Guide to Writing in the 21st Century
The Blank Slate: The Modern Denial of Human Nature
A Pelican Introduction Human Evolution
The Journey of Man: A Genetic Odyssey
高木兼寛伝―脚気をなくした男
文庫 少年の日の思い出 (草思社文庫)
スタンフォードの脳外科医が教わった人生の扉を開く最強のマジック
ここで暮らす楽しみ (山尾三省ライブラリー)
1493――世界を変えた大陸間の「交換」
南総里見八犬伝 (中公文庫)
現代語訳 南総里見八犬伝 上 (河出文庫)
グーグルのマインドフルネス革命―グーグル社員5万人の「10人に1人」が実践する最先端のプラクティス
The Global Prehistory of Human Migration
健康寿命を延ばすサイエンス
サーチ・インサイド・ユアセルフ――仕事と人生を飛躍させるグーグルのマインドフルネス実践法
食糧と人類 ―飢餓を克服した大増産の文明史
1492 西欧文明の世界支配 (ちくま学芸文庫)
マインドフル・リーダー 心が覚醒するトップ企業の習慣
逆境力の秘密50 何があっても打たれ強い自分をつくる
人類と家畜の世界史
現代語訳 南総里見八犬伝 下 (河出文庫)
How the Mind Works
カーボンフットプリントのおはなし (おはなし科学・技術シリーズ)
東日本大震災 陸上自衛官としての138日間の記録
伝える 改訂版 1.17は忘れない
トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして
屋久島だより
人口と日本経済 - 長寿、イノベーション、経済成長 (中公新書)
人口減少社会の設計―幸福な未来への経済学 (中公新書)
宦官―側近政治の構造 (中公文庫BIBLIO)
これからの道徳教育と「道徳科」の展望
ドン・ロドリゴの日本見聞録―スペイン人の見た400年前の日本の姿
潮路はるかに 慶長遣欧使節船出帆400年
(091)超少子化 (ポプラ新書)
結果から原因を推理する 「超」入門 ベイズ統計 (ブルーバックス)
Measuring Sustainability: Learning From Doing
日本二十六聖人記念館」の祈り―公式「巡礼所」総合ガイドブック
科挙―中国の試験地獄 (中公新書 (15))
2100年、人口3分の1の日本 (メディアファクトリー新書)
[図説]人口で見る日本史
宦官: 中国四千年を操った異形の集団 (徳間文庫カレッジ)
人口学への招待―少子・高齢化はどこまで解明されたか (中公新書)
Project-Based Learning: Differentiating Instruction for the 21st Century
ヒトはこうして増えてきた: 20万年の人口変遷史 (新潮選書)
人口の世界史
地域再生の失敗学 (光文社新書)

創造性をはかる方法

チクセントミハイの創造性研究を翻案して、創造性をテストする方法を思いつきました。
以下の項目からいくつかを選んで、エッセイを90分で書いてもらいます。構成を練り、項目を決めたら、項目の変更はできないものとします。そして、項目を決めたらそれを書き出し、文章を書き始める前に時間を記録してもらいます。
さて、じっくり構成を練って項目を決める人と、さっさと項目を選んでじっくり書く人と、どちらがより創造的な文章が書けるでしょうか?
その答えは、「決断科学のすすめ」(文一総合出版、3月3日刊)の「2.4 答えを導く「発想力」を手に入れる!」を読めばわかります。
ちなみに、以下の項目は、「決断科学のすすめ」の各節から、ひとつずつ選んだものです。いかに多様な話題をカバーしているかがわかりますね。

生態学のレポートチェック

後期の「生態学」の成績をつけるために、レポートを全部読んだ。出席・レポート点をつけ、すでに採点を終えている試験の点を合計して、成績評価作業を完了した。今年度は、授業後に提出してもらうレポートを次の週までに読む余裕がなく、今日まで貯めてしまったので、レポート読みに半日かかった。しかしそのおかげで、学生たちがいろいろなテーマに興味を持ってくれたことが、授業全体を通じて把握できた。有性生殖に病原体に対抗する適応的意義があることに驚いたとか、花が昆虫を操作していることに驚いた、など、驚いてほしいところにちゃんと驚いてくれている学生が多かった。オスとメスで生存率が違ってもESS性比が1:1からずれないことに興味を持ったとか、タカハトゲームの利得行列が最初はよくわからなかったけど、よく考えたら納得がいって面白い、などの感想を書いてくれた理論好きな学生も結構いた。精子の掻き出しやライオンの子殺しなど、性淘汰関連の話はやはり注目の的だ。大学院生のKさんに担当してもらった回は、いちばん評判が良かった。授業の途中で考える時間が設けられたのが良かったという感想もあり、授業の組み立てにかなり工夫をしてくれたようだ。予測→検証を繰り返す研究の面白さが伝わったという感想もかなり多かった。保全の研究は絶滅危惧種が対象と思っていたので、増えすぎたシカを管理する研究は意外だったが、その意義がよくわかった、という感想もいくつかあった。一方で、駆除はかわいそうという意見や、自然に人間が干渉することがどこまで許されるのか、という疑問もあった。そのあとの回で、私が紹介した九大伊都キャンパス生物多様性保全事業の話も、多くの学生が興味を持って聴いてくれたことがわかった。全種保全を目標に、森林や池を移設するという世界でも例のないことをやったキャンパスだということを知り、伊都キャンパスの自然に関心を高めてくれた学生が多かったようだ。最後の回は、今年はじめての試みとして、「決断科学のすすめ」の要点を紹介したが、この講義も興味を持って聴いてくれた学生が多かった。生態学が、人間の意思決定や行動、感情や性格などの理解に役立つこと、社会的対立の背景を理解することにも役立つことが、紹介できたと思う。私が生態学の授業を担当するのは、残すところあと3年となったが、毎年改善を重ねて、さらに良い講義にしていきたい。

大隅さんノーベル賞受賞おめでとうございます

今夜ストックホルムノーベル賞を受賞される大隅さんについて、「独創性のおじさん〜元同僚として見た大隅博士の素顔」と題して紹介記事を書きました。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48616

大隅さんが朝日賞を受賞されたとき、このブログでお祝いの記事を書きました。

http://d.hatena.ne.jp/yahara/20121111

今回は、大隅さんの研究史をもう少し調べて、より詳しく紹介しました。

JBpressの記事は、そのうち有料になるので、レイアウトなしの原稿を以下に転記しておきます。

なお、今日になって、駒場の関係者による大隅さんあての「思い出文集」が東大広域科学専攻のウェブサイトに公開されていることを知りました。懐かしい方々による思い出の記事が満載です。※なんで私に声がかからなかったんだろう、と少しぼやいてみる(きっと私は専門が違うので、大隅さんの研究のことをあんまり知らないと思われていたのでしょう)。

http://bio.c.u-tokyo.ac.jp/file/OSUMI.pdf

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以下、IBpressの記事の転載です。
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  • 独創性のおじさん〜元同僚として見た大隅博士の素顔 「役に立たない研究」はなぜ役にたつか?

大隅良典さんのノーベル生理学・医学賞単独受賞は、嬉しいニュースだ。10日の授賞式では、基礎研究を心から愛する大隅さんが、世界の若い研究者に熱いメッセージを送られるに違いない。
 私は東京大学理学部植物学教室で大隅博士と一緒に助手・講師をつとめ、その後、駒場キャンパスで一緒に助教授を務めたので、大隅さんの人となりをよく存じ上げている。
 またその背景にあった植物学教室や駒場の、独創的な研究を大切にする文化を共有している。この経験にもとづいて、大隅さんがなぜ独創的なオートファジー研究を開拓できたか、そして“役に立たない研究”がなぜ役に立つかについて考えてみたい。

  • 「面倒見の良い、隣のおじさん」

大隅さんのノーベル賞受賞の知らせを受けた私は、正直なところ「えっ、あの大隅さんが?」という驚きを隠せなかった。
大隅さんのオートファジー研究のすばらしさは知っていたし、朝日賞、京都賞などの数々の賞を受賞され、すでにノーベル賞の有力候補でもあったので、理屈では当然の受賞と理解できる。だが、「ノーベル賞受賞者」というイメージと大隅さんの人となりとが、どうにも合致しないのだ。
 その後、基礎生物学研究所の毛利秀雄元所長による「隣のおじさん」という表現に思わず膝をうった。
隣のおじさん−大隅良典君(ノーベル生理学・医学賞の受賞を祝して)
大隅君と接したことのある人達はお分かりのように、彼はおおらかでおだやかな性格であり、研究室には世界最先端のことをやっているといったピリピリした雰囲気はまったくありませんでした>
 と毛利さんが書かれているとおり、大隅さんは「攻撃的」「権威的」などの言葉とは正反対にある、とてもおだやかな方だ。大隅さんは研究を愛されていて、研究に割く時間をとても大切にされているが、一方では教育熱心でもある。また助手時代から大学の研究環境を良くするための活動にも時間を割かれていた。一言でいえば、面倒見の良い人だ。
 私は1983年1月に東大理学部植物学教室助手に採用されて大隅さんの同僚になったが、大隅さんと親しくなれたのは職員組合のおかげである。
 当時、私の職場だった小石川植物園は、本郷キャンパスにある植物学教室とは1.2kmほど離れていたので、勤務上は修士論文発表会・博士論文発表会などの教室の行事で顔をあわせるだけだった。
 しかし職員組合では、より頻繁に会う機会があった。例えば、大隅さんと一緒に職員組合で理学部助手層を対象にアンケートをとり、以下の報告を一緒にまとめたことがある。
矢原徹一・大隅良典・松本淳(1987)若手教官は何を望むか−大学の転換期にあたって 科学57(11), p730-733.
 当時、臨時教育審議会が若手教官への任期制導入を含むさまざまな大学改革案を提言したため、私たちは大学の研究教育をより良くする上で何が本当に重要な問題かをアンケートにもとづいて考えてみた。
 この記事を読み返してみると、私たちが憂慮した事態が、その後、現実になったという残念な事実に気づかされる。たとえば博士課程の大学院生を増やす政策がとられたが、指導する教員の数は増やされなかったので、教員はますます忙しくなり、研究に割く時間が減ってしまったのだ。
大隅さんはこのように、周囲の環境を良くする活動にも時間を割く利他的な方だ。最近では(といっても8年前だが)、以下の記事を発表されている。
大隅良典(2008)基礎生命科学の憂うべき状況について 学術の動向2008(5), pp. 72-73.」
 この中で、大隅さんは以下のように書かれている。
<流行は既に多くの人が注目していることの証であり、研究の独創性は単なるインパクトファクターや引用度だけでは計れるはずがない。自然の理を明らかにしようという当たり前の喜びを若い世代が取り戻す必要がある。>
ノーベル賞受賞決定後に、大隅さんは「役に立つかどうかという観点でばかり科学を捉えてはいけない」と繰り返し発言されているが、その姿勢は以前から一貫している。その背景には、大隅さんと私がともに体験した東大理学部植物学教室(本郷キャンパス)や駒場キャンパスでの、独創的な研究を大切にする文化がある。

  • 絶対に人まねはしない

東大理学部植物学教室の文化を一言で言えば、人まねをせずに世界のトップに立つことだ。私が着任した1983年当時、この文化を牽引されていたのは、植物形態学講座の古谷雅樹教授と遺伝学講座の飯野徹雄教授だった(当時の植物学科は、教授1、助教授1、助手2からなる「講座」と呼ばれる教育研究ユニットに分かれていた)。
 古谷雅樹教授は赤い光を感じる植物タンパク質「フィトクローム」の研究で世界をリードされていたし、飯野徹雄教授は大腸菌のべん毛が回転する仕組みについて独創的な研究をされていた。飯野教授の研究は『回転する生命』という魅力的なタイトルの普及書に紹介されているので、興味がある方はぜひ一読されたい。
 また、植物生理学講座の田沢仁教授は、シャジクモ(湖やため池に生息している全長10〜30cmほどの藻類)の巨大細胞を利用し、細胞の両端をハサミで切り、液胞膜(この膜は大隅さんの研究と関わりが深いのであとで述べる)を取り除いた後、細胞の内容物を入れ替えるという奇抜な実験系を開発し、細胞の中で物質を動かす植物の「筋肉系」について研究されていた。
 さらに、植物生態学講座の佐伯敏郎教授は、「門司・佐伯モデル」として世界的に知られる「群落光合成モデル」の実質上の開発者であり、植物の光合成や呼吸を記述する数理モデルと精密な測定を結び付ける生理生態学の研究をリードされていた。
 彼らは、戦後の厳しい研究環境の中で奮闘し、欧米の科学に勝るとも劣らない、独自の研究成果をあげた方々ばかりである。彼らにとって、欧米の流行の後追いは、論外の行為だった。
 そして、上記の講座よりも新たに設置された生体制御学講座には東大薬学部出身の安楽泰宏教授が着任し、大腸菌の細胞膜における物質輸送の研究で世界的な成果をあげられていた。大隅さんはこの研究室に、1977年に助手として着任された。この着任は、私が小石川植物園の助手になる6年前のことだ。
大隅さんは安楽教授から、「私は大腸菌を研究するから、君は酵母の研究を続けなさい」と言われたそうだ。そこで大隅さんが着目したのが、液胞膜だ。
※この経緯を含め、大隅さんの生い立ちや研究史については、JT生命誌研究館ウェブサイトの以下の記事に詳しく紹介されている。
自分を食べて生き残る細胞に魅せられて
「液胞」とは、植物細胞の中にあり、細胞の体積の80〜90%を占める細胞内小器官(オルガネラ)だ。大隅さんが液胞膜(液胞を包んでいる膜)の研究を始めた当時、「液胞」への注目度は低かった。
細胞内小器官のうち、ミトコンドリアは動物にも植物にもあり、酸素呼吸によって細胞内のエネルギー源となる物質をつくる重要な機能を担当している。また葉緑体は植物にしかないが、太陽エネルギーを使って二酸化炭素と水から炭水化物をつくり出すプロセス(光合成)を担当している。この両者を東西の横綱とすれば、液胞はせいぜい小結くらいの地位しかなかったと思う。
 その機能はといえば、植物細胞の大部分を占めているので、「空間充填剤」のようなものだろうと考えられていた。また、樹木の葉が紅葉するときには液胞の中にアントシアニンという色素が蓄積される。このように、特定の物質を溜め込むという機能がある。
 植物では動物のように消化・排泄器官がないので、液胞に老廃物を溜め込んでいるのだろう。要するに、植物細胞の「ごみ溜め」だ。一部のごみは分解されるようだ。当時の「液胞」についての認識はこんなものだった。
 その「液胞」を研究対象に選ぶというのは、流行に完全に背を向ける態度だ。しかし東大理学部植物学教室では、この態度が高く評価された(というよりも、むしろスタンダードだった)。流行を追う研究は「二番煎じ」であり、東大でやるべきことではないという不文律があった。
 ビジネスに例えれば、自分で起業し、オリジナルな商品や技術を開発してこそ次の時代のトップを狙えるのだという考えが徹底していた。ノーベル賞につながる研究を生み出した1つの原動力は、「絶対に人まねはしない」というこの信念だ。
 先日、文部科学省の幹部の方に「卓越大学院」(文部科学省が構想している次の大学院改革予算)について意見を述べる機会があったので、私は以下のように述べた。
「資料の中に、卓越という言葉は何度も出てきますが、独創という言葉が1回も出てきません。世界トップレベルの研究業績を出すという意味での卓越なら、それは一流の研究者にとっては当たり前の話です。もっと大切なのは、独創性です。すでに多くの人が注目しているテーマではなく、その人だけが気付いた独創的なテーマで、新しい研究のトレンドを創り出す、そういう研究が大事だと書いてください。大隅さんならきっとそうおっしゃると思います」

  • 大隅さんはなぜ液胞の研究に取り組んだか?

一方で、誰もやっていないテーマは、重要ではないからやられていない場合が少なくない。独善ではなく独創的な研究をするには、重要なテーマを選ぶ必要がある。
 液胞の場合、何しろ植物細胞の体積の80〜90%を占める器官だ。ただの「空間充填剤」兼「ごみ溜め」とは思えない。液胞の研究を通じて、植物細胞の未知の機能を解明できるのではないか? 大隅さんが液胞の研究を開始されるにあたって、およそこのようなビジョンがあったのだと思う。
大隅さんと知り合ってから、このようなビジョンを伺い、興味をそそられた記憶がある。それは間違いなく、未開拓の重要なテーマだった。ただし、液胞の研究がよもや我々ヒトにまで共通する細胞内分解系の発見につながるとは、誰も予想していなかった。
大隅さんがはじめて液胞に興味を持ったのは、東大着任前に滞在されていたロックフェラー研究所のジェラルド・モーリス・エーデルマン博士(抗体分子の構造を解明し1972年にノーベル生理学・医学賞を受賞)の研究室で、酵母の研究を開始された1976年のことだ。
大隅さんは細かく砕いた酵母細胞を含む溶液を遠心分離機にかけ、試験管の底に沈んだ細胞核を単離する際に、上澄み液(核を単離する上での不要物)の中に何かが濃縮されていることに気づいた。顕微鏡で覗いてみたところ、それが液胞だったのだ。
酵母の液胞は1ミクロン(1mmの1000分の1)程度で、植物細胞の液胞に比べればずっと小型だが、それでも顕微鏡ではっきりと形が観察できる大きさだ。その事実は大隅さんの心をとらえ、のちのオートファジーを「見る」という発見につながった。
安楽研究室で酵母を使って新しい研究を始めることになったとき、大隅さんはこの経験から液胞を研究対象に選ばれた。そして、安楽研究室が達成していた研究の成果を生かし、液胞膜での物質輸送の研究に着手された。この研究は確かな実を結び、液胞膜を介したアミノ酸の能動輸送の発見(1981年)、液胞型ATP分解酵素の単離・精製(1985年)などの論文を発表された。
 私は1983年に小石川植物園の助手に着任し、1987年に日光分園の講師になったが、大隅さんは1988年に駒場東京大学教養学部)の助教授に転出。その後1991年には私が駒場助教授となり、大隅さんと同じ職場でほぼ毎日顔をあわせる関係になった。
 その頃、大隅さんは、ノーベル財団のプレス発表で「Key Publications」としてリストに挙げられた4つの論文のうち、最初の論文(1992年出版)を執筆されていたはずだ。
ノーベル財団のプレスリリースは<こちら
大隅さんは駒場助教授になった時点で、安楽研時代の研究に区切りをつけ、新しいテーマに挑戦された。液胞がいろいろなものを取り込んで、分解していることはほぼ確実だったが、どうやって取り込み、どうやって分解しているかはまったく謎だった。その謎に挑戦されたのだ。
 今となっては、オートファジー系による分解が、細胞の正常な機能維持に必須だと分かり、だから大隅さんはノーベル賞を受賞されたわけだが、当時は「分解」というプロセスに多くの生物学者は興味を持っていなかった。「人のやらないことをやる」上で、分解の研究は格好のテーマだった。

  • 成功を生んだのは「見ることへのこだわり」

大隅さんは、液胞内での分解について調べるにはどうすれば良いかを考えているうちに、ある時、ひらめいたそうだ。
酵母は飢餓状態になると、細胞内部をつくり変えて胞子を形成する。液胞が分解機能をもつとすれば、飢餓状態のときに分解が活発化するのではないか。もしそうなら、液胞内での分解酵素を持たない酵母を飢餓状態に置けば、何か見えるのではないか? 
 当時までに、酵母ではさまざまな突然変異体が集積されていた。大隅さんは、液胞内で分解酵素が作られない変異体を取り寄せ、飢餓状態で何が起きるか顕微鏡で観察してみた。すると、液胞の中に小さな顆粒が次々と蓄積した。細胞質の成分を取りこんだ膜構造が液胞に取り込まれたものの、分解されずに溜まったのだ。
 このように細胞質をとりこむ作用はすでに知られており「オートファジー(Autophagy)」(自ら(Auto)を食べる(Phagy):自食)と呼ばれていたが、誰も見た人はいなかった。大隅さんはそれを世界で初めて顕微鏡で見たのだ。
ノーベル財団のプレス発表では、この実験を“A groundbreaking experiment(画期的な実験)”として紹介している。大隅さんは液胞内に溜まった顆粒を「オートファジックボディ」と命名した。
大隅さんは、1988年の駒場着任の2カ月後にこの画期的な発見をされたそうだ。その後は、電子顕微鏡による観察などの詰めの作業をして、1992年に論文を発表された(注:JBpressの記事にはこの論文から電子顕微鏡写真を引用させていただいた)。
私が駒場に着任した1991年には、大隅さんは次の段階の研究に取り組まれていた。「液胞の形が異常になった突然変異を探してるんだよ」と楽しそうに話されていたことを覚えている。異常が生じているということは、何らかの重要な遺伝子が機能していないことを意味する。大隅さんは形の異常を手掛かりに、その原因遺伝子を突き止めようとしたのだ。
 液胞の形が異常になった突然変異を探すには、酵母を1個1個顕微鏡でチェックする以外にない。これはすこぶる効率の悪い研究方法だ。突然変異を探す多くの他の研究では、もっと効率の良いスクリーニング法が使われている。
 ただし、例外はある。大隅さんがロックフェラー時代に酵母の研究に着手するきっかけとなった、リーランド・ハートウェルの細胞周期の研究だ。
 細胞は分裂をしていない間期(かんき)に、DNAの合成や複製を行う。いまではG1期、S期、G2期と呼ばれる3つのステージでDNAの合成や複製のタイミングがきちんと制御されている。これを細胞周期と呼ぶが、ハートウェルらは細胞周期の制御が異常をきたした突然変異体をたくさん見つけた。そのときには、細胞分裂が正常に進行していない細胞を、顕微鏡観察で探した。
 ハートウェルらが発見した細胞周期分裂異常の突然変異体(cell division cycleを略してcdc変異体と名付けられた)は、細胞周期の研究を飛躍的に進歩させた。そして、cdc変異体の原因遺伝子の多くは、ヒトにおいてガンの原因になる遺伝子だった。ガン細胞は、細胞周期の制御に異常が生じ、分裂してはいけない場所で、分裂を続ける細胞だったのだ。
 ハートウェルは、細胞周期の中心的な制御因子を解明した業績により、2001年にノーベル生理学・医学賞受賞した。大隅さんが液胞の形態異常の突然変異体を探すアプローチを採用されたとき、ハートウェルらの細胞周期の研究法が念頭にあったことはたぶん間違いないだろう。
大隅さんは酵母に薬剤処理をして突然変異を誘発させ、飢餓状態でもオートファジックボディ(液胞内に蓄積する顆粒)がうまく形成されない突然変異を探した。「変異誘発処理をした約5000個のコロニーを形態にもとづいてスクリーニングした結果、10個の候補が得られた」と論文には書かれている。約5000個のコロニーから酵母細胞をピックアップし、細胞の液胞を一つひとつ「見て」、オートファジックボディが溜まっているかどうかをチェックしたのだ。
 その結果、見つかった10個の候補から、「apg1」と命名された1つの変異体が見つかった。この変異体では、飢餓状態でオートファジックボディが確かに蓄積されないので、オートファジーのプロセスに関与する遺伝子の1つに異常が生じているはずだ。
 このapg1変異体は、飢餓状態に3日置くと、4割程度が死んでしまった。この性質を利用して、次の段階では飢餓状態で死亡しやすい変異体がスクリーニングされた。この方法なら、細胞の中を一つひとつ見なくてよいので、ずっと効率が良い。死んだ細胞を赤く染める色素を使い「変異誘発処理をした約3万8000個のコロニーから約2700個の赤いコロニーを選抜した」と論文にある。
 しかし次は見なければならない。大隅さんと、大学院生の塚田美樹さんは、約2700個のコロニーについて、一つひとつ顕微鏡で液胞を見てオートファジックボディの蓄積をチェックし、その結果、蓄積が進まない99個の変異体を発見した。
 これらについて交配実験をして、ABO血液型のように同じ遺伝子の変異(対立遺伝子という)なのか、それとも違う遺伝子なのかを決める作業をした。一部の変異体は胞子をつけないので解析対象から外した。このような作業の結果、最終的に14個の遺伝子の変異体が見つかった(論文では15個と書かれているが、その後の研究で2つは同じ遺伝子と分かったようだ)。
 現在分かっているオートファジー遺伝子は18個なので、大隅さんと塚田さんはほぼ8割の遺伝子をこの時点で突き止めたことになる。この研究を報告した論文は1993年に出版された。

  • 基礎科学をもっと大切に

 さらに次のステップは、これらの遺伝子の機能を一つひとつ解明することだ。この段階では、マンパワーが必要になる。駒場時代にもいくつかの遺伝子のDNA配列を特定して、機能解析へと研究を進められたが、研究が大きく進展したのは岡崎市にある基礎生物学研究所に移籍されてからだ。
基礎生物学研究所に教授として1996年に着任されたあと、大隅さんは助教授に吉森保さん(現大阪大学教授)、助手に野田健司さん(現大阪大学教授)と鎌田芳彰さん(現基礎生物学研究所助教)を採用され、その後に水島昇さん(現東京大学教授)が研究員としてチームに参加され、オートファジー遺伝子の研究を推進する強力なチームができた。
 このチームの下でオートファジー遺伝子の機能解明が進み、やがてこれらの遺伝子が哺乳類でも保存されており、オートファジーによる分解系が動植物・菌類に共通するタンパク質のリサイクルシステムであることが判明した。そして、病気との関連も次々に確認され、医学的にも重要なテーマになった。
 今や、オートファジー研究は役に立つ研究であり、流行のテーマだ。その流行の最先端にいる大隅さんは、流行を追うな、人まねはするなという発言を繰り返されている。それは、基礎科学を愛する研究者の心からの声だ。
 先に紹介した、文部科学省の幹部の方に伝えた私の意見には続きがある。
「最近の科学技術政策の文書を見ると、私たち基礎科学者は息苦しいんですよ。役に立つことばかりが強調され、純粋に好奇心から取り組む研究を大切にしようという姿勢が感じられない。私たちは役に立つ研究の重要性は十分に分かっていますし、文部科学省財務省から予算をとってくる上で、役に立つという説明が重要だと言う事情も承知しています。しかし、私たち大学教員に向けてその説明しかないと、息苦しいんです」
 基礎研究者は、役にたつかどうかではなく、面白いかどうかで研究テーマを選ぶ。これは一見遊んでいるように見えるかもしれない。しかし、研究者が「面白いね」と思うテーマには、意外性と重要性があるのだ。「今まで思いつかなかったけど、それは大事だね」というような着眼やアイデアを、基礎研究者は大切にする。そしてその姿勢は、科学上の大きな謎を解くことにつながる。
 大きな謎が解ければ、その成果はほぼ例外なく役に立つ。なぜなら、大きな謎が解ければ、現象への私たちの理解が大きく深まるからだ。医学に例えれば、対症療法ではなくより根本的な治療が可能になるのだ。
大隅さんのオートファジー研究や、ハートウェルらの細胞周期の研究は、純然たる基礎研究が大きな医学的インパクトを与えた良い例だ。
 しかし、基礎研究は実は役に立つのだということを繰り返し説明しなければならない状況が、私たちには息苦しい。この状況には、文部科学省財務省だけでなく、大学にも責任がある。大学にも、研究そのものの面白さや大事さよりも、獲得した研究費の額や、発表した論文数を評価する風潮が蔓延している。
駒場の小さな実験室の片隅で、酵母の培養器と顕微鏡くらいの設備で、少額の研究予算で実施された研究が、ノーベル賞につながった。このような研究は、今も大学のあちこちで生まれている。そこから生まれた発見を、「面白いね」「今まで思いつかなかったけど、それは大事だね」と評価する文化こそが、次の時代の科学を育てる。
ノーベル賞につながる研究を生み出した1つの原動力は、絶対に人まねはしないというこの信念だ」と書いたが、もう1つ大事な原動力があるのだ。それは好奇心だ。
 未知の大きな謎への好奇心を国民の間で広く共有する社会でありたい。大隅さんのノーベル賞受賞が、その方向に社会を動かす力となることを願って、私もささやかながら、科学の面白さを社会に届ける努力を続けていきたい。