睡眠に関する本

 「決断科学のすすめ」ではさまざまなテーマについて、以下の例のようなブックガイドをつけた。しかし、「睡眠」についてふれることができなかったので、ここで「睡眠」についてのブックガイドを書いて、補足しておこう。
 「決断科学のすすめ」において、急いで重要な決断をする必要がある場合、その場でとりあえずの決断を下したうえで、最終的な決断を一晩待つほうが良いと書いた。その理由は、時間をかけるほど判断材料が増えて、より冷静な決断ができることに加えて、一晩寝て睡眠を確保したあとのほうが、理性的判断力が高まるからだ。
 さて、睡眠については多くの本が出版されているが、下記の本が格段に優れている。

スタンフォード式最高の睡眠」で書かれている重要なポイントを以下に箇条書きにしておく。

  • 睡眠不足は判断力を低下させる。仕事の効率を高めるには、良質の睡眠を7時間程度確保する必要がある。
  • 7時間という長さだけでなく質を確保することが重要。睡眠の質は、入眠後約90分間のノンレム睡眠をいかに深くするかで決まる。
  • ノンレム睡眠を深くするには、皮膚の体温と深部体温の差を小さくする。その方法としては、入眠約90分前の入浴が効果的。すぐ寝る時は、シャワーかぬる風呂が良い。
  • 室温を適温にする。暑すぎても寒すぎてもいけない。適温には個人差がある。
  • 寝る時間を決めて、厳守する。
  • 夕食を抜いてはいけない。
  • 寝る前には脳に刺激を与えない。単調な仕事をして眠気を誘う。PC,スマホは禁物。退屈な本は良いが、刺激的な本はだめ。
  • 睡眠と覚醒は表裏一体。朝起きてから夜寝るまでの行動習慣が最高の睡眠を作り出す。
  • 朝起きたら、外に出て、太陽の光をあびる。これは慨日リズムを整え、体内バランスを覚醒モードに切り替えるうえで、とても大事。
  • 裸足、冷水での洗顔・手洗いも効果的。
  • 朝食を抜いてはいけない。よく噛んで食べることも重要。
  • 頭を使う仕事、重要な仕事を午前中にする。

以上はほぼすべて、私が実践していることだ。ただし、ときどき寝る前にスマホでメールなどをチェックすることがあるので、本書を読んで、この習慣はやめようと決めた。また、「朝起きたら、外に出て、太陽の光をあびる」ことは、最近さぼっていたので、早速今朝から再開した。
スタンフォード式最高の睡眠」では、これらのポイントの生物学的根拠が簡潔に説明されている。睡眠についての理解を深めたい方は、ぜひ一読されたい。
 著者は、スタンフォード大学睡眠生体リズム研究所の所長をつとめる、科学的な睡眠研究の第一人者である。最初に「根拠なき話は書かない」と断言されており、巻末には記述の根拠として、主要参考論文がリストされている。本書の記述は、私がある程度知っていて、生物学者として納得できる内容がほとんどだが、一部に私にとっても意外な知識が書かれている。それらの点については、根拠となる英文論文にあたって、確かめることができる。これはとても大事な点だ。日本語の本では、根拠となる引用文献がない本が多いが、そういう本の記述はあまり信用できないことが多い。
 以下の本は、アマゾンの「睡眠」ジャンルで現時点で4位であり、かなり読まれているようだが、信用できない記述が多く、お勧めできない。

Chapter 7 腸内環境を整える、まで読んで、さらに読む必要なしと判断した。腸内環境についてはとくに関心があるので期待して読んだが、内容は根拠のないことばかりで、がっかりした。Sleepに書かれている内容で、根拠がある重要な点は、「スタンフォード式最高の睡眠」にすべて書かれているので、「スタンフォード式最高の睡眠」だけを読むほうが良い。