66歳になりました

今日で66歳になりました。

幸い、若い人と一緒に山に登って、沢の岩の上を飛び歩いたり、崖をのぼったり、道なき道をやぶ漕ぎしたりできる体力がまだあります。この体力を維持して、あと10年は現役野外研究者を続けたいと思います。

当面、70歳までの5年間で、これまでやってきた仕事をまとめ、今年度からスタートした新しいプロジェクトの成果を発表します。

昨日、アメリカ植物学会から嬉しい知らせが届きました。大学院生の永濱さんと昨年12月にAmerican Journal of Botanyに発表した論文:

https://bsapubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/ajb2.1387?elqCampaignId=27757&elqTrack=true&elq_cid=25669850&elq_mid=43484&utm_campaign=27757&utm_content=Batch1-Email-FY20-Q3-R-DG-TopDownloaded-Authors-W26CS&utm_medium=email&utm_source=eloquaEmail&fbclid=IwAR25XCZCIXSrmUVRahjlHqhjcBBx-xwxGapFQcodCqoSjaq63lJfHiIPZRg

が、2018-2019年にAJBに発表された論文の中で、ダウンロード数上位10%に入ったそうです。

https://twitter.com/payoe___n/status/1255821979111702529/photo/1

九州大学伊都キャンパス生物多様性保全ゾーンで、樹木・草本の開花フェノロジーを調べた研究です。花を数えるという地道なローテクを使って、長年研究されてきたテーマで、国際的に注目を集める研究論文を発表することができました。何よりも、第一著者の永濱さんの努力の賜物です。大学教員のキャリアの最後に彼女の指導ができて幸いでした。

また、東アジア・東南アジアのマテバシイ属について、MIG-seq解析をした国際共同研究の論文が、数日前にアクセプトされました。

7年間かけて東南アジアで集めた植物のサンプルはまだまだたくさんあります(4万点を超えています)。いま、クスノキ科を優先して解析を進めています。夏までにはクスノキ科の解析を終えて、論文を10編くらい仕上げる予定です。先月、Actinodaphneについて研究している岡部君の学位審査が無事終わりました。Actinodaphneについて論文が一編アクセプトされていますが、さらに3編を近いうちに投稿できる見通しです。Actinodaphneはバリバリノキ属という和名でしたが、多系統であることが確定しました。属を分割します。クロモジ属Lindera、ハマビワ属Litseaも多系統です。属の概念を改訂する必要があります。さらに、クスノキ科でおそらく100種をこえる新種があります。クスノキ科だけで論文をたくさん発表しなければなりません。

クスノキ科を夏までに片付けることができたら、続いて東南アジアのブナ科の分類を改訂します。ブナ科にも、とくにベトナムにたくさん新種があり、系統学的に大きな発見もあります。

そのあと、マメ科やアカネ科を調べる予定です。当分の間、論文を書く材料は尽きません。

このほか、キスゲプロジェクトの論文で、あずかっている原稿をできるだけ早く最終チェックして、投稿したいと思います。預かったままの原稿があと一編あります。また、花のRNA-seqの結果についての論文原稿がほぼできています。修士論文を書いて卒業した元大学院生と連絡をとりながら、早めに仕上げたいと思います。

このほか、投稿直前まできて、私のところで止まっている原稿がいくつかあります。ごめんなさい。できるだけ早く投稿します。

決断科学大学院プログラムのプログラム教員で共同研究として取り組んだFuture Earthプロジェクトの研究成果をまとめた英文書籍についても、原稿がほぼ完成していますが、私の最終チェックが遅れているため、まだ出版社に原稿を渡せていません。明日からの連休中に、この仕事にできるだけ決着をつけるたいと思います。

さらに、伊都キャンパスにおける森林移植の成果を検証した論文を2年前にかなり書いたのですが、その後作業が止まっています。この論文を早く完成させて投稿したい。また、送粉ネットワークに関するデータもあるので、論文を書く必要があります。さらに、伊都キャンパス造成工事前に植物分布を徹底してしらべたデータが未発表のままです。また、生物多様性保全事業全体の評価を論文にまとめたいのですが、これらの仕事の論文化に時間を割けるのは来年になりそうです。

さらに、屋久島におけるヤクシカ研究の論文をいくつも発表する必要があります。共同研究者から一編の原稿が届いたので、できるだけ早く読みます。また、大学院生との共同研究の成果を3編発表する必要があります。

以上を片付けるだけで十分時間がかかるのに、今年度から2つの仕事が新たにスタートしています。

一つ目は、環境研究総合推進費「次世代DNAバーコードによる絶滅危惧植物の種同定技術の開発と分類学的改訂」です。私を代表とする3年間のプロジェクトです。昨年6月に設立した一般社団法人九州オープンユニバーシティとして受ける最初の仕事です。

「日本の野生植物総点検プロジェクト」というタイトルで研究計画の概要を公表しました。

https://open-univ.org/archives/1674

また、第一弾として「タネツケバナ属」についてのスライド資料を公表しました。

https://open-univ.org/archives/1678

このようなスライドを全属について作り、"New Flora of Japan"を編集したいと考えています。研究分担者には強力なメンバーが揃っていますが、他の研究者や地方で植物を調査されている方々にも協力をお願いして、日本の野生植物総点検プロジェクトをオープンサイエンスとして進めたいと思います。連休明けの7日には、Zoomでキックオフ会議をやります。

二つ目は、新型コロナウイルスの感染拡大、緊急事態宣言の下で、市民の行動・不安・知識がどのように変化しているかについての、心理学的・行動生態学的研究です。心理学が専門の決断科学センタースタッフと共同で、4月から開始しました。緊急事態宣言直後から、Yahooクラウドソーシングを利用したウェブアンケートを毎週実施しています。第一回の調査でとても意味のある結果がとれたので、論文を準備中です。研究して論文を書くだけでなく、アウトリーチにも時間を割いています。

https://open-univ.org/archives/1686

に、アンケートで尋ねた「科学リテラシー」に関する20項目についての集計結果を公表しました。「タンパク質はアミノ酸でできている?」という質問に対する正解率は、わずか6%でした。

これらの20の質問項目についての解説スライドを順次公開していきます。第4回まで公開しました。

https://open-univ.org/archives/1640

今後、20回分のスライドを5月中には完成させ、広く普及啓発をはかり、その成果をモニタリングしたいと思います。

一方で、どのような性格や道徳観を持った人が予防行動のレベルが高いか(あるいは低いか)、不満のレベルが高いか(低いか)、不安のレベルが高いか(低いか)、についての調査結果を分析中です。性格因子や道徳基盤に関する従来の心理学的研究を、行動生態学的視点から見直したいというアイデアを、決断科学大学院プログラムの7年間を通じて育ててきました。そのアイデアを実行に移しています。この成果から、人間の行動生態学的研究を大きく展開できそうです。このような研究を進めながら、新型コロナウイルス感染症流行下での予防行動や不安対策について、社会的に問題提起・提案を行っていきます。

「決断科学」(Decision Science)は、結局は人間の行動生態学だ、と考えるに至りました。英文書籍にまとめる成果や、新型コロナウイルス感染症流行下での予防行動や不安についての研究成果をもとに、「決断科学」または「人間行動生態学」に関する教科書を書きたいと考えています。「保全生態学入門」に続く、広く読まれるテキストになるだろうと予想しています。

その「保全生態学入門」の改訂作業に着手しています。今年に入ってから時間がとれず、第2章の改訂までで作業が中断していますが、英文書籍の原稿を早く出版社に渡して、「保全生態学入門」の改訂作業を再開したいと思います。

こうやって書いてみると、やりすぎですね。時間がいくらあっても足りません。

一方で、キスゲを研究する大学院生がいなくなったため、キスゲの鉢の水やりをして、系統を維持しています。これは、一種の瞑想の時間として使っています。心を無にして、鉢ひとつひとつに水やりをする行為に1時間くらい集中するのは、瞑想のトレーニングとしてとても良いと感じています。

九州オープンユニバーシティ代表理事として、毎日スタッフとのZoom会議も開いています。この一般社団法人の事業を育てることも、ぜひやり遂げたいミッションです。

というわけで、66歳になっても私は元気です。