植物レッドリスト改訂作業大詰め

27−29日の環境省S9プロジェクト(アジア規模での生物多様性観測・評価)の全体会議を終えて、30日からは、植物レッドリスト改訂版の最終チェック作業に着手。昨日と今日は、ほぼ終日、学名のチェックに追われた。まだ半分も済んでいない。なかなか時間がかかる仕事だ。
Flora of Japanという英文の出版物で、いろいろな植物に新しい名前がつけられ、それらがBG-plants(http://bean.bio.chiba-u.jp/bgplants/ylist_main.html)に採用されている。その数は、植物レッドリスト掲載種に限っても、100に近い。植物レッドリストの学名をこれらに機会的に置き換えるというのが、一番手間のかからない方法だ。しかし、Flora of Japanで提唱された学名の中には、首をかしげざるを得ないものが散見される。一方で、植物レッドリストの学名はできるだけ変えないほうがよい。このため、Flora of Japanで提唱されでいても、Plant List(http://www.theplantlist.org/)でアクセプトされていない場合には、植物レッドリストの学名を原則として生かそうと考えた。その結果、植物レッドリストの現行学名がFlora of Japanと一致しないケースについては、逐一Plant Listをチェックし、さらに必要に応じて関連文献・資料を参照して、どの学名を使うかを判断することになった。
どんな学名が、「首をかしげざるを得ない」かを書くと、命名者を名指しで批判することになるので、ここでは控えよう。
一般論として、学名はできるだけ変えるべきでない。しかし、分類学者には、いたずらに名前をいじりたがる習性がある。私はこれを悪癖だと考えている。学会レベルで、ガイドラインあるいは倫理規定を定めるほうがよいのではないだろうか。
一方で、最近の急速な分子系統学的研究の進歩を反映して、属や科の概念・範囲が大きく変化したケースが少なくない。属の概念・範囲が変化した場合、二名法の下では、種名も変えざるを得ない。今回の改訂にあたって、相当数の学名を変えざるを得ない背景には、この事情がある。
細かく分けても、範囲を大きくとっても、どちらでも良い場合には、大きな範囲の属名を使うほうが実用的である。たとえば、サクラ属(Prunus)の範囲を広くとるほうが、細分するよりも、利用者には覚えやすいし、わかりやすい。サクラ属の場合、細分しようが広くとろうが、どれかの群の単系統性が失われることはない。どちらをとるかは、研究者の趣味の問題だ。この場合には、分類学者の立場ではなく、ユーザーの立場で、どちらが良いかを決めるほうが良い。サクラ属を細分し、日本の多くのサクラ属の種にCerasusという属名を使うと、これまでにPrunusの属名で書かれた多くの論文(分類学の論文だけでなく、生態学や生理学の論文)の記載と不整合が生じる。これを避ける観点からは、CerasusよりもPrunus(広義)を使うほうが良い。国際的にも、Prunusの属名が広く通用している。
一方で、ハゼノキ属(Rus)の場合には、従来の概念・範囲では属が多系統である。この問題を解決するために属を広くとると、これまでに記載された多くの属をハゼノキ属に含めなければならない。このため、狭義のハゼノキ属(Toxicodendron)をヌルデ属(狭義のRus)から区別する見解が、広く採用されつつある。実用上も、毒があってかぶれるToxicodendronと、かぶれない狭義のRusを区分するのは、一般ユーザーにとってわかりやすい分類だ。
このような判断を個別にしながら、学名選定作業を進めている。まだフウロソウ科が終わったところ。約3分の1が済んだ段階だ。
もうすぐ筑前前原駅に到着する。パソコンを変え、モデムを変えたので、快適。