楽観的な人ほど予防行動をしていない

新型コロナウイルス感染症流行下の心理的状況・予防行動と性格の関連について調べた研究の結果が、昨日PLOS ONE誌に公表されました。

-https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371%2Fjournal.pone.0235883&fbclid=IwAR04m79ME4RkuB4ja05wQTGRQp6xfNvXc7Prr3eSL3B9Nbb6SSWg30tkimk

新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言発出直後の2020年4月8日からオンライン調査を開始し、第一回の調査では日本全国から1856名の有効回答を得ました。その後6月中旬まで毎週調査を実施し、10回分の時系列データを得ましたが、今回の論文は第一回の調査結果を分析したものです。この研究では、市民の性格が予防行動や心理的負担(ストレス・不安・抑うつなど)に影響するのではないか、という点に注目しました。人の性格には、神経質・外向性・協調性・良心性・開放性という5つの基本因子(ビッグ5)があることがわかっています。これらはいずれも、人間の協力行動とともに、おそらく多様化を促す選択圧の下で進化した性質です。いずれの性格因子においても、人はきわめて多様です。この多様性(個人差)に注目した本研究の結果、5つの性格因子はすべて予防行動に有意に関係していました。神経質・外向性・協調性・良心性・開放性のそれぞれにおいて傾向が強い人ほど予防行動のレベルが高いという結果が得られました。このような個人差が、感染リスクの違いを生んでいる可能性があります。神経質傾向が弱い人(=楽観的な人)、外向性傾向が弱い人(=他人の評価を気にしない人)、協調性が低い人は、予防行動をしっかりとるように、自覚を強めてほしい。良心性は自制心と関係が強い性格因子です。自制心が弱い人は、自分ではなかなか予防行動をとれない可能性があります。周囲のサポートが必要でしょう。開放性は知識欲と関係しています。感染の動向などをあまり気にしたい人は、予防行動レベルが低いかもしれません。教育の機会を増やし、予防に関する正確な知識を普及することが重要だと考えます。論文投稿後に、これらの結果についてさらに分析を進めています。5つの性格因子は、因子分析という方法で評価されています。この方法は、性格因子間の相関を許しています。行動生態学的には、5つの性格因子間の相関が気になります。相関がマイナスならトレードオフがあると考えられます。この相関について調べてみると、やはりトレードオフが見つかりました。この点は、基礎科学的にも感染対策上も重要と考え、分析作業を進めているところです。結果を早く論文にまとめたいと思いますが、本業の絶滅危惧植物調査も繁忙期に入りつつあり、時間が足りません。