ソーシャル・ビジネスが拓く新たな社会発展

しばらく前に読んだ本のメモをアップロードしておきます。安倍内閣の第三の矢「成長戦略」には、黒田異次元緩和ほどのインパクトがありません。それは、将来の社会へのビジョンを欠いているからではないかと思います。そもそも経済を成長させることで、社会をどう良くしていくのか? その点についてのビジョンを欠いたまま、目先の成長だけを追求している気がします。ユヌスさんの以下の本は、現代の資本主義が直面している大きな課題をいかに解決するかについて、明快なビジョンが提示されています。グラミン銀行を成功させた実績にもとづいているだけに、ユヌスさんの主張には説得力があります。ぜひ一読を勧めます。
なお、

もぜひご一読ください。日本におけるソーシャル・ビジネスのパイオニアである駒崎さんは、ソーシャル・ビジネスについてのユヌス流の「厳格な定義」を日本に持ち込むことは、運動論的自殺を意味する、と主張されています。この点では、ユヌスさんのこだわりと、駒崎さんのこだわりがぶつかってしまっていますが、両者を読み比べれば、個人的なこだわり方の違いだけですね。めざす方向は同じなので、運動論的な対立は回避すべきだと思います。

ソーシャル・ビジネス革命
世界の課題を解決する新たな経済システム
ムハマド・ユヌス 早川書房 1995円


はじめに ソーシャル・ビジネス‐夢から現実へ

  • 現代の資本主義理論の最大の欠陥とは、人間の本質を誤解している点だ。現代資本主義では、ビジネスを営む人間は一次元的な存在として描かれており、利益を最大化することが唯一の目的だとされている。つまり、人間は利益の最大化という経済的目標を一途に追い求めるとみなされているのだ。これはずいぶんと歪んだ人間像だ。
  • 確かに人間は利己的な存在だ。しかし同時に利他的な存在でもある。すべての人間には、このふたつの性質が共存している。

第1章 なぜ今、ソーシャル・ビジネスなのか?
ソーシャルビジネスの7原則
1 経営目的は、利潤の最大化ではなく、人々や社会を脅かす貧困、教育、健康、情報アクセス、環境といった問題を解決することである。
2 財務的・経済的な持続可能性を実現する。
3 投資家は投資額のみを回収できる。投資の元本を超える配当は行われない。
4 投資額を返済して残る利益は、会社の拡大や改善のために留保される。
5 環境に配慮する。
6 従業員に市場賃金と標準以上の労働条件を提供する。
7 楽しむ!

  • 寄付に頼るのは、組織の持続可能な運営方法とはいえない。
  • すべてのビジネスリーダーが果たすべきひとつ目の社会的責任は、事業によって地球上の誰ひとりの生活も脅かさないということだ。
  • ソーシャル・ビジネスでは、社会問題を解決する責任は政府と市民で分担するべきだという考え方をとっている。さらに、個人には政府にはない能力があると考えている。
  • ソーシャル・ビジネスで成功するためには、実践的なビジネス・センス、懸命に働く意欲、チームを築く能力、協力者の人脈を作る能力、行動の成果を測る能力、ミスを認めてやり直す素直さが必要だ。
  • 今日の世界は私たちの先祖が生きた世界とは違う。疫病の大流行はもうない。奴隷制度もない。帝国もない。アパルトヘイトもない。女性に投票権があり、かつての閉鎖社会には自由市場が広がり、世界中の人々が人権を求めている。アメリカでは黒人の大統領さえ誕生した。世界は変わる。そして、帰るのはほかでもない私たちなのだ。

第2章 産みの苦しみ‐グラミン・ダノンの事例から学ぶ「適応」と「変化」の教訓

  • したがって、私は経費を回収できる水準までショクティ・ドイを値上げするべきだと主張した(書き込み:ええ?)
  • そこで、グラミン・ダノンは値上げに踏み切った。しかし、その結果はさんざんだった(書き込み:やっぱり!)

第3章 ソーシャル・ビジネスを始める

  • 経験から言えば、事前にどれだけ念入りな調査を行っても、ソーシャル・ビジネスの設立直後に起こる問題はたいてい予測できない。問題点を見つけるには、とにかくビジネスを開始し、自然と明らかになるのを待つしかない。
  • ソーシャルビジネスは、営利企業と同じ労働市場から人材を惹き付ける必要がある。ということは、一般企業に匹敵する給与や福利厚生を与えなければならない。

第6章 グラミン・ヴェオリア・ウォーター‐世界の水問題を解決するソーシャルR&Dプロジェクト

  • 住みよい世界を作り、人類の生活を向上させる手助けをしたいという欲求は、個人的な利益を積み上げたいという欲求と同じくらい、人間性に深く刻み込まれているのだ。したがって、経済理論の大きな欠陥のせいで、ずっと自分自身の利他心を抑圧してきたビジネスマンたちが、それを解放するチャンスに色めき立つのはごく自然なことだ。

第7章 ソーシャル・ビジネスのグローバル・インフラの構築
太平洋の反対側では、まったく視点の異なる興味深いソーシャル・ビジネス・プログラムが進められている。・・・九州大学では、すでにいくつかのプロジェクトが進行している。

  • ワン・ビレッジ・サン・ポータル‐ハイテク情報システムを利用して、バングラデシュの特定の村の社会、経済、教育、農業、文化に関する情報を収集・整理し、持続可能な方法で社会問題を解決する独創的なアイデアや計画を推進する試験的プログラム。
  • E-ヘルスおよびE-アグリカルチャー‐健康記録や農業情報のデータを管理し、個人やサービス機関がいつでもアクセスできるようにするプロジェクト。
  • E-パスブック‐グラミン銀行の借り手が預金や借入などの金融サービスを利用できるようにするシステム。
  • 代替エネルギー源の実験‐太陽光、風力、バイオ燃料など、持続可能なエネルギー源の新しい生成、貯蔵、伝送、利用方法の検証。

第9章 貧困の終焉‐その時は今

  • 今回の金融危機によって、資本主義の欠点がこれまで以上にはっきりと露呈した。本来、金融市場は人々のニーズに応えるためのものだ。・・・しかし、従来の資本主義では、際限なく利益を上げることが求められる。
  • 2008-2010年に連続して起こった危機を緩和するべく、各国の政府は金融危機を生み出した張本人である金融機関に、巨額の救済措置を講じようとしている。しかし、残念ながら、危機の犠牲者、つまり底辺の30億人と地球そのものに、同じ規模の救済措置を講じようという話はまったく話題にさえ上がっていない。
  • グローバル化は、何よりも貧しい人々に利益をもたらす大きな力となる。たとえば、過去10年間でグローバルな貿易が普及したおかげで、中国、インド、バングラデシュの経済は大きく成長し、多くの人々が貧困から逃れることができた。
  • 一見すると、世界の切迫した問題はあまりに複雑で、解決不能にさえ見える。しかし、考えてみてほしい。恐ろしい伝染病、蔓延する栄養不足、汚染された飲み水、医療不足や教育不足といった問題は、すべて世界のどこかで解決されてきた。
  • 今から20年後や50年後の世界はどうなっているだろうか? それを考えるのは確かに面白い。しかし、私はそれよりも大事な問いがあると思っている。今から20年後や50年後にどのようは世界を実現したいか?」
  • 私は、今こそ未来を受動的に受け入れるのをやめ、積極的に作り出していくべき時だと思っている。私たちは、実現したい未来を思い描くかわりに、未来予想にばかり時間や知恵を費やそうとする。・・・しかし、実世界の出来事は人々の空想によって突き動かされるものなのだ。
  • したがって、2030年までに実現したい実現したい世界を「願い事リスト」に書きだせば、2030年の世界を描けるだろう。たとえば次のような世界だ。

・貧しい人がひとりもいない世界
・海、湖、河川、大気の汚染がない世界
・お腹を空かせたまま眠りにつく子どもがいない世界
・予防可能な病気で早く亡くなる人がいない世界
・戦争が過去の出来事になっている世界
・誰もが国境をこえて自由に移動できる世界
・誰もが奇跡の新技術を利用して教育を受けられ、読み書きができる世界
・世界の文化財を全員で共有できる世界

  • 幸いにも。今ほど夢が実現しやすい時代はない。私たちに必要なのは、現在に未来の夢への入口を作ることだ。その入口を過去でふさいではいけない。・・・だから、この夢を信じよう。そして、不可能を可能にするために努力しよう。もし、あなたが私と同じ夢を抱いているなら・・・ぜひ一緒にこの胸躍る旅に出かけませんか。