新興国アントレプレナーシップ

九州大学ロバート・ファン/アントレプレナーシップ・センター(QREC)開講の新規科目「新興国アントレプレナーシップ」が今日から始まることを今朝知り、市内での先約の会議を中退させていただいて、終わりのほうだけ出席させていただいた。そのあと、リーディング大学院プログラムコーディネータとして4名の先生方にご挨拶した。QRECとは、連絡をとる必要性を感じていたので、良い機会を得た。
QREC科目「新興国アントレプレナーシップ」第一回目の今日は、センター長の谷川先生による趣旨説明と、3名の講師による講義。

  • 「プログラム趣旨、概要説明」(谷川 徹 九州大学産学連携センター教授/QREC長)
  • 「途上国における適正技術・サービスの必要性と私たちの取り組みのありかた−See-D Contestを例にして−」(遠藤 謙 See-D Contest代表)
  • 「途上国問題と日本、先進国の対応の現状と課題」(香川顕夫氏 九州大学特任教授/JICAより出向中) 
  • 「BOPビジネスの現状と本質について −大学の現場からー」(大杉卓三 九州大学日本エジプト科学技術連携センター学術研究員)

私は大杉先生の講義の途中から聞き、そのあとの谷川先生司会によるパネルディスカッションを聞いた。
遠藤さんはまったく存じ上げなかったのだが、See-D Contestという志のあるプログラムを組織し、その代表をつとめられている。See-D Contestのウェブページには「MIT メディアラボにて最先端の義足の研究開発を行いPh.D取得。また学生のときからMIT D-labで途上国向けの義足の開発および普及活動を行う」と紹介されている。MIT D-labのことも知らなかった。QREC科目「新興国アントレプレナーシップ」をきっかけにして、九大でこのような国際プログラムが立ち上がるといいな。この方向では、博士課程リーディングプログラムとも連携できそうだ。
以下、大杉先生の講義とその後のパネルディスカッションを聞きながら書いたツイートのまとめ。

  • バングラデシュでは米が年に3回とれる。そのおかげで、1億5000万人の食事がまかなえている。面積は144千平方キロ(日本の約3分の1)。数百万人単位で海外に出稼ぎに出ている。
  • 九大とグラミンとの研究交流協定は2007年締結。ノーベル平和賞は2006年。当時大杉先生はウズベキスタンに。
  • パネルディスカッションでSeed -D Contest(http://see-d.jp/ )遠藤さんが発言中。ローカルな現場の問題解決に関するボトムアップのアプローチに徹している。スケールアップは他の取組みに委ねる。
  • 次はJICAからの出向で九大特任教授をされている香川さんの発言。以前はNGOと国際機関や政府機関が対立していた。今はたがいの役割を尊重して協力している。国際機関や政府の大がかりな事業(ODAなど)には、負のインパクトを受ける人もいる。(NGOはその点に目配りがきく)
  • 次は大杉さんの発言。ソーシャルビジネスは従来のビジネスの隙間を埋めるもの。営利を目標にした従来のビジネスでカバーできていない領域が実はかなり大きかった。そこをソーシャルビジネスが埋めている。

このあと学生から遠藤さんに、「先端的な技術開発でなく途上国向けの技術開発のどこに魅力を感じるか」というような質問があった。遠藤さんからは「ある制約条件の下でベストの製品を作るのが技術者のだいご味。先端的な技術開発と途上国向けの技術開発では制約条件が違うだけ。途上国では製品をとても喜んでもらえる点が嬉しい。」という趣旨の回答があった。
議論の中で、アフリカなど発展途上国の市場では、中国・韓国に比べて日本は大きく出遅れており、存在感が小さいという点を、香川さんがしみじみと発言されていた。とくに道路では、日本企業では計画から実施までかなり時間をかけるのだが、中国は計画から数カ月くらいで工事を始めてしまう。単価も安いので、道路では日本は競争力がない。工事の際には、労働者が中国からたくさんやってきて、村ができ、移民も進む。・・・このような中国の圧倒的存在感を、私はカンボジアなどで経験しているので、よくわかる話だ。日本は橋のように技術力がある分野でないと中国に勝てないと香川さんが発言されていたが、橋に関しては今や韓国が技術力を高めているので、この分野でも日本は影がうすくなっている。カンボジアへの援助額は、今や日本より韓国のほうが上。アンコールワットプノンペンに直行便を持つ韓国の存在感は、カンボジアではいまや日本を凌駕している。
しかし、私は中国や韓国では弱くて、日本こそが国際貢献で活躍できる分野がたくさんあると思う。QREC科目「新興国アントレプレナーシップ」を聴講している学生には、それがどんな分野かをよく考えてほしいと思う。