私がももクロに注目する理由:人材養成法と人心掌握術

ももクロのことを書いたら、早速トラックバックが返ってきましたね。ももクロファンは、生態学会でも確実に増えているようです。ただし、私はももクロファンではありません。やや黄色い声が、いまひとつ私の趣味ではないのです。平原綾香とか、いきものがかりの声の方が好きですね。
ではなぜももクロに注目するかというと、その人材養成法と人心掌握術に惹かれているのです。トラックバックをくださった日々粗忽さんが、
http://d.hatena.ne.jp/sawagani550/20111013/p3
で書かれているように、「ももクロの魅力は,現在進行形の青春映画/成長物語であるところ」にあります。要するに、少年ジャンプの成功方程式=友情+努力+勝利、を現在進行形のドラマとして実演して、その物語をファンと共有するという戦略です。これは、人心掌握術としては見事ですね。このアイドル養成モデルの原型は、AKB48でしょう。秋元康さんは、AKB48高校野球に例えていました。最初はへたくそでも、みんなが一生懸命がんばって、次第にうまくなる。そのプロセスをファンが共有できるようにプロデュースするのが秋元戦略。ももクロの育成をまかされた川上アキラさんは、AKB劇場を見に行って、 AKB48(プロデュース戦略)の完成度の高さに感銘を受けたそうです。そこで、AKB48をこえるアイドル育成戦略を考えたに違いありません。そして川上さんは、高校野球キン肉マンに置き換えた。数々の困難に立ち向かって、友情を育みながら成長し、最後に勝利するヒーローマンガは、少年漫画の王道です。これをアイドルにやらせようと考えた。この発想は面白いですね。
まず最初にやったのは、初期メンバーに作詞させた「あの空へむかって」の路上ライブ。自分たちの目標を歌詞にした歌だから、心をこめて歌えます。たとえ数人しか聞いていなくても、一生懸命歌う。ももクロの原点がここにあります。
初期にはメンバーがかなり入れ替わっていますが、おそらく「数々の困難に立ち向かって、友情を育みながら成長」するユニットのメンバーを試行錯誤で選んだのでしょう。成長の過程で不和が生じては困るので、素直な性格で、協調性があり、目標に向かって一生懸命頑張る子を選んだのだと思います。そして、このメンバーならいけるという6名が決まった時、次にやったのは、盛岡から福岡まで、ワゴン車に車中泊をしながら家電量販店でのミニライブをまわる夏休み全国ツアー。この過酷なライブツアーを「戦い抜いた」メンバーは、戦友です。しっかりした信頼関係で結ばれ、少々の困難にもたじろがずに、目標に向かってがんばるチームができた。そこで満を持してのデビュー。そして彼女たちが誓い合った目標は、「紅白歌合戦出場」。この目標設定も、実にうまいと思います。たぶん。自分たちで立てた目標でしょう。
日々粗忽さんは、「ももクロは,アイドル戦国時代を勝ち抜いて一番の売れっ子になることを目標としていて」と書かれていますが、「一番の売れっ子」=売上げ、というコンセプトではない。ももクロのコンセプトは、いつも笑顔を絶やさず、ひとりでも多くのファンに元気をあげること。したがって、目標はレコード大賞のような俗っぽいものではダメなのです。武道館を満席にする、というような、ファンの支持こそ、ももクロの成功の指標。この点、「紅白歌合戦」は国民的番組ですから、そこに出場すれば、こどもからお年寄りまで、武道館に来ない幅広いファンに聴いてもらえる。そこに出場するという目標は、中学生のピュアな心を打つものです。「あの空へむかって」で漠然と抱いた夢が、「紅白歌合戦出場」という具体的な目標に変わった。まだ中学生だったメンバーにとって、この目標はとてつもなく高いものだったでしょうね。でも、与えられた目標が「レコード大賞」だったら、ももクロの今の成功はないと思います。賞をとるためではなく、あくまでファンに喜んでもらうために「戦う」。このコンセプトが、いまやAKB48をおびやかす存在にまで、ももクロを育てたのだと思います。
デビュー後に、ももクロに与えられた課題は、まさにヒーローマンガ路線。まず、一人ひとりに色が割り当てられ(これはゴレンジャー)、「戦う怪盗少女」としてアクロバティックなパーフォーマンスと激しいダンスをともなう長時間ライブを「戦い続ける」ことが要求されました。曲は、ピュアな青春ソングに加えて、プロレスをイメージした闘魂ソング、勤労感謝の日に発売された労働讃歌など、多種多彩ですが、常に前向き、ひたむき。このひたむきな姿が、現代社会でここまで広い支持を集め、感動を生んでいることに、私はとても興味を持っています。社会現象として、とても興味深い。
次第に人気が出てきて、さあこれからという矢先、チームの精神的支柱とも言える、早見あかりの脱退という大事件が発生。これは青春ドラマを地で行く展開でしたね。おそらく、激しさを増すももクロのパーフォーマンスに対して不安を感じていた早見に、女優として生きる道もあるよと、スタッフの誰かがアドバイスしたのではないでしょうか。早見あかりは背が高く、6人の中では飛びぬけて大人びた容姿の持ち主です。6人の中で、女優として独立できるとすれば、彼女でしょう。一方で、声量と体力に自信が持てなくなっていたようです。周囲を見て気配りができる人物だったこともあり、自分が引くほうが、ももクロのためにもなると考えたのでしょう。この事件は、計算されたものではないはずですが、「数々の困難に立ち向かって、友情を育みながら成長」するアイドル養成戦略をとった結果として、起こるべくして起きたのかもしれません。その結果、「紅白で会おう、残ったメンバーはステージで、早見は司会者で」という新たな目標が設定されました。そして残ったメンバーはももクロZとして快進撃を続け、ついに紅白出場を果たしました。早見あかりは、少しづつですが、CMやドラマに登場するようになりました。早見が女優としてもっと成長し、ある程度の成功を収めれば、ももクロZと紅白で再開を果たすという夢も、かなうかもしれません。その夢を実現させてあげようという善意が、いろいろなところでこれから動いていくと思います。これも、社会現象として面白いですね。みんな、夢を実現するために一生懸命がんばっている者を応援したいのです。良いことだと思います。
ここまでドラマを作り、多くの人たちの共感を得た以上、ももクロの快進撃は当分続くでしょう。レコード大賞も夢ではないと思います。しかし、彼女たちには、レコード大賞ではなく、もっと違った目標、大きな「試練」が与えられるでしょう。高校を卒業したメンバーも出始めました。これからだんだん大人になっていく過程で、川上さんがももクロにどのような「試練」を与え、彼女たちがその「試練」を突破してどのように成長していくかには、私も興味があります。
ファンは解散のことなんて考えていないと思いますが、AKB48と違って、ももクロはメンバー5人の個性と物語で成り立っています。したがって、彼女たちが活動を終えるときが、ももクロ解散の日になります。私がマネージャーなら、彼女たちの将来を考え、解散のタイミングをはかりますね。まだしばらく先の話ですが、10年以内にはその日が来るでしょう。どういう形で最後のステージを作るか、そのことにも興味があります。ここまで見事な人材育成をした川上アキラ氏の手腕に期待しています。

※この週末は、ホテルにこもって書類を書いています。朝からずっと申請書と格闘していると、さすがに疲れてきました。この記事は気分転換です。私に仕事をたのんでいるみなさん、どうかご容赦を。