日本の研究者は内向きか?

ノーベル化学賞を受賞された根岸さんが「日本の若者よ、海外に出ろ」と呼びかけたことがきっかけになって、日本から海外に出る研究者(とくに若手)が減っているという報道が続いている。今日の夕食時には、NHKでこの問題をとりあげていた。
読売新聞は9日に「日本の研究者、内向きに…海外派遣10年で半減」と題する記事を掲載した。
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20101009-OYT1T00578.htm
掲載されたグラフを見ると、共同研究などのため海外に長期(31日以上)にわたって派遣される国内の研究者が、ピーク時(2000年ころ)の約半分に減少している(グラフから読むと、約7600人から約3800人に減っている)。
ただし、この数字は、「31日以上」のケースについて集計したものだ。
総数については、科学技術白書平成22年度版にグラフがあった。
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpaa201001/detail/1296486.htm
平成17年までは増え続けていたが、平成17年度の13万7407人をピークに減少に転じ、平成19年度には13万2067人となっている。
日本学術振興会海外特別研究員の申請状況(http://www.jsps.go.jp/j-ab/ab_shinsei.htm)を見ると、平成19年度の857人から平成23年度の753人へと減少している。このため採択率は、15.3%から19.1%に増加した。
このような数字を見ると、確かに日本から海外に出る研究者は減っている。
ちなみに、第3期科学技術基本計画は平成18年3月に閣議決定され、平成18年度から平成22年度まで。この開始とともに、海外派遣者数が減りはじめたことになる。日本学術振興会海外特別研究員申請数については平成18年度以前の資料がみつからないが、私の予想ではやはり17年度ころがピークだったのではないか。
第3期科学技術基本計画で大型プロジェクトにより大きな研究予算が投入され、研究者は国内の研究開発対応で忙しくなった。また大型研究費雇用型のポスドクが増えた。このような事情が背景にあるものと思う。
ちなみに、日本の論文発表数もこの時期に減少した。私自身も経験したことだが、大型の研究予算をとるとマネージメントに割く時間が増え、論文を書く時間は減る。このため、よほど努力しないと、獲得予算規模に反比例して論文生産力が減ることになりかねない。
私の経験的判断では、日本の研究者が過去10年間で姿勢として内向きになったとは思えない。しかし、3年〜5年のプロジェクトにふりまわされるようになったことは確かである。
海外に出る研究者を増やすこと自体は、難しくない。「組織的若手研究者派遣事業」のような予算を投入すれば、海外派遣者数は確実に増える。このような施策をとることに賛成だが、それだけで日本の研究のレベルがあがるわけではない。
大学のポスト削減が続いたために、若手教員数が大きく減ってしまった。これは日本の科学技術の将来にとって深刻な事態だ。この事態の改善が、もっとも重要だと考える。