冒頭文(ヘッドライン)の重要性

論文であれ、一般書であれ、文章を読むときに私は、段落の冒頭の文章(ヘッドライン)だけを拾い読みすることが多い。ヘッドラインだけを拾い読みしても十分に意味がとれる文章は、わかりやすいし、読みやすい。そして、このような文章では、ヘッドラインの次の文章、その次の文章を読んでも、説明の順序がきちんと整理されていることが多い。しかし、ヘッドラインだけを拾い読みすると、肝心なことがわからない文章にしばしば出会う。
たとえば「科学者・技術者のための英語論文の書き方」(先日紹介した3冊の本のひとつ)では、ヘッドラインに重要なポイントが書かれていない場合が多い。190-191ページには、ヘッドラインに重要なポイントを書く方法が図解されているのだが、著者自身がこの方法を実行していない。「練りこみが足りない」とコメントしたのは、このためである。
3章「科学論文の基本構成」の11セクションのヘッドラインを抜書きしてみよう。

  • (1)適切な研究戦略と戦術からよい研究が生まれるように、筋の通った論理とわかりやすい構成によって、よい論文ができあがる。
  • (2)科学論文の基本構成を図3.1に示す。各項目については、4章以降で詳しく説明するが、ここで科学論文の論理と構成について二つの基本的レベルで考えてみることにしよう。
  • (3)よい英語論文を書くためには単に上手な英語が書けるということよりも、論理と構成が大事であるということは、英語を母国語とする書き手の論文のなかにも、不完全なものがあることを考えればよくわかる。
  • (4)さて、科学論文を書くとき、論理的で構成の良い論文を書くのに大変役立つのが、outline(論文の粗筋)をつくることである。
  • (5)パラグラフ(段落)も、セクションの場合と同様、英語を母国語とする書き手でもうまく書けないことが多い。(中略)まず、取り上げる話題をパラグラフの出だしの文章で説明する。
  • (6)パラグラフの出だしの文章を上に述べたように書くと大きな利点がある。
  • (7)本論では、いくつかの文章を組み合わせて、出だしの文章をさらに詳しく説明する。
  • (8)パラグラフの最後は、適切な結びの文章を入れて終える。
  • (9)一つの話題に対して、出だしの文章、本論、結びの文章で一つのパラグラフを構成するのが基本だから、一つのパラグラフの文章の量もおのずと決まってしまう。
  • (10)具体例で、パラグラフの構造(structure)と構成(organization)について検討してみよう。
  • (11)どうすればよいパラグラフが書けるかがわかれば、パラグラフ同士をどのようにつなげば、よい構成になるかもはっきりしてくる。

「科学論文の基本構成」と題された3章の文章には、3つの大きな問題点がある。まず上記のように、ヘッドラインを読んだだけでは、重要なポイントが理解できない。たとえばヘッドライン(6)で、「上に述べたように」と書かれている内容は、前の段落の中ほどまで読まないとわからない。その内容が「まず、取り上げる話題をパラグラフの出だしの文章で説明する」なのだから、苦笑させられる。
第二に、冗長な文章が使われている。(3)はその代表例である。ちなみに著者は、巻末に掲載された「秘訣10」の2番目に、「文章はSimple is bestの原則に従う」と明記している。
第三に、11のセクションの構成が練られていない。「筋の通った論理とわかりやすい構成」が大事だという著者の主張が、この点でも実践されていない。
結局、著者たちは、文章の書き方の技術を実用水準にまで磨き上げることに成功していない。著者たちは、論理的でわかりやすい文章のための原則を提示してはいるが、その原則に従って文章を書く実践的な技術を提示してはいない。この点で、バーバラ・ミントの本とは決定的な違いがある。