考察の書き方:結論を先に書くか、後に書くか?

論文をある程度書きなれている人にとっても、考察において結論を先に書くか、後に書くかは、悩ましい問題ではないだろうか。結論を先に書くほうが、読者には親切である。しかし、結論を先に書いてしまうと、考察の結び方に苦労する。結論をもういちど繰返すのは冗長だし、結論以外のことを書いて結ぶと、最後がしまらない。今日はこのテーマをとりあげ、結論は最後に書くべきだという考えを述べる。
まず、結論を先に書く場合の、考察の構成例を紹介し、次に、結論を先に書くことを推奨する主張を紹介し、最後に結論を最後に書くべきだと考える理由を述べる。

  • 結論を先に書く場合の、考察の構成例

以下の仮想例は、考察において最初に結論を述べる場合の、構成の枠組みである。

本研究の結果は、仮説Aではなく、仮説Bを支持している。ここで得られた結果は、われわれが知る限り、仮説Bを実験的に支持した最初の証拠である。仮説Bは、3つの点から支持される。第一に、・・・。第二に、・・・。第三に、・・・。
研究者M(2008)は、これまでの研究をレビューし、仮説Aを支持した。しかし、これまでに得られた研究結果はすべて観察にもとづくものであり、どちらの仮説が正しいかを実験的に検証したものではなかった。
本研究の結果はまた、「課題Q」(別の研究課題)に関しても、重要な示唆を与えている。「課題Q」に関しては、Pという可能性が指摘されてきた。本研究の結果はこの仮説を支持する。
本研究はまた、R法による解析の有効性を示した。今後は、R法による解析を他の例にも適用し、本研究で得られた結果をさらに一般化する必要がある。

このような構成には、いくつかの弱点がある。
第一に、主要な結論のあとで、付随する別の結論を述べているが、両者の関係が明らかにされていない。論文の主題と「課題Q」の関係については、読者に対して暗黙の了解を強いている。
第二に、考察の最後を、主題に直接関係のない、方法に関する議論で終えている。今後の課題を書くこと自体は適切だが、あくまでも主要な結論と関連づけて今後の課題に言及する必要がある。
これら2つの問題点は、主要な結論を先に述べ、それに対して説明を加えるという書き方をした場合に、生じやすい。

  • 結論を先に書くことを推奨する主張

酒井聡樹著「これから論文を書く若者のために」では、「考察の章で書くべきこと」の筆頭に、「結果の章で提示したデータに基づいて、こういうことを明らかにしたという主張を展開する」という項目があげられている。そして、次の書き出しが「例1」としてあげられている。

本研究の結果は、ベガルタ仙台が強い理由の一つは、牛タン定食を食べることにあるという仮説を支持している。以下に、その論拠を述べる。(以下略)

一方で、「考察の章で書くべきこと」の最後には「結論を述べる」という項目があげられている。そして、結論とは、一般的には以下の三つのいずれかを訴えるものと解説されている。

結論1:「こういうことを明らかにしたという主張」を訴えたい。
結論2:「より一般的な学術的意義」を訴えたい。
結論3:「今後の発展」を訴えたい。

そして、結論を書く場所は、以下が原則であると指摘されている。

結論1の場合:考察の最初または最後に書く(最初に書くことを推奨)
結論2と3の場合:考察の最後に書く。

私の考えでは、上記の「結論2」と「結論3」は、論文で記述した結果から導かれる結論ではない。これらは結論の意義付けであって、結論自体とは区別するほうが、誤解がないと考える。
結論1は、必ず書かなければならない(ただし、私は結論を「主張」するという表現は、適切ではないと思う)。結論1については、「最初に書くことを推奨」すると書かれており、そして、「考察の最初に結論を述べた場合には、考察の最後に結論を改めて書く必要はない」と述べられている。
酒井著「これ論」のほかにも、以下のような主張が目にとまった。
論文の書き方(http://www.csg.is.titech.ac.jp/~chiba/writing/)によれば、「最後まで読まないと全体の意味が不明な文章-これを書いてはいけない」と指摘されている。この指摘は文章の書き方に関するものであり、考察の構成について述べたものではない。しかし、この考え方を考察に適用すれば、結論を先に書くべきだという考えにいたるだろう。
ビジネス文書の書き方に関しては、「起承転結」ではなく、「結承転提」が基本形という主張がある(http://business.nikkeibp.co.jp/article/skillup/20070507/124250/)。そして、この基本形について、論文の書き方と同じだと言及している記事がある。

  • 結論を考察の最後に書くべき理由

私が結論を考察の最後に書くべきだと考える理由は、以下の2点である。
(1) 考察の基本的役割は、結果から結論を導くプロセスを論述することである。このプロセスの論述において、演繹的理由づけをする場合には、まず最初に前提を述べ、次に得られた結果を要約し、最後に両者から結論を導く。帰納的理由づけをする場合には、13日の記事で図示したようなロジックツリーにもとづいて、結果から第一要約がいかに導かれるかを述べ、続いて、より高次の要約がいかに導かれるかを述べる。いずれにせよ、論理の流れに沿って記述をする限り、結論を最後に置く以外ない。
(2) 結論は重要なので、アブストラクト、イントロダクション、ディスカッション(考察)の3箇所で繰り返し書くのが良い。結果や論証の重複は避けるべきだが、結論は重複して書いても構わないのである。このような書き方をした場合、考察を読む読者には、すでに結論が与えられている。したがって、考察の冒頭で結論を述べる必要はない。

  • 結論

考察の最初に結論を書くのが良いという酒井らの主張は、至極もっともである。このように書くことで、読者は結論を念頭に置きながら、論述を読み進むことができる。「最後まで読まないと全体の意味が不明な文章」は、確かに読者に不親切だ。
しかし、この問題を解決するには、最初に要旨を提示すればよい。この記事の冒頭には、以下のように要旨を書いた。

論文をある程度書きなれている人にとっても、考察において結論を先に書くか、後に書くかは、悩ましい問題ではないだろうか。結論を先に書くほうが、読者には親切である。しかし、結論を先に書いてしまうと、考察の結び方に苦労する。結論をもういちど繰返すのは冗長だし、結論以外のことを書いて結ぶと、最後がしまらない。今日はこのテーマをとりあげ、結論は最後に書くべきだという考えを述べる。

科学論文の場合、これに相当する要旨が冒頭に置かれる。さらに、イントロダクションの最後で、問題を提示するかわりに、基本的な結果と結論を書くことが推奨されている。私もこの推奨は適切だと思う。
このような構成にしたがって書かれた科学論文では、読者は結論を知ったうえで考察の論述を読み進むことができる。したがって、考察の最初に結論を書く必要はないのである。
結論を考察の最後に置こう。そして、ロジックツリーを参照しながら、結果から結論への論証の流れを決めよう。この方針を採用すれば、論理的によく練られた、結びのしまった考察が書けるだろう。