論文を書くために読むべき本

今日は定例のEnglish seminar. Chiris Woodさんに論文のイントロダクションに書き方について、英語で講義をしてもらった。私も、"How to write the Introduction" というパワーポイントスライドを用意して、Chiris Woodさんの講義をフォローしながら、英語で解説をした。改訂中のT君の原稿をサンプルに使って、結果から結論をどう導くか、先行研究に対する結論の意義をどう導くかの「手順」について、この間に整備した標準的プロトコルを解説した。この「手順」については、もうすこし練り上げたうえで、公表したい。
T君の原稿は非常に良く書けていたので、こうすれば格段に良くなるという改訂例を示すうえで、格好の題材になった。T君の原稿がかかえる最大の問題は、「先行研究に対する結論の意義」がうまく説明できていないことだった。これをうまく説明するという作業は、論文を書こうとする大学院生にとって、最大の難関である。この難関を突破するための具体的な作業手順を考えてみた。「先行研究に対する結論の意義」を絞り込むプロセスで、自分で日ごろ無意識に行なっている作業を意識化し、手順化してみた。同様な手順を、結果から結論を導くプロセスについても具体化してみた。
このような作業をする過程で、論文の書き方や、文章の書き方一般について解説した本を、手当たり次第に買い集めて、斜め読みしてみた。その中で、いまでもかばんの中に入れて持ち運び、時々参照しているのは、以下の3冊だけである。
「論文の書き方」を題材としていながら、構成が練れていない本や、文章がわかりにくい本が少なくない。そのような中で、買って損をしないと保証できるのは、以下の3冊だけだった。

新版 考える技術・書く技術 問題解決力を伸ばすピラミッド原則
バーバラ・ミント(著)
ダイヤモンド社 ISBN:4478490279

世界のビジネススクールに圧倒的な影響力を持つバーバラ・ミントの古典的名著。名著のゆえんは、第一に、構成がしっかりと練られている。第二に、「ピラミッド原則」という軸がしっかりとしている。この「原則」は、帰納法を駆使して情報を体系化する手順を示したものなので、結果から結論を導くプロセスや、先行研究のレビューから未解決の問題を特定するプロセスにそのまま応用できる。第三に、帰納法演繹法の関係が実践的に整理されている。知的生産に携わる者にとっては、必読書のひとつである。
論文の書き方についての本ではないが、本書の内容の大部分は、論文を書くうえで役立つものである。前回、前々回の記事を書くうえでも、参考にした。

科学者・技術者のための英語論文の書き方―国際的に通用する論文を書く秘訣
ロバート・M. ルイス (著), エバン・R. ホイットビー (著), ナンシー・L. ホイットビー (著)
東京化学同人 ISBN:480790566X

数ある類書の中で一冊だけ買うなら本書を推す。イントロダクションの最後に主要な結果と結論を書くこと、ディスカッションを文献のレビューにしないように注意すること、など重要なポイントが明記されている。本書は英語の書き方についての実践的な解説でもある。thatとwhichの使い分け方、時制、冠詞など、日本人が苦手とするポイントについて適確な解説がある。
ただし、バーバラ・ミントの上記の本に比べると、構成や論理の練りこみが甘い。論文の書き方についての自然科学者の理解は、経験則の域を出ていないのが現状なのだと思う。

これから論文を書く若者のために 大改訂増補版
酒井 聡樹 (著)
共立出版 ISBN:4320005716

本書についての紹介はもはや不要だろう。生態学分野の大学院生なら、ほとんどみんなが読んでいるに違いない。私の研究室でも、大学院生の本棚にはたいていこの本が目立つ位置に並んでいる。
しかしそれでも、大学院生はなかなか論文が書けない。とくに、イントロダクションが書けない。
私は以前から、「イントロ折り紙」には疑問を感じていた。今回は、その疑問を私なりに解決したつもりでいる。この点については、機会をあらためて記事を書きたい。