アセスメントと保全のアクション:IUCNの実践事例

午後のセッションでは、レッドリストのためのアセスメントの実例報告と、保全タスクフォースによるいくつかの哺乳類の保全アクションの実例報告を聞いた。
南アフリカでは、市民をトレーニングして、全種を対象にレッドリストのためのアセスメントを実施している。日本とやり方が似ていて、とても興味深かった。おそらくこの類似は、偶然ではない。10年以上前に、IUCNレッドリストカテゴリー改訂のためのワークショップを東京で開催したとき、南アフリカから参加したWilliam Bond博士が、日本のやり方を聞いて、とても参考になったと褒めてくれたのを記憶している。William Bond博士が日本のやり方にヒントを得て、市民によるモニタリングという方法を採用したのではないだろうか。
保全タスクフォースによる報告(インドのクマの保全など)では、科学者が地元の住民と一緒にconservation visionを議論して、conservation goalを共有することが大事だということが強調されていた。しかし、話の中には地元の住民の生活がまったく登場しなかった。共同体の外からおしかけて、地元住民を「教化」することが大事だと言っているような気がして、あまり共感できなかった。
アセスメントにせよ保全のアクションにせよ、日本での取り組みは、世界に誇れるものだと実感した。
夜は8時半から10時半まで、植物の専門家グループ長の意見交換会があった。IUCNはカリスマ的な動物を大事にするが、植物には冷たい、というような話題とか、world plant assessmentを提案して植物の地位をあげようというような議論が続き、こちらもやや不満を感じた。全体として、現場から遠い研究機関でデスクワークをしている人が多いのだ。日本と南アフリカは、保全の現場と研究者が接している点で、欧米とは事情がかなり違う。
私からは、過去と現在を比較して、どれだけ種が減っているかを大まかにでも把握することが大事なので、昔からフロラがよく調べられている地域を選んで、世界中で過去と現在の比較をしてはどうかという提案をした。また、過去と現在の写真を比較できれば、変化を視覚的にアピールできるということも発言した。日本では当り前のことが、まだ当り前ではないと感じる。
この会議のあと、Kew植物園のF氏と立ち話をしているうちに、彼が中国のCryptomeria fortuneiは日本から持ち込んだものだと主張したので、やや激しく反論した。F氏は、実物や自生地をみずに種の範囲を広くとる傾向があり、以前も日本の針葉樹の分類に関して議論をしたことがある。実物や自生地をよく見ている地元の研究者の見解を尊重しないのは、好ましくない態度だと思う。
2日間を通じて、IUCNという組織のなかでのアジアの比重が低いことを痛感する。日本からの参加が私だけというのも、バランスを欠いている。もうすこしアジアからのインプットを増やしたほうが良いと思う。