植物の多様性維持機構への質問

日本進化学会「夏の学校」での私の講演に対して、yamadaさんから、3つの質問をいただいた。以下はこれらの質問への回答。

?Yahara先生のお考えでは、植物の多様性維持機構を最もよく説明する説は
ニッチ分化説で、中立説も重要だが、中規模かく乱説やジャンセン・コンネル仮説は
特殊なケースを説明しているに過ぎない、ということでしょうか?

はい。ただし、提示した証拠は、屋久島の森林に生育する樹木と草本にもとづくものです。里山や河川敷では、かく乱に対する適応戦略の分化がより高い頻度で見られます。
なお、かく乱に対する適応戦略の分化も、一種のニッチ分化です。中規模かく乱説は、かく乱という要因に対するニッチ分化説とみなしてよいと思います。

?上が正しいとすると、植物の多様性を保全するには
 微地形等の物理環境の多様性を維持することと、その間の人為的な障壁を
 つくらないようにすることが最も有効な手段となるのでしょうか?
 そういった手段と比較すると、里山の手入れのような、
 人為的にかく乱を起こさせる、という様な手段は、
 優先度が低くなることになるのでしょうか?

上記のように、里山ではかく乱に対する適応戦略の分化の相対的重要性が高いのです。また、保全対策上の「優先度」とは、種多様性維持という一点のみで決定されるべきではないでしょう。里山を代表するような種や景観の保全自体が、里山保全では重要視されていると思います。
ただし、植物の種多様性全体の維持という点では、微地形等の物理環境の多様性を維持すること、その代替目標としては、できるだけ多くの面積を保全緑地として残すことが、決定的に重要だと思います。

?また、そのような認識に立つと、外来種が真に問題となるのは、
 移動の簡略化よりも、世界中で地形の多様性が減少している
 (同じような都市が増えている)ことの方に主に原因があるということに
 なるのでしょうか?

はい。外来種の蔓延を促進している大きな要因は、都市環境や富栄養水域に代表される人為的環境の拡大です。したがって、外来種を駆除するだけでは、解決しない場合が多い。外来種問題の大部分は、生態系管理の問題だと思います。
もちろん、侵入のチャンスが増えていることがもうひとつの大きな要因です。したがって、侵入をふせぐ水際作戦が非常に重要です。