花粉一粒でPCR

昨日は、キスゲプロジェクトの共同研究者のひとり、Sさんに研究室に来ていただいて、花粉一粒からDNA配列を決定する「技」の実習をしていただいた。私は学内の会議(環境WG)で報告をするため、実習に立ち会えなかったが、参加者の感想を聞くと、なかなかインパクトが大きかったようだ。
現在、ハマカンゾウ×キスゲのF2雑種を使って、圃場でアゲハチョウ類やスズメガ類の訪花行動を観察している。ハイビジョンカメラで撮影した動画記録により、どの花からどの花に移動したかがすべてわかる。8時半の実験終了後に柱頭から花粉を回収し、花粉一粒PCR分析により、どの花からどの花に花粉が運ばれたかを判定する計画である。
花を訪問したとしても、花粉を運ぶとは限らない。ハイビジョンカメラで撮影した動画によれば、アゲハチョウ類の場合、訪花して吸蜜した場合、ほとんど常におしべにさわっている。しかし、翅が柱頭にふれて花粉がつく機会は少ないようだ。午後6時の時点で、ルーペで花粉が柱頭に付着している割合を調べてみると、吸蜜した花の一割程度にしか花粉がついていない。
一方、スズメガ類は5−6割の率で花粉を柱頭につけるので、この数字を見る限り、送粉効率はアゲハチョウ類より高い。しかし、スズメガ類によって柱頭につけられた花粉には、自家花粉がかなり多い可能性もある。スズメガ類はホバリングするだけでなく、キスゲ属の花にもぐりこむ。このとき、アゲハチョウ類の場合に比べ、やくや柱頭にかなり乱暴に触れている(ボディアタック、という感じ)。だから、自家花粉が柱頭にかなりついていそうである。この割合は、花粉一粒PCR分析をすれば、バッチリわかる。花粉一粒PCR分析の結果から、どの実験個体の花粉がどれだけ他個体に運ばれたか(いわゆるmale fitness成分)もわかる。花粉一粒PCR分析は、送粉生物学にとっては強力な武器である。
もちろん、花粉が柱頭につくことと、実際に受精することとは、同じではない。受精成功を調べるには、種子の遺伝子型分析が必要である。現在進行中の圃場実験では、種子の遺伝子型分析も併用して、各実験個体の繁殖成功を評価する計画である。

今は港区の三田共同会議所にいる。これから中央環境審議会自然環境部会に出席し、尾瀬国立公園の指定に関する議題を審議する。