誼和会

九大理学部には、誼和会というスタッフの同窓会がある。今日は、その誼和会の懇親会がファカルティクラブで開かれた。
事前に申し込んでおいたのだが、今日から岐阜大のKさんチームが来福されるので、今朝参加をキャンセルした。しかし、Kさんチームとは今日は5時ころに分かれたので、誼和会の懇親会に参加できることになった。
大先輩のM先生に、理学部2号館の出口を出たところでお会いしたので、キャンセルをキャンセルして、懇親会に出席した。
M先生は、乾杯の挨拶で、湯川秀樹先生の思い出として、「少数派の重要性」について話をされた。時代に迎合する雰囲気が顕在化している中で、いかにも理学部らしくて、良い挨拶だった。
物理の教授と、四元数の話をした・・・高校で学んだ数学で一番面白かったのは、複素数だ。私には虚数という発想がとても新鮮で、面白かった。いかにも役に立ちそうにない、知的な遊びとしか思えない体系だ。しかし、実は複素数は工学的な応用に使える数学だということを、大学に入ってから学んだ。抽象の世界の夢が、急に俗っぽい現実に変わってしまった。その後、複素数の拡張として、四元数というものがあることを知って、エキサイトした・・・そんな話をした。物理の先生には、四元数に興味を持つような人が、生物の研究をしているのは不思議だと言われた。
化学の教授とは、環境ホルモンの話とか、地球温暖化の話をした。化学というのは、やはり現実世界との接点が大きな学問なのだと感じた。生物学は、役に立たない学問・・・のはずだった。
私が大学時代に、N末陳平議員が、「科学研究費でゴキブリの研究に補助金を出している。こんな役に立たない研究に国民の税金を使って良いのか」という趣旨の国会質問をしたことがあった。批判にさらされたのは、確かゴキブリのフェロモンに関する研究だったと思う。ゴキブリホイホイの開発につながる、実に役に立つ研究だ。私が研究していた、ヤブマオの無性生殖などというテーマに比べれば、圧倒的に役にたつ。しかし、当時の政治家の常識的感覚では、ゴキブリの研究、いや、そもそも生物に関する研究は、役にたたない研究の象徴だった。
それがどうだろう。今や、生物学は、もっとも役にたつ学問になってしまった。政府がライフサイエンスにつぎ込んでいる「重点研究費」は、2000億円をこえている。科学研究費補助金の総額より多い。科研費の総額は、たしか1800億円。理学も工学も農学も医学も、人文科学も社会科学も含む科研費の総額より、ライフサイエンスへの重点研究費の額のほうが大きい。
もっとも、現実には、役に立ちますよと言いながら、役に立たない興味本位の研究をしているケースが少なくない。パイが膨らめば、「遊び」しろも増えるのだ。
これから怖いのは、生物学に重点投資をしてみたものの、ライフサイエンスはたいしてもうからない、という評価が下り、研究開発投資が縮小されることだ。だから、「役に立つ」という公約を掲げて研究をしている研究者には、ぜひ本当に役に立つ研究をしてほしい。それが、国民の税金を使う者の責任だと思う。「遊び」は余技として、二足のわらじを履いていただきたい。
私のような、「役にたたない」ことを公約している研究者ですら、実際には環境保全などで、世の中の役に立っている。一見役に立たない研究でも、市民や小中学生を相手に眠気がさめる話題を提供できるという効用はある。
ひさしぶりに理学部の同窓会に出てみて、理学の雰囲気の良さを楽しめた。しかし、やや物足りない面もあった。最近、こんな面白い発見があったんだよ、というような話をもっと聞きたかった。