大掃除と忘年会

今日は研究室の大掃除と忘年会。毎年恒例の行事である。月末は何かと慌しいので、最近はやや早めに実施している。
今年は、助手時代以来、段ボールに詰めたままで持ち運んだ荷物を開封して、整理した。懐かしい物件が次々に出てきた。
京大生協食堂の食券。30円2枚と10円4枚で一綴り。30年前のものだ。今は、生協食堂にもICカードが導入されている。食券なるものがあったなんて、昔話になってしまった。
「植物と自然」「インセクタリウム」「アニマ」など、今はなき雑誌たち。確かに、インターネットでいろいろな情報が得られるようになったが、これらは「編集」というプロセスを経ていない。「編集」というプロセスは、専門書・専門雑誌の出版に携わるプロの編集者によって担われてきた。しかし今や、日本の専門書・専門雑誌の出版は存亡の危機にさらされている。この件については、別の機会に、きちんと書こう。先にいただいたトラックバックの返事も宿題として残っている。
森下正明「ヒメアメンボの棲息密度と移動ー動物集団についての観察と考察」(京都大学農学部昆虫学研究室業績第185号)の青焼きコピー。
これは、あらゆる意味で懐かしい。まず、「青焼きコピー」。ゼロックスすらなかった時代には、これがほとんど唯一のコピー手段だった。厚手のトレース紙にコピーされた原版を、ジアゾ感光紙と重ねて、青焼きのコピー機に通すと、黒い字の部分だけが青焼きに印字される。1枚コピーするのに、30秒くらいかかったと思う。森下さんの論文は150ページ(見開きで75枚)だから、全部コピーするのに40分くらいかかったはずだ。
京大理学部の生物系学生控え室には、森下さんの上記の論文は、Monsi & Saekiの論文などの、青焼きの原紙があった。関心のある学生は、この原紙を借り出して、青焼きコピーを作って、読んでいた。私もその一人である。
当時は、読むべき文献が、本当に少なかった。森下さんの上記の論文は、手書きだが、水準が高く、学生が科学研究の面白さ、緻密さにふれ、独創的な洞察から学ぶ教材としては、比類ない文献だった。有名なMonsi & Saeki論文は、ドイツ語で書かれていて、読むのに苦労した。
しかし、いずれの文献も、ゆっくりとコピーして、じっくりと読んだ。時間はたっぷりあった。情報があふれ、「学ぶべき」ことが多い今日とは大違いだ。
今では、インターネットで、何かのキーワードで検索すれば、多量の文献やウェブサイトがヒットする。全部丁寧に読んでいては、人生がいくつあっても足りない。この時代にこそ、どのような情報を得るかという主体性が試される。
私は、フローとしての情報よりも、レビューされ、編集され、体系化された情報、つまり「本」が好きだ。良い本をじっくり読むことで、得られるものは多い。
ブログに比べれば、考えることにたっぷりと時間を使って書き、友人や編集者の査読を受け、何度も書き直して、そうやって本を作ってきた。
しかし、本が売れなくなれば、そのようなじっくりとした知的生産の場が、失われてしまうかもしれない。
「この件については、別の機会に、きちんと書こう」といいながら、さらに書いてしまった。いずれ、もっときちんと書きたい。今夜はこれにて。