「妖怪大戦争」&「夏子の酒」

このところ、マジメな話題が続いたので、今日はイメチェンしてみる。
まずは、まじめないきさつから。
昨日は、九州大学理学部と福岡県高校理科部会が共催した研修会の講師をつとめた。高校の先生を相手に、「進化学への招待」というタイトルで、90分の講演をした。
進化に関する基本原理を、次の3つに整理して、できるだけわかりやすく紹介した。

(1)自然選択による表現型の最適化(適応)
(2)分子進化の中立性(遺伝的浮動
(3)遺伝子と生物の系統関係(歴史)
  a) 遺伝子の系統樹(遺伝子重複による多様化の歴史)、b) 生物の系統樹(種分化による多様化の歴史)

その準備のために夜更かしをしたので、講演が終わったあと、次の仕事に取りかかったものの、はかどらない。ひたすら、眠い。
こういうときは、さっさと寝て、睡眠不足を解消するに限るのだが、時計を見るとまだ午後3時台である。寝るにはさすがに早い。
キャナルシティAMCの上映スケジュールをチェックすると、16:20から「星になった少年」がはじまる。ちょうど良いタイミングなので、すぐに研究室を出て、中洲川端に向かった。
小雨が降っていたので、中州川端の地下鉄を出てすぐの、中州大洋にまず立ち寄ってみた。すると、16:10からちょうど「妖怪大戦争」が始まるところだった。この映画を見た卒研生が、「BB級映画でした」と評していた記憶が、脳裏をかすめたが、キャナルシティまで歩くのは面倒だし、寝不足のときには、「BB級映画」も良いか、と思って、予定を変更して、「妖怪大戦争」を見た。
私は往年の水木しげるファンで、彼のマンガはほとんど読んでいる。京極夏彦宮部みゆきについては、ファンというほどではないが、何冊かは読んで、好感をもっている。「妖怪大戦争」は、原作者の荒俣宏に、この3人が加わったプロジェクトチーム「怪」が脚本のアイデアを練ったそうなので、いくらBB級映画でも、見る価値はあるだろうと思ったのだが・・・。

激しく脱力した。

ギャグはどれも、寒い。私のダジャレより、寒いゾ。妖怪映画だからとって、ここまで寒くしないでくれ。映画館の冷房も寒かった。
麒麟送子が主役だから、キリンビールかょ〜。寒い。
魔人加藤が妖怪をごぼう抜きして「機怪」に変え、東京に来襲。地鳴りとともに、屋台のおでん屋のごぼ天のごぼうが抜けていく・・・。ひょえー。

どのくらいヒットしているのだろうと思って、Yahoo!ニュース - ランキング - 映画、をチェックすると、
おおおっっ、3週目の「亡国のイージス」、7週目の「宇宙戦争」を抑えて、2週目で堂々の4位! 「スターウォーズ・エピソード3」を急追しているぞ・・・。
もっとも、これでもか、これでもか、と戦闘シーンを見せつける映画が多いなかで、主人公の危機、人類の危機を、妖怪のお祭り騒ぎが救う映画がヒットするのは、喜ぶべきことかもしれないなぁ。
確か、ぬらりひょん忌野清志郎)が、「どうやら勝ち戦のようですな」と言うと、妖怪大翁(水木しげる・ご本人)が、「戦争は、いかん。戦争は、腹が減るだけじゃ」とのたまわく。この映画では、多くの妖怪は無責任で、能天気。悪役は、人間に捨てられた道具の恨みと合体させられた「機怪」。このあたりの設定は、プロジェクトチーム「怪」のポリシーなんだろう。
いくつかのブログで感想を読んでみると、概ね好評だ。「ワクワクする思いに満ちた愛と平和の冒険ドラマ!」と絶賛している人もいた。
ラストシーンで、大人になった主人公には、もはや妖怪が見えなくなっていた。
この映画をすなおに喜べない私のような者は、子供心をなくしてしまったのだよと言いたげだ。
私は、妖怪が見えなくなったんじゃなくて、寒いギャグが笑えなくなっただけですよ。それに、川姫のひざまくらとか、オジさん受けネライ見え見えのシーンを見せられちゃ、童心には帰れませんよ、宮部先生!
子供にしか見えない「妖怪」と言えば、JoJoを思い出す。NHKみんなのうた』で平原綾香が歌った、『ハローアゲイン、JoJo』に登場する、かわいらしいドラゴンである。この歌の歌詞は、JoJoの伝説があることだけを語っていて、とても不思議な世界を作り出している。聞いた人、ひとりひとりが、自分の想像力をはたらかせて、物語を思い描いてみることができる。これこそ、ファンタジーだ。
実写版の妖怪映画は、二度と見ないことにしよう。
脱力はしたが、心は癒されないままで、このままでは、安らかに眠れそうになかった。何気なく、中州大洋の前のコンビニに立ち寄ってみると、『夏子の酒』完結編が目にとまった。早速買って帰宅。風呂あがりに完読して、やすらかに眠った。
もうずいぶん前のマンガである。連載中に断片的に読んだが、結末は記憶にない。完結編では、夏子が追い求めた吟醸酒が、見事に完成して、ハッピーエンド。目標に向かって懸命にがんばる主人公が、最後に願いをかなえて終わるストーリー。その成功の陰には、悲しい別れもある。ストーリー構成としては古典的だが、描き方は丁寧だし、何よりも作者の酒づくりへの愛情が伝わる。九州大吟醸プロジェクトに関わったあとなので、特に感慨深く読んだ。
尾瀬あきら公式ホームページを見ると、『光の島』も完結していた。これも良い作品だ。早速注文した。