『ゲノム敗北』

羽田空港の書店で次の本を買った。

岸宣仁『ゲノム敗北 知財立国日本が危ない!』ダイヤモンド社
「1:異能・和田昭允の孤独な闘い」に始まり「5:ヒトゲノム解読貢献度6%の悔恨」「11:起死回生の国家プロジェクト」などを経て、「15:ゲノム敗北の教訓を生かせるか」で終わる。関係者へのインタビューにもとづき、わが国におけるゲノムプロジェクトの歴史をレビューした力作だ。事実経過を重視したうえに、臨場感あふれる記述で物語を綴っている。日本語で書かれた科学ドキュメンタリーとしては、出色の出来ばえだと思う。数ある登場人物の中でも、世界に先駆けてDNA配列自動解読装置を構想し、日本の「独創性の芽を摘んでしまう風土」と闘い続け、最終的に理化学研究所ゲノム科学総合研究センターの所長として国家プロジェクトを組織した和田昭允さんに、焦点があてらているのは当然のことだろう。エピローグは「偉大なる奇人、変人、和田昭允の遺産」で結ばれている。

今や、わが国のゲノム研究に投入されている国家予算は、2000億円を超え、科学研究費補助金の総額(1700億円程度)をうわまわっている。科学全分野の競争的研究費よりも、ゲノム研究に投入されている戦略的予算の方が大きいのだ。この現状については、科学者ならずとも、関心を持つ人は多いだろう。このようなわが国のゲノム研究について何かを語るなら、まずこの本を読むことを薦める。