安保法制関連法案の強行採決は「集団浅慮」だ

以下の記事をJB Pressに書きました。

私は、第二次安倍内閣がスタートしたとき、安倍さんがリアリストとして落ち着いた政治を進められることを期待しました。この期待をこめて、2回ブログを書きました。

「皮肉なめぐりあわせですが、タカ派とみなされている安倍次期首相が現実路線をとって日韓、日中の関係改善に努めるのは、日本にとっては朗報です。これをリベラル派がやれば、タカ派から批判されますが、安倍次期首相がやれば、日本の総意として、歴史に残っていきます。」

「菅新官房長官が、「これは自民党にとって最後のチャンス。この内閣で失敗すれば、自民党は終わる」と発言していたことが印象に残りました。選挙で大勝したといっても、自民党への支持が回復したわけではなく、民主党が自滅しただけです。夏の参院選までに新内閣への失望がひろがれば、今回の民主党の敗北は、明日の自民党の姿でしょう。そのことを幹部はわかっていますね。」
 残念ながら、先の衆議院選挙で自公が3分の2の議席をとって以後、安倍内閣は現実路線から逸脱して、イデオロギー的政策に傾斜し、解釈改憲に突き進んでいます。しかし多くの国民は、安倍さんに落ち着いた政治と経済政策を期待しているのであって、安保法制を急ぐ必要があるとは考えていません。ほとんどの憲法学者が反対している状況で強行採決するのは、いくらなんでもまずいんじゃないの、というのが、常識的な意見だと思います。政治がこのような常識を逸脱すると、国民としては落ち着くことができません。民主党から自民党に代わって、せっかく政治に落ち着きがでてきたと思っていたら、またしてもごたごたしてきた、自民なんか嫌だな、という雰囲気になってきました。
上記の記事を書いたあとの毎日新聞の世論調査では、内閣支持率が35%、不支持率が51%で、不支持率がついに5割を超えました。

毎日新聞は17、18両日、安全保障関連法案の衆院通過を受けて緊急の全国世論調査を実施した。安倍内閣の支持率は今月4、5両日の前回調査より7ポイント減の35%で、第2次安倍内閣発足後で最低となった。不支持率は前回より8ポイント増の51%と初めて半数に達した。与党が15日の衆院平和安全法制特別委員会で安保法案を強行採決したことについては「問題だ」との回答が68%で、「問題ではない」の24%を大きく上回った。安保法案への世論の批判は強まっており、政府・与党の一連の対応が内閣支持率を押し下げたとみられる。(毎日新聞)

同じ日程で実施された共同通信の世論調査では、内閣支持率が37.7%、不支持率が51.6%でした。
強行採決前に実施された時事通信の世論調査では、安倍内閣の支持率は40.1%、不支持率は39.5%、朝日新聞の世論調査では、安倍内閣の支持率は39%、不支持率は42%でした。調査主体・方法が違うので、単純な比較はできませんが、強行採決によって支持率が低下し、不支持率が増加したことは間違いないでしょう。支持率の低下よりも、不支持率の増加が顕著です。
時事通信の世論調査のグラフを見ると、強行採決前の時点で、不支持率が前月比で約10%増加していました。安保法制の審議と強行採決を通じて、不支持率が約20%増加したという状況にあります。
JB Pressの記事が公開された翌日に、決断科学プログラムのFacebookページでこの記事を紹介し、以下のように書きました。

今回の強行採決がどのような失敗につながるかについては、記事の中では書いていません。未来は不確定ですので、必ず失敗するというものでもないと思います。しかし、今後の参議院での審議過程で、内閣支持率がさらに低下し、政権運営の失敗につながる可能性はあります。支持率が30%を割り込む事態になれば、選挙での公認を得るうえでの「同調圧力」が弱まって、自民党内で批判的な意見が強まる可能性があります。衆議院への差し戻しを経て法案が成立しても、違憲訴訟が起きるでしょうから、安倍内閣はより長期にわたって安保法制への批判に耐え抜かなければならないでしょう。現在の安倍内閣は、経済政策での強いリーダーシップにより生まれた安倍さんへのハロー効果で支持されている面がかなりあるので、安保法制問題での強行によってこの効果が薄まれば、一見盤石に見えた政権運営が挫折する事態もあるかもしれません。

支持率・不支持率の動向は、第一次安倍内閣の政権末期の状況を思い起こさせるものになってきました。第一次安倍内閣では、不支持率が支持率をうわまわって以後、支持率は下がり続け、不支持率は増加を続けて、支持率が3割を切り、不支持率が6割をこえた後に、安倍さんは辞職しました。
私は、安倍さんの信念を考えれば、安全保障関連法案を成立させれば自分は退陣しても良い(退陣をかけても、法案を成立させよう)、と考えているのではないかと思います。このようなリーダーの強い信念こそが、集団浅慮をもたらす要因です。人間には強いリーダーを求めがちな心理的傾向がありますが、社会が判断を間違えないためには、この心理的傾向を克服する必要があります。批判的意見に耳を傾ける理性的な態度こそが、これからの時代のリーダーに求められるのだということを、あらためて強調しておきたいと思います。

追記:各社の世論調査をまとめたグラフ。不支持率が急増し、支持率が急落しているのがよくわかります。