国際ワークショップのハシゴ

土曜日にFuture Earthのアジア地域ワークショップ(クアラルンプール)から戻り、明日からは、アジア陸水生物多様性保全に関する国際ワークショップを伊都キャンパスで開催する。今夜は、国内外の参加者が博多駅周辺で懇親を深めたはずだが、私は失礼して、大学院生の原稿を改訂したり、明日の講演準備をしたりした。”Urgent"というファイルのメモを見ると、クアラルンプールに発つ前には5つぐらいに減っていた緊急業務が、再び10を超えている。・・・というようなことは、ブログでは書かないと決めたのに、つい書いてしまった。
Future Earthのアジア地域ワークショップの議論は、やっぱり概念論。Future Earthを主導している移行チームのリーダーたちは、政策決定者と協力して、solution-oriented research(地球環境問題の解決をめざした研究)を推進するというのだけど、DIVERSITAS事務局長のアンさんをのぞき、生物多様性条約のことも、愛知目標も、何も知らない。会議中に何度か、問題解決をめざすなら愛知目標の実現を支える科学を推進すべきだという趣旨の発言をしたが、大半の参加者が愛知目標を知らないのだから、議論がかみあうはずもない。ワークショップの問題点について議論する場が最後にあったので、「もっと相互に学びあう時間が必要だ。私は生物多様性の専門家なので愛知目標などに詳しいが、他の多くの参加者は愛知目標を知らない。一方、私の社会科学に関する知識は限られている。このようにお互いのバックグラウンドをほとんど知らない中で議論しているので、議論はしばしば飛躍している。」という発言をした。この発言は共感を得たと思うが、さりとて、状況が変わるわけでもない。会議が終わってさよならのあいさつを交わしあっているときに、移行チームのリーダーのひとりに、「solution-oriented researchは必ずしもsolutionに貢献しないよね。もっとsolutionプロセスそのものに関わる必要があるんじゃない?」と言ったら、「solution ?solutionプロセスってなに?」と聞き返されてしまった。
Future Earthがめざす方向自体は良いと思う。しかし、DIVERSITAS,IGBP,IHDP,WCRPなどの既存のメカニズムの枠をとっぱらうことは、軸足を弱体化させるおそれがあり、心配だ。
こういう科学外交に憂き身をやつしていると、データにもとづく地道な研究には心が洗われる。タイ北部で調査をしていたチームメンバーから、トランセクト調査で出現した植物のスライドが届いた。自分で調査に行けなかったのは残念だが、490m地点から2560m地点までの垂直分布をスライドで見れるのは楽しい。