人類の未来を左右する要因

8月6日と13日に決断科学プログラムキックオフセミナーを実施した。テーマは人類の未来を左右する要因。Facebookグループで受講生とやりとりしながら、セミナーを作っていくという、私にとっては新しい試み。これまでの流れをまとめておく。

7月13日

専門分野の研究を深めるうえでも、社会全体について考えられるようになるうえでも、「うまく問うこと」(良い質問を考えつくこと)がとても大事だと思います。
では、ダメな質問と良い質問の違いは何か? 次の例を比べてみてください。
(1)人類の未来はどうなるのだろう?
(2) 人類の未来を大きく左右する主な3つの要因は何だろう?
2つ目の質問のほうが良い質問ですね。ではどういう点が良いのか? 考えてみてください。

8月5日

私のスライドの中に、私の答えを書いておきました。
(1)要因は何か、という問い方によって、仮説の提示を促す。
(2)3つに絞り込む問い方によって、できるだけ独立な複数の要因を探索させる。
人間が関与する複雑な系では、ある出来事にたくさんの要因が作用していることが一般的です。したがって、どれかひとつだけを取り上げて、それを大事だと考えるべきではありません。作用している要因の候補を複数あげて、それらの中から、より重要なものを決めていく、という考え方が適切です。

8月6日(セミナーのスライド)

Basic modes of questions

  • What? A question on nature of an object; a vague question
  • Where? A question on place; one of key questions in scientific description
  • When? A question on time; another key question in scientific description
  • How good? – Qualification
  • How many? How big? How far? How fast? – Quantification
  • How does a phenomenon happens? – A question on sequence/mechanism
  • Why? - A question on cause; an ultimate question 

8月6日夜(セミナー後)

人類の未来を左右する要因について考えてくださいとお願いしたので、みなさんそれぞれに考えをめぐらされたことと思います。候補となる要因は、人口、気候、エネルギー、食糧、水、病気、災害、戦争やテロ、経済、社会制度などですね。・・・このリストから、主要な要因を3つ選ぶには、どうすれば良いでしょうか。

8月10日朝

第2回キックオフセミナー(今日)で使うスライドをメールで送りました。そのスライドの中で使っている、子供の死亡率の変化、所得の変化、二酸化炭素排出量の変化などをビジュアルに表現したグラフについては、Gapminder Worldというサイトで、動画で見れます。TEDでハンス・ロスリングがよく使っている動画です。とてもわかりやすく、インパクトがあります。ぜひご覧ください。

8月10日夜

第2回キックオフセミナーが終わったところです。・・・人類の未来を左右する諸要因は、死亡率・所得などの指標に影響する駆動因(driver)と、これらの駆動因に対する人間側の対策(response)に二分されると思います。前者のうち、今後さらに脅威が増大するのは、病気・災害・気候です。・・・一方、対策の点では、科学技術・教育・社会制度・経済が重要です。これらは、・・・(=対策)として一括しても良いと思います。科学技術・教育は、一番最初の候補リストにはあげていませんでしたが、筋道をたてて考えてみると、あらためてその重要性に気付かされました。この決断科学プログラムの教育自体が、環境・災害・健康という大きな課題への対策として、有意義な貢献ができるように、今後も努力したいと思います。

8月10日夜Facebookグループ外への発信

今日のセミナーで主としてとりあげた話題は、Gregory Clark (2007) A Farewell to Alms - A Brief History of the World、および Steven Pinker (2011) The Better Angels of our Nature から抽出した。Jared Diamondの主張もとりあげたかったが、30分程度の短いプレゼンでは、話題をしぼる必要があるので、指標にもとづいて人類の状態を評価するというアプローチに限定した。安全性、所得、平等性などの指標で評価すれば、いま人類はもっとも良い状態を実現している。産業革命以前には、人口が増えれば一人あたりの所得は減るという、有限な総所得の分配におけるトレードオフ関係があったが、産業革命後は総所得が急速に増え続けたために、人口も一人あたりの所得も増え続けてきた。この背景には、暴力(戦争・テロなど)の減少、医療の進歩による、人間の寿命の増加がある。・・・まだ内戦が続いている国もあるし、3.11のような特異点も生じたものの、全体として暴力(戦争・テロなど)は減り続けている。一方で増え続けている脅威は、生活習慣病・ガンなどの病気と、大規模化するハリケーンや猛暑・干ばつなどの気象災害だ。このような脅威は、所得とともに増えている点に特徴がある。所得を維持しつつ、これらの脅威を下げるには、科学技術と教育が対策として重要になる。