「銀の匙 Silver Spoon」「抱きしめたいー真実の物語」「神様のカルテ2」

矢原@クアラルンプールです。成田からの機内では、邦画を3本観ました。「銀の匙 Silver Spoon」「抱きしめたいー真実の物語」「神様のカルテ2」・・・3本連続で涙を流すなんて、めったにない。「アナ雪」の大ヒットのせいで、邦画の影がすっかり薄くなっていますが、実は良い作品が次々に公開されていたんですね。
銀の匙」は、原作漫画が良いので、原作には及ばないだろうとあまり期待せずに観たのですが、予想に反して素晴らしい作品でした。長編の原作を2時間程度にまとめた脚本はすばらしい。進学校から逃げ出して北海道の農業高校に入学した八軒君が最初に直面する壁は、子ブタからかわいがって育てた「豚丼」(子ブタの名前)の出荷。八軒は出荷された「豚丼」の肉を買い取り、燻製にして、クラスメイトとベーコンを食べるパーティを開きます。「命」と向き合う中で、友情をはぐくみ、八軒が成長していくという原作のテイストがしっかりと生かされた脚本です。電気ショッカーで気絶させたあと、血抜きをして、皮を剥いで、解体をするという過程が、しっかりと描かれていて、「食育」の映画としてもお勧めです。
酪農農家のきびしい現実もしっかりと描かれています。最初は反発しながら友情をはぐくんだクラスメート駒場君の農家が倒産し、駒場君は高校をやめていきます。八軒君が直面したこの壁は、高校生にはどうしようもない。落胆する八軒に中島先生がかける言葉が力強い。「駒場のことなら心配するな。駒場には開拓民の血が流れている。・・・」「八軒は逃げてきた。いいじゃないか逃げて。逃げ場がなく出荷される家畜とは違うんだ。夢がなければ探せばいい」。
自分に何ができるかを考えた八軒は、・・・。ここから先は観てのお楽しみですね。生きる元気がもらえる映画です。八軒役の中島健人、ヒロインの広瀬アリスがともにさわやか。中島先生役の中村獅童は、はまり役。子ブタの飼育を教える富士先生役の吹石一恵さんは、いろんな役がこなせる女優さんで、毎回感心させられます。
「抱きしめたい―真実の物語」は、実話の映画化。ご主人と子供が、主人公の小柳つかささんを偲ぶ2014年のシーンから始まるので、結末は最初からわかってしまいます。映画はそこから、二人が出会う2008年へ。出会いのシーンで主人公が車いすで登場し、両足に障害をかかえていることや記憶障害があることが描かれます。ここで、ストーリーもほぼ想像がついてしまいます。この映画が秀逸なのは、ほぼネタバレをしたうえで、登場人物の心情や交流を丁寧に、誠実に描くことで、心暖まる感動を生みだしている点です。この映画づくりは難しかったと思います。小柳つかささんが亡くなられてから、まだそれほど時間が経っていない。ご主人もお子さんも、お母さんも、ご主人のご両親も、まだ割り切れない思いをかかえていらっしゃるはずです。この実話を映画化する以上、製作側は、誠実さに徹するしかない。誠実に作るというのは、言うは易く行うは難き課題です。この映画は見事にこの課題に応えたと思います。まず、主演の二人が良い。錦戸亮さんは文字通り誠実にご主人を演じています。北川景子さんは、あまり好みの女優さんではなかったのですが、彼女の演技に圧倒されました。彼女のベストアクトと言ってよいのでは。障害を持っていることが自然に見える日常と、その日常のなかで時に垣間見える強い意志を、見事に演じています。こんな人なら、障害を持っていても気にせずに好きになっちゃいますよね。そして、つかささんのお母さんを演じた風吹ジュンさん、ご主人の父親を演じた國村隼さんの二人がとても良い。母と娘、父と子の葛藤と心の交流が、観る者の心にしみわたります。親との葛藤を乗り越えて二人は結ばれ、子供も誕生するのに・・・。最後はやっぱり泣いちゃいました。脳性まひブラザースをはじめ、障害を持つ役者さんが自然な形で共演しているところも見どころです。
3本目は、「神様のカルテ2」。1は観ていないのですが、独立した作品として観れました。信州松本の本庄病院につとめる医師栗原いちと(櫻井翔)と、その妻でカメラマンの榛名(宮崎あおい)の主人公夫婦に加え、今回はいちとの同級生だった優秀な医師進藤(藤原竜也)とその妻(吹石一恵)、本庄病院を支えてきた貫山医師(柄本明)とその妻(市毛良枝)が加わり、3組の夫婦が物語をつむぎます。
栗原は日夜を問わず地域医療・救急医療に取り組み、週末の休みもなかなかとれない暮らしを続けています。患者に時間をかけすぎるため、本庄病院のトップからは効率が悪いと批判されています。その本庄病院に、かつては「医学部の良心」と呼ばれた進藤が東京の医院をやめて赴任してきます。しかし、定時出勤・定時帰宅し、患者への対応も短時間で、周囲からの信頼を損ねます。栗原は怒りますが、進藤は妻を東京に残し、娘を松本で育てているという事情がありました。進藤の妻も、栗原の同級生。やはり医療に情熱を傾ける医師なのですが、娘の病気のときに起きた医療トラブルから、娘よりも患者を優先する生き方に傾斜し、進藤はそれに耐えかねて、娘を連れて松本に転勤してきたのでした。
やがて貫山医師が末期がんにおかされていることが判明し、進藤は貫山医師の治療に携わります。その治療の過程で、貫山夫婦と進藤夫婦の心の交流が描かれます。貫山と進藤は、日夜・休日を問わず地域医療に情熱を傾け、一見家庭を顧みない生き方をしていました。しかし実は、貫山と進藤は、妻たちと心を通わせ、生きる支えとなっていたのでした。進藤はやがて、妻を追い詰めたのは自分であることに気付き、東京の妻に電話をかけて詫びるのでした。
日夜・休日もない医療現場の厳しさの中で、誠実に生きる医師たちの苦悩を描きながら、夫婦のあり方というもうひとつの大きなテーマをとりあげています。共に医師である進藤夫婦がかかえる問題は、映画の中では解決されていません。「神様のカルテ3」でどういう展開になっているのか、気になるところです。
脚色が行き過ぎていると思うところもありますが、人への思いやりがベースにあるので、嫌味がありません。柄本明さんを筆頭に、俳優陣の演技がすばらしく、見ごたえがあります。良い映画でした。