屋久島世界自然遺産20周年シンポでのツイートのまとめ

東京日帰り出張から帰宅。今日出席したシンポジウムでは、聞き役だったので、講演・討論の内容をツイートし続けた。ツイッターは、こういう記録をとるとき、すごく便利だ。以下、そのツイートを転載。

  • 屋久島世界自然遺産登録20周年記念シンポジウムin東京@東大弥生講堂、開会。参加者は目算で150名くらい。知人はほとんどいない。観光、岳参りなど、生態学と直接関わりがないテーマなので、研究者はほとんど参加していない。パネルディスカッションでどんな意見が出るか楽しみ。
  • 最初の講演は、屋久島自然保護管事務所の加藤倫之さんによる、自然遺産20年のあゆみー登録の効果と残された課題。まず経緯の紹介(年表)。1991年屋久島環境文化懇談会ではじめて遺産登録に言及。1992年に登録。
  • 遺産地域の地図。屋久島面積の21%。登録された理由は、顕著な普遍的価値(自然美と生態系)、国内法による保護。管理体制は、関係行政機関(環境省林野庁、鹿児島県、屋久島町)による連絡会議、およびその助言機関としての科学委員会。
  • 遺産登録の影響。屋久島が有名になった。雑誌創刊、登山用品店による屋久島紹介、移住ブックまで出版された。訪問客30万人。第3次産業の増加、とくにガイド業の発達。昨年9月時点で162人。第3次産業の生産額も増加。人口減少も緩和されている。
  • 山岳部の施設整備→ハードの拡充。里の利用拠点も整備。3つのセンター、自然館など。一方で利用に関する仕組みの導入:マイカー規制、し尿搬出体制など。自然環境・利用実態を調査し、順応的管理を推進。
  • 残された課題は大きく2つ。山岳部の利用とヤクシカ。今日は前者をとりあげる。利用者の増加による影響:生態系への影響(ヤクシカの人慣れ、ゴミ投棄、踏みつけなど)、利用体験の質への影響(混雑、不衛生化、施設の故障)。利用者のリスクの増大:疲労・持病・食中毒が多い。
  • 施設の維持管理費の不足:一口500年の募金。し尿搬出量の増加のため、支出を募金でまかなえていない。環境保全のための施設整備で利便性が向上したが、その結果、「登山者」ではなく「観光客」による山岳部の利用が増加。58%が普段は登山をしない人。
  • 維持管理コストの増加と、利用体験の質の低下に対する対策が必要。1:「どういった体験を通じて何を感じてもらいたいか」の決定が必要。2:その要求水準(利用体験の質)に応じて整備水準を設定する。3:「観光客」を「登山者」にする仕組みの導入。4:受益者負担による管理。
  • 加藤さんの講演終了。わかりやすい講演だったと思う。課題の提案も明快。
  • 宮之浦岳参り伝承会の中川正二郎さんによる講演「屋久島・岳参りの復活」。海・山・川、あらゆるところに神がいる。沢を渡るときにはせき払い、立ち小便のときには川にごめんと謝る。御神木で寝床を借りる時は塩で清める。ヤクシマシャクナゲには山の精霊が宿る。
  • 岳参りとは、約500年前より伝わる集落行事。集落ごとに登る山があり、集落の安全を祈願する。前岳頂上に集落の祠がある。奥岳には三岳(永田、宮之浦、栗生岳)。24集落中21集落が岳参りを復活。
  • 宮之浦地区。9年前に復活。春(旧暦5月)、秋(9月)。益救神社→浜で禊ぎ→砂とり。車で淀川登山口へ。淀川小屋から宮之浦岳へ。花の江河の祠は帰りに参る。山頂まで約4時間。鹿児島が見えたのは17回中1回だけ。一品法寿大権現、山の神の両方を祀る祠。塩・米・焼酎・お賽銭を供え、砂をまく。
  • 帰路の大切な用事。春はシャクナゲのつぼみ、秋はシャクナゲアセビの枝を、お土産に持ち帰る。古来のならわしに従う。花の江河の祠(170年前に宮之浦の青年が作った)。宮之浦に戻り、花の枝を配る→床の間に飾る。まち迎え:婦人会が用意したぼた餅。地区によって食べ物が違う。
  • なぜ今、岳参りが復活し、見直されているのか。世界遺産登録後に山のあり方が変化。有史以来の脚光をあび、多くの人が山に入るようになった。遭難や事故も増加。良くも悪くも、山との関わりが濃厚になり、自然発生的に各地の集落で復活した。
  • 中川さんが関わった遭難事故は20年間で17件。奥岳9件中、8人が死亡、4人はいまだに不明。前岳+白谷8件→全員無事。このような事故に関わるなかで、永田地区の岳参りに参加し、山に対する敬虔さに心を打たれた。最近の登山者には、山への畏敬の念が欠如。畏敬、感謝が自然に対する心構え。
  • 岳参りの話を環境省のイベントですることになろうとは予想しなかった。岳参りでは花を採る→環境省は守る側。数年前、O担当官のときに、環境省スタッフと一緒に岳参り。そして今日に至った。環境省の対応に感謝している・・・良い話でした。
  • 次は、柴崎茂光さん(国立歴史民俗博物館)。世界遺産登録後の利用動向についての講演。まず来島者アンケートの結果から。空港、港での対面調査。来島者数:5万人(1970)→40万人(2007年)→37万人(2010年)。性別:37%(97)→52%(12)。
  • 秋・冬は50-60代、春・夏は20-30代が多い。大都市圏からの女性の個人客が中心(20-30%)。縄文杉、白谷雲水峡、いなか浜の利用が増えている。春・夏には6割の観光客が縄文杉を訪問。その7割が混雑を感じている。混雑の原因:シャトルバス運行による総数増加、エコツアー利用増。
  • 年間平均で来島客の35%がエコツアーを利用している。パッケージツアー客がエコツアーも利用している。入り込み数は2010年以後減少傾向、土産物購入額も減少、里の価値が減少。
  • ブランディングのあり方。岩手県遠野市「ふるさと村」の例。里地には魅力的な観光地がないのか? 千尋滝など。一次産品・加工品の販売。林業・環境に特化した図書館・映像資料館の設立。矢祭もったない図書館の例。失われる文化遺産:貯木場あと、官行集落あと、林業集落の生活経験の記憶・記録など。
  • 抜本的な解決を目指すための対応。対症療法的な対応。縄文杉とはどういう場所であるべきか、など・・・島民、とりわけ若者も交えて、議論を繰り返すしかない。科学委員会→実質的には管理計画改訂のために設置された科学委員会になっている。
  • 質問1:さっそくシカ対策。具体的にシカは増えているのか、対策の実情は。加藤さん:増えいているだけでなく、分布域も拡大。平成21年からヤクシカ対策。県とも協力。質問2:またシカ対策について。保護から駆除へ。柵を作って動物園みたい。猟友会、地元住民との関係。加藤さん:猟友会と連携。
  • 質問3:山でのマナー。ガイドさんは説明している。学生さんが個人で入って、怪我してしまう。そういう学生への教育は? 加藤さん:地元の人との交流を通じて学ぶことが大事だろう。
  • パネルディスカッション開始。司会は、東京農工大の土屋俊幸さん。パネラーは、離島経済新聞の鯨本あつこさん。日本には6852個島があり、有人島は420。この中で屋久島は知名度高い。屋久島の人の面白さも伝えたい。
  • 次は、日本交通公社理事の寺崎竜雄さん。観光屋として参加。観光の負の側面が強調されると肩身が狭いが・・(正の側面もある)。最近一週間滞在してみて、すごいところだと感じた。レンタカーが増え、観光屋目線でみると、曲がり角だと感じる。
  • 次は山と渓谷社の神谷有二さん。山が好きな者としては、人が多そうでいやだなという印象。山の問題は、屋久島で解決できなければどこでも解決できないだろう。
  • 次は、荒木耕治屋久島町長。平成20年には40万人が来島。自然環境の保全と利活用の両立をいかにはかるかが課題。縄文杉への一極集中からの分散化のために、龍神杉歩道を整備。し尿対策としては携帯トイレの普及。岳参りには永田岳に。朝もやの中に群生するヤクシマシャクナゲの花に心奪われた。
  • 次は講演者の一人、中川さん。神様の話をしたが、山の中に観音様、写経などを置いていく人がいる。これは困る。今日は山の神の日。大潮で、山に入らない日。山姫が塩をとりに降りてくる日。地元には、この日に来島者が山に入ることへの批判がある。
  • 次は柴崎さん。もともとは地域経済活性化のために林業経済を研究していた。しかし地域に入ってみる中で、純粋な経済学から社会学民俗学に。一方で、妻が屋久島出身。博士論文のために7-8カ月屋久島で暮らした。地元に寄り添いながら、研究をしたい。
  • 司会:はじめは山岳部利用の話題から。中川さん:遭難が気になる。奥岳には素人が単独で入ることを禁止したほうが良い。環境省が道標を増やしたこともあり、ここ2年は事故が起きていないが。地元にとってはこわい場所。マナー面では心に訴えること、神様へのおそれを持つことが効果的。
  • 中川さん:山の雑誌の中には、山の中で撮影されたチャライ写真が掲載されている場合がある。神谷さん:山渓では、登山者と登山客を分けている。この線引きが、本来はあってしかるべき。しかし、富士山も含めて、この線引きが成功した例はない。
  • 寺崎さん:先月末5日間屋久島に滞在。白谷と縄文杉は敬遠。西部と川を見た。川はすごい。しかし、みんなが私と同じ行動をとったらどうなるだろう。レンタカーも増えたしシャトルバスも整備された。資源、利用者の目線、社会経済、住民の目線・意思という4つの視点で考えていく必要あり。
  • 柴崎さん:視点が違ってしまうかもしれないが、世界遺産(の利用?)が観光だけで良いのか。建設業や農業・漁業が低迷する中での観光へのシフトがある。公的機関がさまざまな選択肢を出すべきだ。
  • 司会:2番目の里の問題に移ったので、そこも含めて。鯨本:人も含めて自然。島では自分たちが島を守っているという意識が強い。そこに外の者が「世界遺産」という指定をしている。「生命の島」という雑誌が自然遺産指定よりも前に発刊されている。伐採反対の歴史。そういう精神性がすごい。
  • 荒木町長:1割以上は外からの移住者。いろいろな価値観の方がいらっしゃる。もともと島に住んでいる者と移住者の間に温度差があるのも事実。保全か伐採かで揺れた歴史がある。2つの町は昭和に合併しておくべきだった。いま合併をして6年目、ようやく自分たちの島を自分たちの目線で考える時が来た。
  • 中川:観光客は明らかに減っている。ピークの40万人から約30万人へ。民宿が増えて受け入れ準備は整ったのだが。もうすこし増やしたい。また特定の季節に集中しているので、分散化をはかりたい。屋久島はこのままでいてほしいと言われるが、われわれだって文化的生活をしたい。
  • 中川:地元は保守的。外部からの発想は有益。神谷:富士山や槍ヶ岳の代わりに別の場所を用意できない。10ページの屋久島特集があるときに、2ページに(縄文杉など重要スポット以外の)他の魅力を発信し、時間をかけていく必要があるだろう。
  • 寺崎:小笠原で屋久島を参考にしている。フロントランナーとしてしっかりしたビジョンを出してほしい。鯨本:これまでの議論で欠けている点。情報の作り方を考える必要がある。屋久島を取材するときにどういう言葉で発信するか。情報デザインを考える必要。
  • 柴崎:(山の)観光だけでない屋久島の魅力を高めることで、山の利用も減り、来島者も楽しんでもらえるのではないか。いまの屋久島の子供たちは、世界遺産に登録されたから守らなければならない、という生活実感から離れた意識でいる。子供たちに原体験をさせる必要があるのではないか。
  • 司会:屋久島の多様さが浮かび上がった。山岳部だけでなく、いろいろな産業があるし、文化がある。約1割が島外からの移住者という面もある。このような多様性の中で議論を深めていく必要がある。これにてシンポジウムは終了・・と思ったら、会場から発言したい人はいないかというフリ。
  • 関東屋久島会の方。ふるさとは遠くにありて、ではなくて、ときどき帰省しようという呼びかけをしている。観光客減少に危機感を持っている。地域振興を考えてほしい。生物多様性水力発電。海外に向けた戦略展開をお願いしたい。ときどき帰省するのに運賃が高い。羽田からの直行便がほしい。
  • 鹿児島-屋久島間の運賃が高い。トッピーも高い。森林鉄道の復活・・屋久島特区で実現したい。水力発電と電気自動車の普及。将来は水素電池の活用まで考え、国際的レベルでのレベルアップを考えてほしい。
  • 日本山岳会の近藤さん:世界自然遺産からはずされるのではないかという危機感をもったことがある。町長:取り消されることはないと思う。

これでパネルディスカッション終了。

  • 閉会のあいさつは、鹿児島県の則久さん。20年前に屋久島環境文化村構想。近代産業文明が失った大事なものを軸にした構想だった。地域の文化・伝統を生かす議論をしたいと考え、シカ問題ははずしてプログラムを組んだ。11月23日には屋久島で記念式典を実施する。今日の議論はそこで生かす。